ことば咀嚼日記

日々読んだ活字を自分の頭でムシャクシャ、時にはゴックン、時には、サクサク咀嚼する日記

憑依

2016-06-01 | 日記
図書館からリクエスト本が入ったとの連絡で、何の本をリクエストしたかも忘れて、ともかく受け取りに行きました。渡されたのは「あの日」オボカタさんの本でした。
いやあ、すっかり忘れた頃に、というか、前日雑誌で寂聴さんと対談している復帰のオボカタさんを見たばかり。いいタイミングでした。その日のうちに読み終えましたが、感想は、「難しい・・・買わんでよかったかも」・・・です。
専門の生物学知識があったらスラスラ読めるのでしょうが、いろいろ横文字とか出てきて、私にはチンプンカンプン。
素人でもわかったのは、オボカタさんは、細胞にちょっと傷をつけて、何か酸性の液をたらしたら、おしりがピカピカ青く光るスタップ細胞の赤ちゃんを何度も作れた。そのマウスを山梨大の先生に渡したら、キメラマウスとかいうスタップ細胞の親玉ができた。神戸の大先生も、神戸の偉い所長さんも皆でよってたかって、できた!できた!と騒いだ。神戸の一番偉い先生が、さらさらっと、オボカタさんの稚拙な論文を、審査に通るように書き直してくれて、二回目の国際論文審査にパス。ところが発表直後から、神戸の内部の人から匿名で「この論文、インチキ」という記事がネットで流れ、途中から山梨の人も、「やっぱやめとこ」と言った。オボカタさんにはわけがわからなかった。山梨の人は、あのマウスはどこの由来だ? もともとあったイーエス由来か。だれだ!そんなコンタミをさせたのは? オボカタさんは、山梨の人がひっこした後、私のマウスの何匹かが忽然と消えていたといっているが、山梨の人には山梨の人の言い分があって・・・・オボカタさんからもらったマウスが純ではなかったと言っている。

ああ。もう何がなんだかわからなくなりましたが、読んでいて思ったのは、オボカタさんの20代後半からの余りにもとんとん拍子登りつめ人生です。修士の時点で、生活費を気にしないでもよい潤沢な奨学金を確保。博士課程でやりたい研究の相談に行くと、すぐスポンサーがつく。紹介者も現れ、ハーバードに2回留学。帰ったら、神戸の研究所で最年少のリーダーとしてポストが与えられ・・・・実験すれば、日本で一、二を争う研究者のバックがつき論文を代行執筆してもらえ、・・・
こんなにトントン拍子で物事が上手くいくのは、きっとだまされているのに違いない、と私なら思ってしまうのですが、まったく疑うことを知らないピュアな性格なのか、挫折経験が少ないのか、そこが一番不思議でした。
また、この一連の出来事には、責任者がいないというか、その時々で強力な人物が現れるのですが、みんな舞台の上で好き勝手に自分の夢を追っているだけというか、総合的にすべてを管轄する人がいないままに、何かの力によって動かされていた不思議な事件でした。憑依という言葉を連想しました。
一番かわいそうだったのは、オボカタさんが二回目のハーバード留学が決まって、日本の大学院の人たちに、宴会の帰り、道端でミニスカートのまま、胴上げされた時、最後の受け止めが甘くて、頭を道路にぶつけたことです。この事実が一連のすべての顛末を予想しているようで、こわくなりました。