星月夜に逢えたら

[hoshizukiyo ni aetara] 古都散策や仏像、文楽、DEAN FUJIOKAさんのことなどを・・・。 

七月大歌舞伎 昼の部 通し(2)

2010-07-30 | 観劇メモ(伝統芸能系)
この演目を観るのは初めて。
浅草歌舞伎の愛之助さんの綱豊卿も見ていない。
ただ、3年前の歌舞伎座の舞台は歌舞伎チャンネルの映像で見ていたので、
仁左衛門さんと染五郎さんのやりとりがナマで見られるのは楽しみだった。

三、元禄忠臣蔵
御浜御殿綱豊卿(おはまごてんつなとよきょう)
第一幕 御浜御殿松の茶屋
第二幕 御浜御殿綱豊卿御座の間
  同 入側お廊下
  同 元の御座の間
  同 能舞台の背面


徳川綱豊卿:仁左衛門   富森助右衛門:染五郎
御祐筆江島:笑三郎    上臈浦尾:竹三郎
中臈お喜世:孝太郎    新井勘解由:左團次


江戸城松の廊下で浅野内匠頭が吉良上野介に斬り付けられた事件から一年。
次期将軍と目されている徳川綱豊の別邸御浜御殿では、年中行事のお浜遊
びが催されている。現状への批判を胸に抱きながらも、遊びに興じて政事
には関心がないように装っていた綱豊だったが、師である新井勘解由には
赤穂の浪人達に仇討ちをさせてやりたいという心中を明かす。
そこへ綱豊の愛妾お喜世の兄で赤穂の浪人である富森助右衛門が、吉良上
野介も参上するお浜遊びの見物を願い出る。これを許した綱豊は、助右衛
門から大石の真意を聞き出そうとする。将軍へ浅野家再興を願い出れば仇
討ちは不可能であると言う言葉に対する助右衛門の言動から、綱豊は赤穂
浪士に仇討ちの意思があると確信する。やがて御殿の能舞台は中入りとな
り、吉良の出番が近づく。仇討ちの機会はここしかないと思い詰める助右
衛門は槍を構えてその出を待ち受けるが・・・。

(公式サイト「歌舞伎美人」より引用)



ナマは想像以上だった。
新歌舞伎は淡々としてつかみどころがなく苦手だが、これは違った。
真山青果の台詞はただ美しいだけじゃないんだ~。
いうなればこれは、台詞の一手一手が真剣勝負の殺陣。探り合いながらブ
スブスと攻めてゆき、互いに相手の最大の急所を一瞬のタイミングで捕え
ググーーーッと一気に貫く緊迫感と快感。
七月大歌舞伎では私には一番の演目になった。
夏の松竹座にはやっぱり仁左衛門さんがいなくては困る。
今回の綱豊卿にもキュウウンである。

仁左衛門さんの綱豊卿。
新井勘解由に向かって繰り返す「討たせたいのう」の台詞にまず私は陥落。
言い方次第では、興味本位のオジサマ二人の世間話になりかねない場面。
(わわわ~、失礼!)
ゆっくりと、感情をこめた、あとの台詞の応酬につながる表現が素晴しい。
左團次さんの新井は陰のブレーンとして綱豊を支えつつ、あくまで控えめ
な感じで好感がもてた。

助右衛門とのやりとりはとにかく迫力満点。
台詞の流れや展開はわかっているはずなのに、まるでいまこの場で物事が
進行していっているようなスリルに満ち、途中から涙が止まらなかった。
早く先の台詞が聞きたい、見たいと思わされた。
とりわけ、作り阿呆と助右衛門に言われた後。刀を持って立ち上がり舞台
の前まで出た綱豊卿、目が真っ赤。ふと見ると両頬が涙で濡れている。
元の場所に戻っても綱豊卿の涙はまだ止まらないのか、懐紙を取り、それ
で顔全体を覆って拭き取っておられた。
(3年前の収録映像では片手で目頭を抑える仕草だった。)
ああ、そうだ。台詞は決まっていても、その時にわいてくる感情はその場
限りのもの。ナマの舞台はやっぱりいい。あらためてそう感じた。
権力の座にあって繊細で、しかも若者と差しで勝負しちゃうお殿様にまた
してもホレボレ~♪
涙から一転、助右衛門にチクリと言葉を残し、高笑いで引っ込む綱豊卿。

能舞台の後シテの拵えも美しかった。
武士の義のなんたるかを助右衛門に説いて聞かせる綱豊卿。強く毅然とし
た言葉に客席からも拍手、拍手~。
新歌舞伎らしい美しい台詞のリズムをきちんと聞かせながら、心を打つ
お芝居。これが仁左衛門さんの綱豊卿♪ ひたすら感動です!!

染五郎さんの助右衛門。
ちょうど綱豊卿と助右衛門の立場というか、経験の開きが実際のお二人
ぐらいと思えばいいだろうか。
今回は助右衛門に近い席で表情をわりあいしっかり見ることができた。
初めは相手に背を向け、目線さえ合わさなかった助右衛門。
綱豊卿と会話を交わす間も目線が定まらず、まったく落ち着かない。
前に置かれた盆から煙管をとってせわしなく葉をつめたかと思えば、
コンコンコンコン、カンカンカンカンとやかましく煙管で盆を叩いたり。
やがて相手の言葉に乗せられ、ついに閉ざした扉を開かざるをえなくなる
という、非常にスリリングな状況。
とにかく顔を伝う汗の量が半端じゃなかった。
夜の部の竜馬とは打って変わった染五郎さんの助右衛門、すね者ではあっ
ても若者特有の一途さが前面に出ていて、とてもよかった。
二人の会話から、その場にはいない大石の苦痛の表情までもが目に浮かぶ
素晴しいやりとりだった。

そしてやっぱり、ここに出演していない愛之助さんがこの演目を毎日間近
で見ておられたであろうことを信じたい。

若々しかった竹三郎さんの浦尾。美しかった笑三郎さんの江島。
あら大活躍だわ~の孝太郎さんのお喜世。
特にお喜世に対する、江島の聡明で思いやりに満ちた接し方に大きさを
感じた。


七月大歌舞伎 夜の部(1)(このブログ内の関連記事)
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