星月夜に逢えたら

[hoshizukiyo ni aetara] 古都散策や仏像、文楽、DEAN FUJIOKAさんのことなどを・・・。 

吉村昭 著『零式戦闘機』読了。

2013-07-20 | その他のイロイロなこと
先週、三連休の移動時間を利用して『零式戦闘機』を読了。
(併行して家では『文楽の家』を読み始めた。)
零式戦闘機は「れいしきせんとうき」と読む。

『永遠の0』は読んでいない。堀越二郎氏の名前を知ったのはつい
先日。スタジオジブリの『風立ちぬ』を映画館の予告で観て以来、
にわかに<零戦>の文字が頭の中で点滅。<零戦を設計した人>
とその仕事についてとにかく知りたくなった。

ご本人の著作、柳田邦男著、吉村昭著のどれにするか迷った結果、
客観的背景も描かれていそうな、この本をチョイス。
あとがきにもあるように、零式戦闘機を通して日本のおこなった
戦争の全体像を描く、というような内容だった。
特に堀越二郎さんからは当時の文書類を多量に提供してもらった
うえに、航空技術上の指示も受けているとのこと。



吉村昭『零式戦闘機』新調文庫
三菱A6M5 海軍零式艦上戦闘機52型 作図付き
(作品は昭和43年7月刊)

いろいろ語弊があるのかもしれないけれど、読後の率直な感想を。
大企業に勤めたことがないので、国家ぐるみの事業とはこのよう
なものなのか、と感じた。競合プレゼンを経て三菱重工業が勝ち
取った案件。それが新しい戦闘機を作るということ。
おそらく現場で作業に携わっている人たちは人の命を奪う道具な
どという雑念は一切なく、軍の要求する数値目標に向かって難問
をクリアしながら全力を尽くすのみだったと思う。
堀越さんはじめ、精鋭の技師たちが今まで作られたことのないも
のの設計に情熱を傾ける姿はごくまっとうな、というか実に誇り
ある男の仕事だ、プロジェクトXだ、とワクワクしながらページ
をめくった。

製造技術も、パイロットの技術もすべてが西欧諸国に大幅な遅れ
をとっていた日本が、初めて列強を相手に優位に立った戦闘機。
正式名称、海軍零式艦上戦闘機。
外国のパイロットたちにとってそれは神秘的な存在だったらしい。

でも、国力がないってつらい。
技術や発想があっても、国に経済力がないのは本当になさけない。
特攻隊もけっきょくはお金がないがゆえの発想なのだと思うとや
るせない。それでも製造工場の現場で眠る間も惜しんで働いた人
たちと同じ、志願して空に散った若者たちの純粋な気持ちのこと
を、私たちは忘れてはいけないと素直に思う。

『風立ちぬ』がどういう映画なのかよくは知らないけれど、零式
戦闘機を設計した堀越二郎さんは、多大なプレッシャーの中、無
理を押して働いたために胸を患い、二度の入院を強いられたこと
がこの本に出てきた。

もう一つ、この『零式戦闘機』で印象的なのが牛である。
リアルで細やかな情景描写はノンフィクションという枠を超えて、
まるで映画のように鮮やかにその場面を浮かびあがらせる。
最速の乗り物を、もっとも遅い乗り物である牛車が運んでいる、
運ばざるをえない当時の日本の道路事情。
さらに、国力の低下とともに疲弊してゆく牛。馬じゃだめなのか!
のくだりは個人的に涙なくしては読めなかった。
金属でできた機械の話と対比させるように、数回にわたって挿入
される牛、馬のエピソードが絶妙で、まこと切なく。
もしもこの本がそのまま映画になったら、牛が登場しただけで泣い
てしまうにちがいない、きっと泣かせてもらいますとも。
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