オオカミになりたい(遺言)

ずっとそばにいるよ

見立多以尽 かほが見たい

2019-01-09 | 見立多以盡

月岡芳年が女性のしぐさを「~したい」と描いた美人画

見立多以尽(みたてたいづくし)より

『かおが見たい』

 

国立国会図書館デジタルコレクション

大蘇芳年筆 

 

詞書

巫山(ふさん)の雨を憎む歌妓(べっぴん)は 

俳優買(どうらく)の お座敷つづきに 

とかく不参の雨を妬(ねた)まれ 

破鏡(はきょう)ふたたび待合の 軒行燈を照さずして 

髭大尽を取逃せば 懇望(ねだり)て置いた釵(かんざし)も

落花かさねて頭(こおべ)にのぼらず 

何と正午の号砲後(どんすぎ)に 化粧(みじまい)だけは仕あげても 

面白からぬ口なしの 山吹色の楮幣(さつ)の顔 

見ねば心のすみかねる 欲の世の中 欲の世の中。

操觚者 轉々堂主人

 

【巫山の雨】: 楚の懐王が昼寝の夢の中で巫山の神女と契ったという故事から

男女が夢の中で結ばれること また、男女が情を交わすこと。

 

【落花枝に返らず 破鏡再び照らさず】: 一度損なわれたものや

死んでしまったものは二度と元に戻らないというたとえ

 

 

 

 


見立多以尽 とりけしたい

2019-01-07 | 見立多以盡

月岡芳年が女性のしぐさを「~したい」と描いた美人画

見立多以尽(みたてたいづくし)より

『とりけしたい』

国立国会図書館デジタルコレクション

大蘇芳年筆 

 

詞書

出て三日人なら如何(いか)に猫の恋

と 故人もいいし早咲の 梅も盛のつく頃に

隅田(すだ)の上流(うわて)の夜泊(よどまり)は

足もと暗き朧月に 顔をそむけて忍びがえし

浮雲(あぶな)くわたる糸爪(いとづめ)を 

研ぐや 遂げずや 挑まれつ 

争(いど)みつ 狂う恋中を

嗅ぎ出されては最(も)う 仮名読の

先生実に情ないといわん。

轉々堂主人戯誌

 

仮名読 : 明治時代の小新聞のひとつ

糸爪 : 常に三味線を弾く人の左人さし指の爪の先に 弦との摩擦でできたくぼみ

 

 

 


見立多以尽 はやくひらかせたい

2019-01-05 | 見立多以盡

月岡芳年が女性のしぐさを「~したい」と描いた美人画

見立多以尽(みたてたいづくし)より

『はやくひらかせたい』

 

国立国会図書館デジタルコレクション

大蘇芳年筆 

 

詞書

耐忍(しんぼ)さしゃんせ あの梅の木も

雪の中から花が咲く と聞えし都々逸の

意(こころ)は適(うま)く穿(うが)ち得し 若木の花の未開紅

雨風の夜の出稼(おざしき)に 褄(つま)は濡ても唯一重

二夫(かさねづま)せぬ 季咲(きざき)の鉢もの

堅固(かた)い蕾と人々に いわれて操(みさお) 立通す

末は愛(めで)たく歯も青花礠(そめつけ)の

盆栽ならぬ本妻と 風聴(ひろめ)も済んで売れる身は

結びし神の縁日の梅。

南茅場町の隠士 轉々堂主人


穿つ : 表に現れない事実・世態・人情の機微を巧みにとらえること





見立多以尽 いっふくのみたい

2018-12-25 | 見立多以盡

月岡芳年が女性のしぐさを「~したい」と描いた美人画

見立多以尽(みたてたいづくし)より

『いっぷくのみたい』

 

国立国会図書館デジタルコレクション

大蘇芳年筆 

 

詞書

明(あけ)ぬうちにと葛城の 

神ならねども束縛(しばられ)し

雇夫(つとめ)の躬(み)ゆえ 店(たな)の首尾

計って帰す後朝(きぬぎぬ)に

さぞ今ごろはと相思草(おもいぐさ)

くゆらすむねの けむりぞ細けれ

小説の作者 轉々堂戯記

 

後朝(きぬぎぬ)=衣衣

①衣を重ねて掛けて共寝をした男女が、翌朝別れるときそれぞれ身につけるその衣。

②相会った男女が一夜をともにした翌朝。また、その朝の別れ。

 

 

 


見立多以尽 もつと降せたい

2018-12-21 | 見立多以盡

月岡芳年が女性のしぐさを「~したい」と描いた美人画

見立多以尽(みたてたいづくし)より

『もっと降せたい』

 

国立国会図書館デジタルコレクション

大蘇芳年筆 

 

詞書

客の量目(かんめ)をひく三味線の 

糸(いと)し可愛(かあい)も山吹の 色には出(いだ)さぬ体(ふり)ながら

光りをたのむ金春(こんはる)の 雨故(ゆえ)借る簑布団

八重か一重か しら紙に 包んだままの楮幣(ぺらさつ)を 

上から探(おし)て前帯へ はさんで見ても何となく 

済ぬ心の奥の間か 厠にゆきて人しれず 

明(あけ)て尻尾(しっぽ)を古寝妓(ふるねこ)が

転々(ごろごろ)咽喉(のど)を鳴すぞ 怖ろし

操觚者 黄昏舎迂人記


楮幣(ちょ へい) : 紙幣と同じ