
剣客や傭兵が主人公のドラマは割と多い上、人気のあるテーマとなっている。17世紀前半のスペインで、平時にはマドリードで剣客、戦場では傭兵として生きた男がこの映画の主人公。スペイン史劇は日本ではあまり公開されないが、ハリウッドのそれと違い重厚な仕上がりとなっていたのが良い。145分の上映時間に長さを感じさせなかった。
無敵艦隊の敗北(1588年)後、スペインは急速に没落したと思われがちだが、少なくとも17世紀前半までは依然として欧州最強、最大の帝国であった。ただ、時代と共に衰退が国内外で表れてくる。
映画はフランドル地方での戦争場面から始まる。この地で戦友を亡くしたアラトリステは、友の死の直前、幼い息子の保護を託される。こうして遺児イニゴはアラトリステの元に引き取られ従者となるが、実質的には養子同然だった。アラトリステは傭兵仲間からカピタン(隊長の意)の渾名で呼ばれていても彼の配下の軍団など存在せず、その暮らしは貧しかった。また、アラトリステはフランドルの戦で大貴族グアダルメディーナ伯爵の命も救い、この若い伯爵はこれ以降彼を影ながら支援することになる。
ある時、アラトリステは高位聖職者から暗殺の仕事を受けた。依頼人は暗殺対象者の身元を明かさず、単にイギリスからの旅行者かつ異端者とだけ告げる。この2人連れのイギリス人旅行者を待ち受け、殺害しようとするも、一般の旅行者たちとは違う様子を感じたアラトリステは、独断で彼らの命を助ける。実は2人のイギリス人はイギリス皇太子とその従者であり、暗殺されていたらスペインとイギリスは戦争になって当然だったろう。信仰のためなら異端者の王族を始末する陰謀も辞さない教会人の狂信は戦慄させられるが、命じられた暗殺をしなかったアラトリステは逆にスペイン異端審問官に目を付けられることになった。
大貴族の擁護もあり、幸い異端審問に問われることは免れたアラトリステは再びフランドルの戦場に向かう。スペイン人以外にポルトガル人も共闘している。敵のオランダ人を始末、「異端者が大罪を背負って死んだ」と叫ぶ後者に対し、「ユダヤの血が入ったポルトガル人も劣らず大罪がある」と誹るスペイン人。スペイン人もユダヤの他にアラブの血も混じるのだが、カトリック同士でも信頼していないのが知れる。また、アラトリステのライバルとなるイタリア人刺客マラテスタも、「スペイン人は傲慢で粗暴、繊細さがない」と決め付ける。覇権国国民気質というものは、21世紀でも変わらないらしい。
傭兵が主人公のこの映画には戦闘場面が多く、最後はフランス軍とのロクロワの戦い(1643年5月19日)で幕となる。今はベルギーとの国境付近にある北フランスの町ロクロワで行われた戦いでスペインは大敗、大国の地位を失う。スペインの凋落を決定付けたのは皮肉にも旧教国フランスだった。
ロクロワの戦いで長槍で武装した歩兵隊が登場、アレキサンダー大王式のハリネズミ陣形が17世紀まで続いていたのかと思ったが、ネット検索をしたら「テルシオ」と呼ばれる戦闘隊形だった。槍衾の下で古参兵アラトリステは果てる。
この映画の重要人物に2人の美女がいる。アラトリステと逢引を重ねる女優マリアとイニゴが一目ぼれするアンヘリカ。様々な人生体験のあるアラトリステさえ女には惑うので、まして若いイニゴはアンヘリカに振り回される。アンヘリカとの恋愛をアラトリステや知人が忠告しても、聞き入れられるものではない。「男にとって、美女は暴君と同じだ」とイニゴに注意した者もいるが、恋に落ちている男は暴君の命でも従うようになる。
マリアもアンヘリカも計算高く、己の幸福を優先、恋人を裏切る女たちだが、それを後悔もする女心の複雑さ。最後は性病に罹り、アラトリステの見舞いを受ける前者と、貴族と結婚出来てもイニゴを忘れならないアンヘリカは苦悩する。
この映画のコピーは、「<誇り>は戦場に求め、<義>は友に捧げ、<愛>は心に秘める」といささかクサい。しかし、映像を見た後はそれが様になっていると感じられた。アラトリステ扮するのがヴィゴ・モーテンセン。姓名どおりデンマーク系アメリカ人、いかにも北欧の血が濃い紅毛碧眼の彼がスペイン人剣士を演じていたので、周囲のラテン系の役者たちとは一目で毛色が違って見える。全編スペイン語の台詞なので吹き替えかと思いきや、そうでなかったようだ。スペイン人俳優でアラトリステに適役な者はいないのか不明だが、アントニオ・バンデラスではやはり軽く役不足だろう。
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無敵艦隊の敗北(1588年)後、スペインは急速に没落したと思われがちだが、少なくとも17世紀前半までは依然として欧州最強、最大の帝国であった。ただ、時代と共に衰退が国内外で表れてくる。
映画はフランドル地方での戦争場面から始まる。この地で戦友を亡くしたアラトリステは、友の死の直前、幼い息子の保護を託される。こうして遺児イニゴはアラトリステの元に引き取られ従者となるが、実質的には養子同然だった。アラトリステは傭兵仲間からカピタン(隊長の意)の渾名で呼ばれていても彼の配下の軍団など存在せず、その暮らしは貧しかった。また、アラトリステはフランドルの戦で大貴族グアダルメディーナ伯爵の命も救い、この若い伯爵はこれ以降彼を影ながら支援することになる。
ある時、アラトリステは高位聖職者から暗殺の仕事を受けた。依頼人は暗殺対象者の身元を明かさず、単にイギリスからの旅行者かつ異端者とだけ告げる。この2人連れのイギリス人旅行者を待ち受け、殺害しようとするも、一般の旅行者たちとは違う様子を感じたアラトリステは、独断で彼らの命を助ける。実は2人のイギリス人はイギリス皇太子とその従者であり、暗殺されていたらスペインとイギリスは戦争になって当然だったろう。信仰のためなら異端者の王族を始末する陰謀も辞さない教会人の狂信は戦慄させられるが、命じられた暗殺をしなかったアラトリステは逆にスペイン異端審問官に目を付けられることになった。
大貴族の擁護もあり、幸い異端審問に問われることは免れたアラトリステは再びフランドルの戦場に向かう。スペイン人以外にポルトガル人も共闘している。敵のオランダ人を始末、「異端者が大罪を背負って死んだ」と叫ぶ後者に対し、「ユダヤの血が入ったポルトガル人も劣らず大罪がある」と誹るスペイン人。スペイン人もユダヤの他にアラブの血も混じるのだが、カトリック同士でも信頼していないのが知れる。また、アラトリステのライバルとなるイタリア人刺客マラテスタも、「スペイン人は傲慢で粗暴、繊細さがない」と決め付ける。覇権国国民気質というものは、21世紀でも変わらないらしい。
傭兵が主人公のこの映画には戦闘場面が多く、最後はフランス軍とのロクロワの戦い(1643年5月19日)で幕となる。今はベルギーとの国境付近にある北フランスの町ロクロワで行われた戦いでスペインは大敗、大国の地位を失う。スペインの凋落を決定付けたのは皮肉にも旧教国フランスだった。
ロクロワの戦いで長槍で武装した歩兵隊が登場、アレキサンダー大王式のハリネズミ陣形が17世紀まで続いていたのかと思ったが、ネット検索をしたら「テルシオ」と呼ばれる戦闘隊形だった。槍衾の下で古参兵アラトリステは果てる。
この映画の重要人物に2人の美女がいる。アラトリステと逢引を重ねる女優マリアとイニゴが一目ぼれするアンヘリカ。様々な人生体験のあるアラトリステさえ女には惑うので、まして若いイニゴはアンヘリカに振り回される。アンヘリカとの恋愛をアラトリステや知人が忠告しても、聞き入れられるものではない。「男にとって、美女は暴君と同じだ」とイニゴに注意した者もいるが、恋に落ちている男は暴君の命でも従うようになる。
マリアもアンヘリカも計算高く、己の幸福を優先、恋人を裏切る女たちだが、それを後悔もする女心の複雑さ。最後は性病に罹り、アラトリステの見舞いを受ける前者と、貴族と結婚出来てもイニゴを忘れならないアンヘリカは苦悩する。
この映画のコピーは、「<誇り>は戦場に求め、<義>は友に捧げ、<愛>は心に秘める」といささかクサい。しかし、映像を見た後はそれが様になっていると感じられた。アラトリステ扮するのがヴィゴ・モーテンセン。姓名どおりデンマーク系アメリカ人、いかにも北欧の血が濃い紅毛碧眼の彼がスペイン人剣士を演じていたので、周囲のラテン系の役者たちとは一目で毛色が違って見える。全編スペイン語の台詞なので吹き替えかと思いきや、そうでなかったようだ。スペイン人俳優でアラトリステに適役な者はいないのか不明だが、アントニオ・バンデラスではやはり軽く役不足だろう。
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この映画を観て『ドラマシリーズを編集して劇場版にしたのかな?』と思える位にはしょってました。
原作のシリーズ全般ではなくて1巻目だけを映画化した方がヨカッタと思いました。
私は原作未読なのですが、それでもかなりはしょった印象はありましたね。
ハリウッド史劇よりはずっとマシですが、スペイン史はまるで疎いので、ストーリーを追いかけるのが精一杯。
ヴィゴ・モーテンセンは熱演していましたが、はじめから終わりまで殆ど老けていないのが何とも・・・