警察(けいさつ)の取調室(とりしらべしつ)。刑事(けいじ)を前にして、憔悴(しょうすい)しきった男は誰(だれ)に言うでもなく呟(つぶや)いた。
「俺(おれ)がやった。あいつは悪魔(あくま)だったんだ。俺が止(と)めなきゃとんでもないことに…」
「どういうことだ?」刑事は柔(やわ)らかな口調(くちょう)で話しを促(うなが)した。男は俯(うつむ)いた顔をあげると、
「あいつは…山木早紀(やまきさき)って言うんだが…。本名(ほんみょう)かどうかは分からない。でも、あの女は…人の心(こころ)が読(よ)めるんだ。今まで何人もの男を死(し)に追(お)いやった。俺は…手を貸(か)すしかなかった」
「人の心が読めるって…。それはどういう…」
「相手(あいて)が何を考(かんが)えてるのか分かるんだよ。だから俺は…、偶然(ぐうぜん)に任(まか)せたんだ」
刑事はため息(いき)をついて、「どうも、お前の言ってることは…。分かるように説明(せつめい)してくれ」
「そうだな。俺も最初(さいしょ)はそうだった。あいつと出会(であ)ったのは、中央公園(ちゅうおうこうえん)だった。あいつはひとりでベンチに座(す)って通り過(す)ぎて行く人を眺(なが)めていた。俺は職(しょく)を失(うしな)って金(かね)もなかったから、そいつの鞄(かばん)を盗(ぬす)んでやろうとしたんだ。だが、あいつは俺の手をつかんで言ったんだ。<お金が欲(ほ)しいんなら、あたしと手を組(く)まない>ってな…。最初は小銭(こぜに)を稼(かせ)ぐ程度(ていど)だったんだ。それが、どんどんエスカレートして、いらない人間(にんげん)を消(け)してしまおうって…」
「現場(げんば)にあった毒薬(どくやく)はそのためのものだったんだな。どこで手に入れた?」
「あいつが用意(ようい)したんだ。俺は、あいつが飲(の)んでいた薬(くすり)の中に紛(まぎ)れ込ませた。いつ死ぬかは神(かみ)のみぞ知(し)るだ。二、三日して戻(もど)ってみると……。安(やす)らかな死に顔(がお)だっただろ」
<つぶやき>彼女はほんとうに悪魔だったのか? 他(ほか)の生き方はなかったのでしょうか。
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