12月24日、この日もクリスマス休戦はなくゴングが鳴りました。
以下、全面的にネタバレです。ご注意ください。そのうえ長いです。
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<キャスト>
出演 宮沢りえ(タマシイ) 藤原竜也(ヘラクレス・ノブナガ)
渡辺えり子 宇梶剛士 橋本じゅん 三宅弘城 松村武
中村まこと 明星真由美 明樂哲典 AKIRA 野田秀樹
<ネタバレなあらすじ>
「プロレスは決して八百長ではない」と思いつめて引きこもるレスラー。
それがヘラクレス・ノブナガ。
リングの下に棲みついて、なぜか実況中継が上手い女。その名はタマシイ。
二人が出会い、そこにTVクルーが加わって、タマシイがプロレスの戦いを実況中継
するようになってから、リング上の戦いモードに変化が生まれてくる。
視聴率を上げるためにTVクルーが煽り始め、暴力がエスカレート。
やがて、戦いの場はリングからいつのまにかベトナム戦争まっただ中のある村へ。
タマシイの実況中継により、ミライという名の村で起こったある朝の出来事の一部
始終が明らかになってゆく。
<戯曲を読んで>
事前のネタバレは絶対にイヤなのに、今回だけは戯曲を先に読んだ。
1回しか観劇できないから、というのが大きな理由。それと、やっぱり・・・
最新の野田さんを少しでも早く知りたかったということ。
結果、戯曲と舞台それぞれ違う感慨に浸ることができ、少しトクした気持ち。
特にあのクライマックスシーン。
戦いの場がいきなりベトナムへと転換した途端、戦慄が走った。
冷酷で、悲惨で、残虐の限りを尽くす光景をおびただしい量の言葉に託するところ。
目で追っていると、その字面だけでも拒否反応を起こすような言葉群。
でも、はっきりと、一語一語、意味を確認しながら読むようにした。
思い浮かべる光景はNHKの「映像の世紀」や「プラトーン」などの映画で見た映像。
それから、あのシーン。
タマシイ(女)から大事なものを受け取るときのノブナガ(タマシイの父親)。
そのときにノブナガが口にする擬音(びしょびしょ)がいいなと思った。そのもの
の湿った生温かさが伝わってくる、大事な響きを持った言葉だと思うから。
舞台ではこのあたりがどんなふうに演出されるのか、そこを見たいと思った。
<劇場~舞台装置など>
●リング
舞台中ほどにプロレスのリング。(前に傾斜した八百屋タイプのもの。)
シチュエーションに合わせて回転し、さらにスペクタクルな見せ場になる。
向かって左手に電話ボックス状の小さな部屋。(ノブナガの引きこもり部屋。)
引きこもり部屋の下部に、出した料理がそのまま返ってくる穴がある。
部屋の中にはノブナガが読んだコミック、任天堂のゲームソフトがあるという
設定。それを披露する時の仕掛けが楽しい。
●人名
アジア人の名前らしきものを英文字で表記した慰霊碑(?)が舞台背景に。
よく見ると左から通し番号、名前、年齢、のように読める。
ネットで検索してみると、ベトナムにかつてあったある村の記念館に記されてい
る504人の犠牲者の氏名と年齢というのが、どうもそれらしい。
<観劇後~全体の印象など>
お芝居の序盤はNODA MAPらしい楽しさ、軽さ、スピーディーな動きに、笑いも
交えながらウォーミングアップという感じ。
八百長、流血など、プロレスの内幕を明るみにするような内容で楽しめた。
それがベトナム戦争の実況中継になると、私にはまるで映画「時計じかけのオレ
ンジ」のショック療法さながら。
手足を縛りつけられ目を見開かされたたまま、ただ目撃するしかなかった。
見終わったあとはメチャクチャ疲弊した感じ。
振動も騒音もない、安全で静かな部屋で読んだ戯曲とは比較にならなかった。
振動と爆音と機銃音、惨劇を次々と伝える実況中継の、想像をはるかに超える
ナマの緊張感。
面白い、とか、感動、とか、そういう言葉は今回、私は浮かんでこない。
ただ、もしも誰かに聞かれたら、この作品はぜひ目撃しておいてください、と。
それだけは間違いなく言える。
ふつうに反戦メッセージを伝えるだけなら舞台でなくてもいいと思う。
というより、野田さんでなくてもいいと思う。
作家はなぜ今これを書きたかったのだろうか。
パンフレットにあった野田さん自身の言葉に目が止まった。
「僕がこの題材を書いていいのか? ということを考える時間が2年くらい必要
だった」。
題材が見つかってから野田さんらしい、野田さんでしかできないやり方で形にす
るのに2年かかったということなのだろうか。
人を殺す現場を目撃するというのはどういうことなのか、それを見に来てください。
という前作「贋作・罪と罰」でのコメントを今になって思い出す。
昨日、フセイン元大統領の処刑があった。
死刑現場を撮影したカメラマンがいる。
フセインは目隠しのずきんをかぶるのを拒み、覆面男たちの手で首に縄を巻かれ
た、とのこと。
野田さんのこの作品の公演期間中に、なんというタイミング!
四角いリングならぬ、TV画面のなかの出来事は筋書きのあるドラマなどではなく、
現実の話。フセインが行なったとされる拷問も、イラクでの民間人攻撃も、まさ
に現代の出来事なのだと思い知らされた。
いや、それすらもすでに視聴率ゲームの対象となってしまっているのかもしれない。
「オイル」の時のタイミングもそうだったけど、またしても!NODA MAP 恐るべし。
(2)に続きます。
NODA MAP「ロープ」観劇メモ(2)(このブログ内の関連記事)
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