ここは、とある国のとある場所(ばしょ)…。いかがわしい店(みせ)が建(た)ち並(なら)んでいた。その中の一軒(けん)に、身なりの立派(りっぱ)な男が入って行った。男は、店の主人(あるじ)に声をかけた。
「すまないが…、惚(ほ)れ薬(ぐすり)が欲しいんだが…。それも、上物(じょうもの)のやつだ」
主人(あるじ)は男を一瞥(いちべつ)して、「悪(わる)いが、うちにはそんな薬(くすり)はないよ。他をあたってくれ」
「でも、ユウジから、ここなら手に入ると聞いたんだが」
「あんた…、ユウジを知ってるのか? そうか…。なら、あるよ。上物のやつだ」
主人(あるじ)は店の奥から小さな薬瓶(くすりびん)を持ってきた。その中には、黒い丸薬(がんやく)が入っていた。
「これを飲ませれば、どんな女もいちころですぜ。旦那(だんな)…」主人(あるじ)はニヤリと笑(わら)った。
男は薬瓶の中の丸薬を見て、「これは、何が入ってるんだ?」
「そうさなぁ、イモリの黒焼(くろや)きと、薔薇(ばら)の刺(とげ)、月長石(げっちょうせき)の粉(こな)…。それと、ハハハハッ…。これ以上(いじょう)は教えられないなぁ。真似(まね)されちゃ困(こま)るからねぇ。現金払(げんきんばら)いだ。いいかな?」
「もちろんだ」男は懐(ふところ)から金の束(たば)を出して主人(あるじ)の前に置いた。主人(あるじ)は金を受け取ると、
「いいかい、その薬を飲ませると、女は一瞬(いっしゅん)、気を失(うしな)う。そして、目覚(めざ)めたとき最初(さいしょ)に目に入ったものに惚(ほ)れちまうってわけだ。それが同性(どうせい)でも、人間(にんげん)でなくてもだ。旦那、気をつけなさいよ。女を手に入れたいなら、必(かなら)ず女の目の前にいることだ」
「ああ、気をつけるよ」男は不気味(ぶきみ)な笑(え)みを浮(う)かべて、「人間でなくてもか…。気に入った」
<つぶやき>まさか、悪巧(わるだく)みに使おうとしているんじゃ。そもそも、そんな薬あるのかな?
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