それで、「中村主水(~もんど)は映画『必殺!主水(もんど)死す』(1996年)で死んだはずでは?」という疑問が出るのはもっともであるが、これは時代設定を考えるとわかる。
『必殺!主水死す』で死んだ主水は1851年ごろにその生涯を閉じたが、『必殺仕事人2007』の時代設定はは1820年で、『2009』は『2007』の続編だからだ。
『必殺!主水死す』では冒頭で葛飾北斎が没しており、これは西暦1849年のこと。また、作中で中村主水が水野忠邦を暗殺しており、これが忠邦の没した1851年とすれば、時代設定は1849年から1851年までを含む西暦1850年前後。
一方、SP版『必殺仕事人2007』では冒頭で「文政三年二月十四日」という字幕が出るので、文政3年とは西暦にすると1820年である。
つまり、『2007』における世界は『主水死す』から30年前の話であり、1851年ごろに死んだ主水が1820年に生きていても不思議はない。
問題は、『主水死す』以前の作品の必殺で、1853年以降の幕末を舞台にした作品に登場した主水である。
1854年、2度目の黒船来航と日米和親条約締結のとき、主水は横浜で開かれた日米会談の護衛を任され、1858年の日米修好通商条約のとき、中村主水は日本とアメリカの親善野球大会の日本代表監督を任されている(「正史」では、野球は1873年=明治6年に日本に傳来した)。
また、主水は1860年に桜田門外で井伊直弼を暗殺し、1863年には清川八郎と組んで横浜で裏稼業。陰暦の1866年末、陽暦の1867年初めに慶喜が将軍になった時代、主水は『ブラウン館』で描かれた仕事をしており、1868年には鳥羽・伏見の戦いに出陣した。
これについては1702年の赤穗浪士による吉良邸討ち入りを題材にした『必殺忠臣蔵』と1982年ごろの『必殺現代版』を考えれば、服部半蔵や山田朝右衛門のように、あらゆる時代に中村主水が存在したと解釋できる。
すると、1851年ごろに小屋の爆發事故で没した中村主水は江戸時代に複数いた中村主水の一人であり、1853年の黒船のときの仕留人(しとめにん)・主水は別人。
また、『主水死す』の主水と『2007』の主水も30年の時を隔てて年齢は同じくらいなので、親子ほど年が違うと考えたほうがいい。
『仕事人2009』では絵師の仕事人が登場する。過去の必殺では安藤廣重と葛飾北斎が依頼人か、その関係者のような立場で登場したが、画家がそのまま仕事人というのは初めてではないか。
必殺でなじみの深い芦屋雁之助が山下清という画家を演じたのも何かの因縁か。
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