千代は安土桃山時代の女性
生没年未詳
文久3年(1863)出版 歌川豊国(国貞)絵
文展千代(ふみひろげのちよ)
總見寺殿(そうけんじでん=織田信長)の侍妾・小野お通に使われたる女なり
東山の花陰 五條橋の月の前などにあらわれて襟に懸けたる文箱より
一通の文をとり出し声高く又低く讀んでは泣き、笑いて讀む
物狂いの風流なる者とその時洛中にいと名高し此の女
都から来ていた喜藤左エ門と云う商賈(あきんど)と
密かに云いかわしける事三年(みとせ)、逢う夜の稀なるを悲しんで
「うら山し 人目なき野の蛬(きりぎりす) 鳴くも心の ままならぬ身は」
此の歌を聞き お通は憐れんで喜藤にあたえて夫婦となした
其の後、夫に捨てられんとするのを
お通が文こまやかに書き贈って諫めると
喜藤も思い直して睦ましくなって五年(いつとせ)の後
夫に死別れして愁傷やるかたなく 心乱れ
お通の文を持ち歩いては讀むようになった
(柳亭種彦記)
犬子集に
『天も花に 酔ゑるか雪の 乱れ足』 親重