星月夜に逢えたら

[hoshizukiyo ni aetara] 古都散策や仏像、文楽、DEAN FUJIOKAさんのことなどを・・・。 

南座顔見世 夜の部「外郎売」

2010-12-24 | 観劇メモ(伝統芸能系)
劇場     京都南座
観劇日    2010年12月18日(土) 
座席     3階11列


歌舞伎十八番の内 外郎売(ういろううり)
   大薩摩連中


曽我五郎:愛之助    小林舞鶴:孝太郎
小林朝比奈:猿弥    大磯の虎:笑三郎
化粧坂少将:春猿    梶原景高:薪車
梶原景時:寿猿     茶道珍斎:市蔵
工藤祐経:段四郎


やっぱり今年はこれから書こう。外郎売。

南座の顔見世を観るようになって5年目。
私の場合、贔屓の役者が出ていようがいまいが劇場のほぼてっぺん
の席が定位置になっている。
(そりゃあ予算が潤沢にあるなら2階最前列で見たいけど。)
昼夜通しも平気だし、感情移入も、落ちるのも自在。そんな後ろで
よく入り込めるねと感心されちゃうけど(笑)特技ですねん。

そしたら先日、女性週刊誌に愛之助さんのうれしいコメントが。
「客席のいちばん後ろまで伝わらなければ駄目ですよね。」
ひゃあそれ、わっちのことですかえ(笑)。





夜の部の口火を切るにふさわしい勢いのある演目。
番付によれば、外郎売はこれまでさまざまな脚色で上演されており、
この「対面」の趣向を織り込んで作ったのは昭和55年。海老蔵時代
の團十郎さんなのだそう。
曽我ものをこんな形で、しかも愛之助さん主演で見られるなんてね。
舞台左正面に「六代目 片岡愛之助 相勤めまして候」の大看板が!
きゃっ、こんなの、愛之助さんの舞台を見始めてから、お初だわ。

舞台に並んだおなじみの登場人物を見て、というより共演者のお顔
を拝見して急に安心感がわいた。
孝太郎さんや薪車さん、前回の鳴神代役時にも共演した市蔵さん、
今年3月・7月の舞台でいっしょだった澤瀉屋の人々、男の花道で5
月に共演した段四郎さん。今回、愛之助さんは客席からだけではな
く、舞台の上でもガッチリ守られて立っているんだと感じた。
(観劇時には知らなかったが「女性自身」のインタビューによれば
今回は茶道珍斎を何百回と演じている市蔵さんの言葉に特に救われ
たとのこと。伝統芸能の素晴しさをこんなところにも感じる。)

孝太郎さん、堂々たる舞鶴だわ。春猿さんの少将、華やかやわぁ。
笑三郎さんの大磯の虎、貫録感じる。
段四郎さんの工藤祐経はでんと構えていて、大きな存在感。
市蔵さんの茶道珍斎は、あとで薬の効能のことで外郎売と絡むのが
見せ場だ。

鳥屋口の奥から外郎売の声が聞こえてきた。
(ええコエ!! ちゃんと3階上方まで届いてるよ♪)
工藤祐経が宴の座興に言い立てを聞きたいと言い出せば、他の面々
も異口同音に言い出す。
外郎売を連れてくるのは小林朝比奈。猿弥さんだ。

花道の出は私には見えないが、階下の観客が振り返り拍手を始めた。
さっさと歩いてきて、七三の位置で腰掛ける外郎売。
浅葱色の衣装に白塗りの顔。目のまわりに赤い曲線を引いたむきみ
の隈だ。あ~、なんてきれいな横顔♪
若くてまっすぐで、どこまでも爽やか~。

名を問われてしばし考え、うん!「六代目、片岡愛之助」というと
ころで大きな拍手。歓迎の笑い声も混じっている。
名乗り終え、本舞台に進み出て口上を。
この大役を初役で勤めます、皆様にはどうかご寛容にご見物くださ
いますよう・・・みたいな意味の口上に大きな拍手。というかすで
に観客を味方にしてしまっている愛之助外郎売なのだ。

薬を自ら飲んで、効いてきた証拠に早口を披露し始める外郎売。
初めはウォーミングアップというのか、丁寧に確実に言っているの
かなと思う。
意味はわからないが聞き覚えのある言葉や、また、音そのものの面
白さに惹き付けられる。途中から加速がついて、わわ、ほんまにス
ゴイ!と。しかも一語一語がきわめて明瞭。
もっともっとこのまま聞き続けていたいと願うもアッと言う間に終
わってしまった感じ。
堂々として、見ている人の視線とハートをガシッと掴んだ言い立て。
一点の曇りもよどみもなく、お見事だった。

祐経のごきげんとりなのか、座を盛り上げようとがんばる茶道珍斎。
これは女を口説くのに都合がいいと、ういろうを一つもらって飲む。
外郎売の早口言葉を自分も真似ようとするがうまくいかない。
それを見て、まじないで手を打つと効き目が顕われる、と外郎売。
「打つ」と言ってしまい、敵討ち、と逸る外郎売、実は五郎。
五郎が祐経のほうに行こうとするので、制止する朝比奈。
(たぶん、ここだったと思うのだが)まるでウインクするような茶
目っ毛ある目くばせでわかったと返す五郎にドキドキ♪ 
代わりに鼓を打たせ、踊るのは化粧坂少将と大磯の虎。
このあたりで、五郎の上半身が真紅の衣装に変わる。
一本気な気性と血気を象徴するようなその色が、よく決まってるの、
愛之助さん。例によって、両足は親指だけをピンと上げた立ち方。

それではおさまらない五郎、やがて奴たちとの立ち回り。
一部始終を見ていた祐経は五郎が河津三郎の子であることに気づく。
五郎は名乗りを上げ、成田屋の演目でよく見る、カッカッカッと言
いつつ手を少しずつあげてゆく、あの所作に。
力む五郎、なかなかの迫力だよ~!
再び引き止める朝比奈。はやまるな、敵討ちなら兄弟いっしょにや
るべしと説得する。(朝比奈の猿弥さん、すごく素敵だ♪)
兄の十郎がここにいないことを残念がる、五郎の思いのこもった声。

寸志の餞だと祐経が包みを投げた。
そこには、自分の居場所を教えた狩り場の絵図面が。
五郎に再会を約束する祐経。
渡り台詞があって、最後は全員の見得で幕。
五郎は目をつむったままなかなか開けない。ためにためてカッッッ
と開いた目で見得を決めた。いやー、カッコイイ~!!

そりゃあ目の大きさは海老蔵さんにはかなわないけど。
目の大小はこの際、問題じゃない。
どだい芸風の違う家の演目なのだ。そんなことは百も承知のはず。
それでもどうすれば歌舞伎の外郎売になるか、歌舞伎十八番らしく
なるかと、貪るように日々追究する愛之助さんの舞台には、心地よ
い高揚感と花形歌舞伎の時のような得がたい一体感がある。
「これは一生に一度、いまここでしか観られない特別な外郎売だ」
と誰もが思いながら見守っている2010年暮れの、清新で鮮やかで
いつまでも記憶に残る外郎売なのだ。
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14 コメント

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ありがとう (瑠衣)
2010-12-24 22:58:22
もう一度見たい「外郎売」をここで再現して頂き、又あの素晴らしさを思い出しました。

上方育ちですから、上方和事や世話物をされると、物腰の柔らかいはんなりした立ち役は演じているというよりも、そこにつっころばされそうな弱腰の男が居る、という感じの愛之助さんですが、荒事をされると、本来の男らしい気性そのもが前面に出てこられて実寸よりも大きく見えます。両方が身に添った芝居ができる役者さんは少ないですが。

いつも言っておられるように、どんな素敵な役者さんでも一人では舞台は出来ない、常に共演者を味方につけ、お客さんをひきつけられる役者が一番です。そこを見込んでの外郎売の代役だったのでは?と女性自身ウエブを読んで思いました。
しかし「考えて下さい」と言いながら台本と録画テープを渡されるって「やりなはれ」と言ってるのと同じ、笑ってしまいました。
返信する
瑠衣さま♪ (ムンパリ)
2010-12-25 01:05:53
> 「考えて下さい」と言いながら台本と録画テープを
> 渡されるって「やりなはれ」と言ってるのと同じ

そうそう。あらかじめ選択肢なしってことですよね(笑)。
誰にも教わることなく一人で稽古をされたのかと思って
ましたけど、身近なところに強力な味方がいらしたとは。

片岡家の演目をやるときにも、共演者やお弟子さん、
囃子方等々、たくさんの周囲の人々の知識や記憶が頼り
になるとおっしゃってましたよね。
つくづく歌舞伎は一人ではできない仕事だと思います。

> 両方が身に添った芝居ができる役者さん
鳴神の代役のときにもそれは感じました。
あれ? 実は意外とよく似合ってるんじゃないのと(笑)。
それにしても片岡家と市川宗家、対極にある芸風ですよね。

今年は私たちにとっても何かと忘れられない年になりましたね♪
返信する
私は今日です (ぶーぶ)
2010-12-25 14:53:30
今から南座に向かいますとってもドキドキ
実は私『外郎売』をあまり観たことがなく、どういうお芝居かもよく判らなかったので、どうしようかと思いながらこちらを覗いてみたらアップされていて…
いつも勉強させていただいております。
ありがとうございます
では、行って参ります
返信する
ぶーぶさま♪ (ムンパリ)
2010-12-26 07:58:15
クリスマス観劇、楽しまれたことと思います。
外郎売は関西では観る機会があまリないですよね。
私も観るのは初めてで、ネットでいろいろ調べてみました。
言い立ての意味の解説をしてくださってるサイトもありました。
貴重な舞台が観られてよかったですね!
返信する
ここだけの話(^◇^) (瑠衣)
2010-12-26 22:48:42
私、団十郎丈のを見てるのですが、絶対に愛之助さんのほうが言いたての口跡も綺麗だし、五郎になってからも大きく勇壮ですよ。
団十郎丈は全てに重たくて明るさが無い。
先日東京の知人が偶然やはり東京の歌舞伎ファンの男性と隣同志で見たとき「世間が騒いでるから見てやろうか?と思ってきたけど、なかなかどうして外郎売いいじゃないか。海老蔵はいらないよ」と言ったらしいですよ。
海老蔵さんのも松緑さんのも私は見て無いですが。
返信する
やっと観ました (とみた)
2010-12-27 12:30:33
ムンパリさん、こんにちは。
私もやっと25日に行って、顔見世を語れるようになりました。

愛之助さんの早口言葉はうまいだろうと予想してましたが、予想を上回る素晴らしさでした。声のよさ、歯切れのよさだけでなく、それに調子が加わって味を出していて、愛之助さんの芸を堪能しました。

愛之助さん一番の長所を多くの人たちに認識してもらえて、今回は本当にラッキーでしたね。

五郎になってからは、ちょっとおとなしいので、あれはやっぱり海老蔵さんの荒々しさが私は好きです。
返信する
来年は遠征を減らさないと破産 (来夢)
2010-12-28 00:04:08
最初は行く予定じゃなかったけど。松嶋屋さんが演じることになったで、先週の日曜の昼夜GET.素晴らしかった。時間の関係で翫雀さんごめんなさい、越後獅子パス。さらにその日、人身事故で新幹線に運休が出ていたので、鳥辺山心中もパス。
「分に過ぎたる」では、拍手と失笑が半々って感じでした。
千穐楽を終わり休む間もなく、浅草の稽古ですね。浅草は千穐楽昼夜とも花道横です、うっしっし。まったく同じ席とは!!
ことしの観納めは、合邦+黴菌の日帰り、きつかった。

http://hochi.yomiuri.co.jp/osaka/gossip/entertainment/news/20101227-OHO1T00072.htm
では、皆様良いお年を。ぴょん×2011
返信する
瑠衣さま♪ (ムンパリ)
2010-12-28 14:01:33
ここだけの話、ありがとうございます・・・。
愛之助さんを褒めて頂くのはほんとに嬉しいことですね~!!
贔屓とは関係ない人のお話なら、なおさらありがたいですね。
この顔見世は愛之助さんにとっても特別な舞台で、私たち
ファンにとってはまたまた語り継ぐべき舞台が一つ増えた
ということですよね♪
返信する
とみたさま♪ (ムンパリ)
2010-12-28 14:02:08
歌舞伎を長年見られて、團十郎さんも海老蔵さんも
外郎売をご覧になっておられるとみたさんのお言葉、
うれしいです~!!

> 愛之助さん一番の長所を多くの人たちに認識してもらえて、
> 今回は本当にラッキーでしたね。
あ、そうゆうことだったんですね。愛之助さんの
いいところが自然と引き出される演目だったという
ことでしょうか。
いつか海老蔵さんの外郎売を見て比べてみたいです。
返信する
来夢さま♪ (ムンパリ)
2010-12-28 14:03:20
>「分に過ぎたる」では、拍手と失笑が半々って感じでした。
あ、そうそう。「分に過ぎたる」それです。
なんと言ってたか思い出せなかったんです(泣)。
ありがとうございます。
もう昨日からお江戸でお稽古だそうで。
毎年お正月には必ず一度戻ってこられるのですが。
黴菌はお江戸だけですからね、評判よかったみたいですね。
ほんとにいろいろご覧になって羨ましいです。
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