ことば咀嚼日記

日々読んだ活字を自分の頭でムシャクシャ、時にはゴックン、時には、サクサク咀嚼する日記

「プール」は果たして癒し系か

2009-09-15 | 日記
「私、ここにいるとなんだか死なないような気がするの」
                          桜沢エリカ「プール」

「プール」を見ると眠くなった、という人はたいてい男性だと思います。90分間、特別何も起こらないで、最後までいってしまう。DoingかBeingかと、聞かれればまさにBeingの世界観で描かれた映画です。
私は90分間、目を凝らしてじっと見入ってしまいました。つま先をプールにおそるおそるつけた時の、水が足先とつめに触れる感覚、チラシ寿司と、酢豚とサラダの夕食、タイ鍋のスープをすする場面、外で洗濯を干す時の空と風、バナナのてんぷらを口に入れたときのかりっという音。

「癒し系」っていったい何を指すのだろうか。この映画は癒し系とか言われていますが、私は、逆に少ないせりふの間から、母と娘の緊張感(特に娘の)がぴりぴり伝わってきて、それで一時も目を離すことなく見て しまったのだと思います。何も起こらなかったというのも表面的な話で、心の中のことはわからない。人の心の感じはぜったいわからない、ということが良く分かる映画。

論理的に整合性のとれた映画や小説が、限りなくうそっぽく思える今日このごろであります。よくわからない現実をそのまま良くわからなく描いてあるものが好きです。

タイの風景や、優しい人々や、林の緑や鳥の声が癒し系だとか、まったりした雰囲気の食事が癒し系だとか。うそでしょう。本当に傷ついた魂がそんなもので癒されるなんてありえない。癒されるのは、母と娘の静かな火花が飛ぶようなタイ鍋の場面の会話があったからこそ。「癒す」というのは本来、かなり激しい行為ではないかと思っています。血がどくどく流れ、涙が枯れるくらいの苦しみの後にくるものこそが本物の癒しです。

これは家で見るより、映画館の大画面で見たほうがずっといいです。細部にまでじっと目を凝らすと、眠っている暇がないくらいです。静かな映像の内部で何かが激しく動いている映画です。

2 Comments

コメント日が  古い順  |   新しい順
プール  (いのすき)
2009-09-18 22:55:26
今日、観てきました。
癒し系の映画ではありません。
でも、家族ゆえの想いがある・・・
ふと母と自分を考えました。
返信する
Unknown (水辺の浜猫)
2009-09-21 22:06:43
いのすきさんもいろいろ考えられたんですね。
これは分かる人は分かる、分からない人は分からない、そして分からない人は寝るので癒し系、分かる人は寝られないので、覚醒系の映画ですね。
返信する