ショスタコーヴィチ:交響曲 第7番 ハ長調 作品60 《レニングラード》
録音年:2017年
録音場所:ボストン、シンフォニーホール
録音方式:ライブ
指揮者:アンドリス・ネルソンス
楽団:ボストン交響楽団 👇 💁
〘 …それは、ナポレオン戦争もドイツのソ連侵攻もロシア側にとり祖国防衛戦争であった点です。ロシアの祖国防衛戦争で負けたのは侵略軍です。
しかし、今回の戦争はロシアの祖国防衛戦争ではなく、ロシアの他国侵略戦争です。…
…このまま戦争を継続すれば、ロシアは「国破山河在 城春草木深」となるでしょう。
筆者はそうならないことを切に祈るのみです。
(杉浦 敏広)〙
〘 クラシック音楽が好きな経営者や政治家は多い。仕事に直接役立ちそうもないが、「欧米のエリートと対等に渡り合うには必須の教養」と作曲家の三枝成彰氏は断言する。特に交響曲(シンフォニー)はオペラと並んで重要だ。聴けば西洋の近現代史や文学、美術への教養も広がる。クラシック入門としてまずは交響曲から聴いてみよう。…
…最近話題に上りがちなのが「第7番『レニングラード』」。第2次大戦のレニングラード攻防戦を題材にした。ひのまどか著「戦火のシンフォニー レニングラード封鎖345日目の真実」(新潮社)が2014年に出版されたほか、1月2日にはNHKの特集番組「玉木宏 音楽サスペンス紀行 ショスタコーヴィチ 死の街を照らした 交響曲第7番」が放映された。第2次大戦中に楽譜がマイクロフィルムで密輸され、米国で演奏された逸話を持つ。迫り来るナチスドイツ軍との総力戦を行進曲風に描く30分の長大な第1楽章から勝利のクライマックスを築く第4楽章まで、戦争の悲劇を描きながらも最後に大きな感動が待っているところが人気の理由だろう。…(映像報道部 池上輝彦)〙
〘 text:林 昌英(2019年6月28日 )
この数十年で演奏機会が著しく増加した作曲家といえば、ドミートリー・ショスタコーヴィチ(1906〜1975)は筆頭候補に挙げられるだろう。交響曲第5番だけは以前から広く聴かれていたものの、30年近く前にはかなりのマニアが聴く作曲家という扱いだった。それが「平成」の時代に広く受け入れられ、プロアマ問わず多くの作品が積極的に演奏されるようになり、いまやプロオーケストラでショスタコーヴィチのない年間スケジュールは考えられないほど。本連載の趣旨にぴったり合致する作曲家のため、いずれ複数の作品を取り上げることになるが、その最初となる今回は、「レニングラード」と呼ばれる交響曲第7番を扱いたい。単独でコンサートが成立する大作であり、指揮者やオーケストラにとって「勝負曲」的な存在でもある。今年に入って本作をテーマにした番組(NHK BS『玉木宏 音楽サスペンス紀行』)が放送されるなど、作品成立についての特殊な背景を踏まえて、改めて注目が集まっている。
1941年6月、ヒトラーのドイツ軍が、独ソ不可侵条約を一方的に破ってソヴィエト連邦に侵攻を開始。9月にはレニングラード(現サンクトペテルブルク)がドイツ軍に包囲されてしまった。それから44年1月まで封鎖が続き、熾烈な攻防戦と過酷な飢餓により死亡した市民は約70万人とも100万人以上とも伝えられる。この「レニングラード包囲」は映画などの題材にもなっており、ご存じの方も多いだろう。…
…ソヴィエトでの初演(42年3月)は国家的一大イベントとなり、全国にラジオ放送されて熱狂的に歓迎された。そればかりか、反ファシズムを掲げる西側諸国の代表、アメリカ合衆国にはスコアがマイクロフィルムのかたちで極秘裏に運ばれ、本作のアメリカ初演の権利を巡って名指揮者たちが争奪戦を繰り広げた。7月のアメリカ初演は、イタリアの名指揮者トスカニーニ(彼もファシズムに抵抗し母国を離れた象徴的存在だった)の指揮で行われ、これも中継が放送された。そして、包囲下のレニングラードでも、生き残った楽員が集結して8月に本作を演奏、しかもドイツ軍に向けてその模様をスピーカーで流したという。ひとつの音楽作品が上記のような破格の役割を果たしたことは、それまでの音楽史全体でもほとんど類例がないだろう。
ただ、楽曲の評価や解釈は様々で、作品の真意についても、作曲者自身が友人に「ファシズムについてというより、われわれのシステム、あるいは、あらゆる形態の全体主義的体制について語っている」(千葉潤著『作曲家◎人と作品 ショスタコーヴィチ』音楽之友社 より抜粋引用)と話しており、内容の捉え方については研究と議論が続いていくだろう。
芸術作品としての歴史的背景や解釈についての研究は重要だが、その上でここで改めて注目したいのは、本作の楽曲としての「面白さ」である。3管編成の大管弦楽に、別動隊の金管群も加わるという、ショスタコーヴィチ作品中でも最大級の編成。しかも約70〜80分かかる大曲で、要所では大音響をたっぷり浴びることができる。あえて単純に言えば「オーケストラを聴く楽しさ」に満ちていて、エンターテインメント作品として圧倒的にハイレベルで面白い、という点は押さえておきたい。… 〙
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