かもうな
すず風 第一之巻(三)
話は治郎の幼き日に戻る。
治郎は幼いときから動物が大好きだった。白石では三毛猫を可愛がり、昼は
肩にのせ夜は共に寝て、絵には必ず馬が描かれているほど大好きであった。
養父時右衛門はそのような治郎の性格を的確に見抜いている。
馬市に治郎を連れ出したのはそのような理由があったからである。
養父時右衛門の愛馬「疾風」(はやて)は十数年前に亡くなって、それ以来
馬を持とうとはしなかった。疾風が愛おしかったからである。
その後、時右衛門は己から馬への未練を捨てた。
しかし治郎の人生はこれからである。
幸い治郎は「利他の心」を持ち合わせている子だ。この子を伸ばすには馬を
与え自らの力で自分の選んだ道を進ませることが大切だと時右衛門は感じた。
利他の心とは、仏教用語で「自利利他」とも云い、自分が幸せになると同時に他人をも幸せにすることを意味する。
龍樹菩薩は「利他者即是自利」(他を利するはすなわちこれ自らを利するなり)と説いている。
さて治郎が養子に入りまもなく時右衛門は「馬相図」「解馬新書」を与え読
み聞かせた。とくに治郎のお気に入りの本は馬相図だった。
躍動感煽るる馬の絵が鮮やかな色彩で描かれている馬相図は馬好きの治郎にと
っては宝物でありいつも離さなかった。
時右衛門は馬事に関する知識が次々と治郎に吸収されるのを見届けなが「大坪
本流武馬必要」で馬医術を学ばせ治郎十五歳のときすず風を与えたのである。
・ ・・続く・・・
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