星月夜に逢えたら

[hoshizukiyo ni aetara] 古都散策や仏像、文楽、DEAN FUJIOKAさんのことなどを・・・。 

淫乱斎英泉  観劇メモ

2009-04-29 | 観劇メモ(演劇・ダンス系)
公演名    淫乱斎英泉
劇場     兵庫県立芸術文化センター 中ホール
観劇日    2009年4月21日(火)  19時開演
座席     1階G列

「写楽考」は観劇できなかったけれど、これは見ておきたいと思った。
劇作家・矢代静一の浮世絵師三部作(他は「写楽考」「北斎漫画」)の一つだ
そう。
公式ブログによれば、今公演には矢代静一氏の長女であり女優の矢代朝子
さんも出演していることがわかった。(はい、あの方ですね!)
ストーリーと人間関係を把握し、登場人物の心の綾までも読み取るのは難
しかったけれど、力量ある魅力的な役者さんたちのぶつかり合いは、それ
だけで見応えあったし、見られてよかったと思う。

この日は山路和弘さんお目当ての友人たちと3人で観劇。
私には今までご縁のなかった山路さんだけど、遅まきながら要チェックの
役者さんリスト入り決定~♪
しっかし、チケットを買った時は余裕で見られるハズだったのに、今月は
ガチガチのスケジュール。この日のために相当な努力をした私エライぞ(笑)。
チケットを取ってくれたKさんもどうもありがとう!!

以下、公演が終了してしまったので(汗)ネタバレあり。




<スタッフ・キャスト>
高野長英:浅野和之    溪斎英泉:山路和弘 
お峯:田中美里    越後屋:木下政治    お半:高橋由美子 
作:矢代静一   演出:鈴木裕美 

<ものがたり>公式サイトを参考にしました↓)
「淫乱斎英泉」とは浮世絵師・溪斎英泉が春画を描く際の雅号。
溪斎英泉は根津に娼楼・若竹屋を店開きした。
そこへやってくる蘭学医師・高野長英。英泉の腹違いの妹・お峯の眼病を治した縁で招待され
たのだった。お峯は憂国の志を抱く長英を秘かに慕っていた。
義妹を抱けと、長英を挑発する英泉。まだ初心な長英はただ自分のことをお峯に語るのだった。
そこにやって来た呉服商人の越後屋。どうやら英泉が越後屋の懐のものを盗んだらしい。英泉、
長英、お峯、娼婦として働くお半の様子に興味を抱いた越後屋、再来を約束し店を去る。

それから十年近い月日が流れる。
長英は西洋の優れた技術を伝え、己の医術にも磨きをかけ、まさに時代の寵児となっていた。
お峯は幕府に目をつけられている長英の身を案じ、彼の屋敷を訪ねる。しかし、もう昔の野暮
な長英ではなかった。やがて長英は小伝馬町の牢に入れられる。世に言う“蛮社の獄”だ。
一方の英泉は絵の才能を認められつつも、それに逆らうかのように描くことをやめ、姿を消す。

さらに五年後。
越後屋の妾となり、ついにお内儀におさまっていたお半が、夫の使いで英泉の家を訪れていた。
その頃の英泉は絵ではなく、本を書いているという。
そこへ越後屋が、牢破りをした長英を連れてやって来て「長英をかくまえ」という。
家業の存続のためにも長英の思想・開国の論を何としても実践させたい越後屋。
英泉は長英をかくまう決意をし、人相を変えるため長英の顔に硝石精をかけた。
それから始まる、英泉が長英に自分の余生を賭けた日々。
そんな彼らの為、身を売って生きる財を稼ぐお峯。それぞれの想いの中、歳月は過ぎて行く。

嘉永三年秋、その日がやって来る。おかっぴきが長英を捕えにきたのだ。
長英を売ったのはいったい誰なのか?


<舞台装置など>
舞台奥に横長のスクリーン状のものがあるのか、その使い方が面白い。
そこに春画や障子や風景、抽象的な模様等が映し出されることで、
場面転換代わりになったり、登場人物の心象風景に見えたりした。
たとえば冒頭。
水に墨をたらしたような黒いマーブル模様が映し出されていた。現代と
江戸時代をシャッフルしているようなイメージだと私は受け取った。
今から語る出来事は現代の出来事でもあるんだよ、と。

<オレと長英の物語>
最初に前置きのようなシーン。
背景に現代女性のシルエットが浮かび、舞台中央で正座している長英に
何やら示唆を求めている。
夫が政治の渦の中に飲み込まれ、葬られようとしている、長英と同じ立
場だとかナントカ。
だが、長英は否定する。自分は政治のために命を絶ったんじゃない。
これは魂の話なんだと。(そんな意味の返答だったと思う。)

語られるのは、長英の物語。
でも、その長英の影で彼のことをずっと見ている浮世絵師がいた。
なので舞台では、溪斎英泉が主役。(タイトルロールでもあるしね、)
・・・話が理解しにくかったのはそこかもしれない。

一幕と二幕の間にたしか5年の歳月が流れていて、長英が投獄された後
英泉が行方をくらましたという説明があったが、その5年間に何があっ
たのかが見えなかったのが、英泉に関する一番のナゾ。私自身のもどか
しさの理由だ。
英泉が絵を描けなくなってしまったという苦悩と、絵を捨てて長英に傾
倒してゆく過程というか、因果関係をもう少しビジュアルで見せてもら
えたらよくわかったのにと思う。
まあでも、その行動と本心のわかりにくさが英泉なのかもしれない。

やはり、描けなくなったから、長英にのめりこんでいったのだろうか?
それとも純粋に長英の思想に動かされ、絵を捨てたのか?
あるいは英泉は長英を利用しようとしていただけなのか?
長英が最期の場面で英泉に残した言葉「あんたのエゴイズム」がしばら
くの間グルグル頭をかけめぐった。

<キャストについて>
●山路和弘さん(溪斎英泉)
冗談のように見えて本気だったり、軽薄のようだが実は重い。
そのあたりの多面性を山口さんの英泉は見事に演じておられた。
そういう人間ってたまにいるよなあと思わせられた。
天才だけれど、限界という地獄を見てしまった人なのかもしれない、
英泉は。
特に、一幕と二幕の変わりようが大きく、一幕では天才としての自信と
狂気を感じさせ、二幕では人間英泉を見せつけられた。
それにしても、目を赤く血走らせ、着物の前をはだけて赤フンとおみあ
しを露にしたまま歩き回る姿は艶っぽくもあり、恐ろしくもあった。
二幕のラスト。長英を売ったのがお峯だと知り、オレはユダにもなりそ
こねたとつぶやくあたりがゾクゾク。やっぱり長英のことが好きだった
のだとわかる台詞が重い。
傾倒するあまりの憎しみ。あるいは嫉妬。
ありきたりの男どうしの友情などとは違う、悲しい業を背負ってしまっ
た英泉に最後は吸い寄せられた。

●浅野和之さん(高野長英)
出演者の長老ということで(本当は山路さんと同年齢)、若い頃の
長英を演じているときに「老け顔」とか「よっ、27歳!」とか英泉に
言われながら照れているのが可笑しかった。
役どころとしては、最初はウブで誠実な男だったが、政治犯として逃
げ回り、かくまわれるうちに身を持ち崩すようになった。
いつのまにか志と呼べるものも希薄になってしまい、ついには自ら命
を絶ってしまう。
そのあたりの転換をうまく演じておられた。(色気はイマイチ。)
ラスト近くで長英が英泉に言う「「あんたのエゴイズム」とは何?
長英は英泉に利用されたと思ったのだろうか?
ウーン、1回の観劇ではここがわからなかった。

●田中美里さん(お峯)
男に献身的に尽くす女の複雑な精神状態を演じて、とてもよかった。
一幕の明るく素直な娘から一転。二幕では、はすっぱな女という感じ。
急に艶っぽくなって、それが転落を感じさせいっそう哀れ。
長英の活動のために献身的に尽くすお峯が、どうやら自ら体で稼いで
いるらしい、とわかるくだりがズシリと重かった。
本当は好きなのに、本心はかわいがってもらいたいのに、気持ちと態
度は逆。汚れてしまった自分がいやになり、自虐的になっている。
「お前を妻にしよう」という長英の言葉を受け入れず、かといって他
の女の元に通う長英のこともゆるせないという複雑な女心が痛々しい。
ラスト近くの台詞が突き刺さった。
売ったのは私、この人はいなくなったほうがこの人のためだと思った
から。このままでは生きる屍だもの。
お峯と英泉。どちらの想いも長英を本当に生かすことにはならなかっ
たのだなと思うとやるせない。

●高橋由美子さん(お半)
英泉の経営する郭の女郎役。
苦界とか身売りというような暗いイメージは一切なく、キャピキャピ
した感じのふしぎな女郎だと思った。
本当に愛していたのは長英だが、越後屋という大樹を見つけ安穏と暮
らすことに。お妾さんから越後屋のお内儀になってからの落ち着きは
らった様子もけっこう似合っていた。
全体にドロドロジメジメした暗い人間ばかりの中で、お半というか、
高橋さんのアッケラカンとした明るさは清涼飲料水のようだった。

●木下政治さん(越後屋)
こんなに和服が似合うとは意外だったけど、大店の主人らしい品のよ
さがにじみ出ていてよかった。
越後屋にとっては、英泉も長英も自分に利益をもたらしてくれる商材
にすぎないという典型的なパターン。
特に、絵師としての英泉を語るのに越後屋を絡めた場面が象徴的で面
白かった。一幕では越後屋が「淫乱斎英泉」の天才絵師としての才能
を買い、ニコニコと絵を高値で買っていたが、二幕では英泉の絵を見
て「金は出すが絵はいらない」と突き放す冷淡さ。
一見やさしそうな顔をして、長英の死の直前まで長英の思想を商材と
して考えていたのも凄い。
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