学校(がっこう)からの帰り道。僕(ぼく)はいつも土手(どて)の道(みち)を歩くことにしている。通学路(つうがくろ)じゃないけど、こっちの方が近道(ちかみち)なのだ。普段(ふだん)はほとんど人と出会(であ)うことはないのに、今日は僕の前を同じ学校(がっこう)の女の子が歩いている。近づいてみると、それは同じクラスの――。
その女の子はちょっと変わっていた。教室(きょうしつ)ではいつも静(しず)かに座(すわ)っていて、おしゃべりもあまりしない。誰(だれ)かと親(した)しくするわけでもなく、過(す)ごしているようだ。僕は声をかけた。
「お前(まえ)ん家(ち)って、こっちの方なのか?」
その子はちょっとびっくりしたようだが、うなずいて言った。「今日の風(かぜ)は青(あお)いね」
僕は思わず訊(き)き返した。「お前…、風が見えるのか?」
「何となくよ。何となく、感(かん)じちゃうんだ。今日のよしこ先生(せんせい)はピンクっぽかったわ」
「何でだよ。先生の服(ふく)はピンクじゃなかったぞ。じゃあ、ケンタは? 何色(なにいろ)だった?」
「分からないわよ。いつも見てるわけじゃないから…」
「じゃあ、僕は? 僕は何色に見える?」
「えっ、それは…」彼女はちょっと間(ま)をおいて、「ないしょ…よ」
「何でだよ。じゃあ、明日(あした)。ここで待(ま)ってるから。色の話、聞かせろよ」
僕は駆(か)けだした。――次の日から、その子は学校を休(やす)んだ。数日後、先生から彼女が転校(てんこう)したことを聞かされた。僕は、もっと早く声をかければよかったと後悔(こうかい)した。
<つぶやき>彼女には、この世界(せかい)は色彩(しきさい)にあふれていたのかも…。何でないしょにしたの?
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