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パッドマン 5億人の女性を救った男 18/印

2019-07-15 21:39:53 | 映画

「現代のインドで“生理用品”の普及に人生を捧げた男の感動の実話」というチラシ表のコピー通り、アルナチャラム・ムルガナンダム(Arunachalam Muruganantham)氏の伝記映画。但し、映画の冒頭に「人物描写や出来事には脚色が加えられている」というスーパーがあり、主人公名はラクシュミになっている。チラシの裏にはこんな解説がされていた。

インドの生理用ナプキン普及率はわずか12%だった!それを変え、女性たちを救った真のヒーロー本作のモデル、ムルガナンダム氏とは――
 南インドの貧しい家庭に生まれ、学校も中退。結婚を機に人生が一変。妻が生理中にぼろ布を利用している姿に衝撃を受け、6年間の歳月をかけて生理について学び、ついには清潔で安価なナプキン製造機を作ることに成功!
 ナプキン1個約2.5ルピー(約4円)で1日に最高250個も製造できるうえに、1台につき10名の女性たちの雇用も創出した!その功績が認められ2014年には米国の「タイム」誌で、《世界で最も影響のある100人》の1人に選出。現代彼の機械はインドを含む18カ国2500台以上が稼動している。

 さらに「インドのナプキンはこんなに高い‼」として、インド・タミル・ナードゥ州の諸物価例が挙げられているのだ。1ルピー=1.55円で換算 され、以下は日印国際産業振興協会による資料提供。

お米1㎏ 31円
水(1ℓ)    31円
カレー    62円
ナン1枚  23円
コーヒー1杯 39円
じゃがいも1㎏ 23円
・りんご  47円
ランチorディナー 平均93円
ナプキン(1パック20個入り)217円!(1個11円)

 日本とインドの物価が違い過ぎるため、上のケースを見てもピンとこないが、ナプキンだけは日本よりやや安いのは驚いた。日本のナプキンは品揃えも豊富で大きさにより価格は異なるにせよ、インドの場合はサイズが細かく分けられているとは思えない。多い日の夜はさぞ大変だろう。
 貧しいインド女性は生理中にぼろ布を使用することが多いが、灰や土まで使うケースもあるという。当然非衛生的極まりなく、感染症や不妊、さらには死の原因にもなるそうだ。布は洗って何度も使用できるが、ものがものだけに干すのは人目に触れないよう陰干し。これまた非衛生的なのはいうまでもない。

 地方の小さな村で男が生理ナプキン作りをするだけで、変人というよりも変態扱いされる。周囲から嘲笑されるだけではなく、ついには村八分状態となり、ラクシュミの家族は恥ずかしさのあまり家を出る。
 確かに生理というのは女特有のデリケートな問題だし、オッサンが初潮をみたばかりの近所の少女にナプキンの試作品を渡そうとすれば、母親ならずとも目を剥く。

 それでもナプキン作りを諦めなかったラクシュミの情熱には驚く。まさにパッドマンは不屈の男だった。貧しい家庭に生まれ、学校も中退したにも関わらず、この不屈の精神は何処から来るのだろう。
 転機になったのは女性の協力者パリーが現れたこと。バリーにはモデルがいたのかもしれないが、いかに熱意があっても男1人の奮闘では絶望的だったろう。バリーの協力でようやく仕事も軌道に乗り、アフリカや中国などの国外からもナプキンの注文が舞い込むようになる。

 ムルガナンダム氏の名は、NHKの『発掘アジアドキュメンタリー』で見たので知っていた。2014-02-03付で記事にしたが、映画化されるとは想像もしていなかった。とにかくスゴイとしか言いようがない人物。
 日本は生理用ナプキン使用率100%の国だが、日本にいるとそれが当たり前に思ってしまうのだ。第三世界はともかく冷戦中のブルガリアでも生理用ナプキンが不足していたことを、『ブルガリア研究室』さんから教えて頂いたことがあり仰天させられた。ナプキンも満足に入手できないのが共産圏だったとは……

「なぜ生理用品はダメで、新聞はいいの?」軽減税率めぐりネットで論争」というツイートを先日見かけた。これによれば、署名活動や著名人によるキャンペーンを受け生理用品の税金を廃止した3か国があり、そのひとつがインド。
 英国統治時代、女子教育では日本に見習えと考えたインド知識人がいたという。生理用品への税負担では日本も大いにインドを見習うべきだろう。



◆関連記事:「生理用ナプキン製造機を作った男

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6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (鳳山)
2019-07-15 23:43:01
こんなすごい人がいたんですね。しりませんでした。
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『生理用品の社会史』 (madi)
2019-07-16 03:20:09
2019年に角川で文庫化されています。
とりあえず単行本の書評を引用しておきます。

https://www.honzuki.jp/book/209991/review/109004/
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鳳山さんへ (mugi)
2019-07-16 22:35:45
 映画化でもされなければ、これ程すごい人物がいたことは知られなかったでしょうね。もっと知られてもいいと思いますが、日本のメディアは南アジア方面はあまり取り上げませんから。
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Re:『生理用品の社会史』 (mugi)
2019-07-16 22:36:45
>madi さん、

 このようなノンフィクションがあったこと自体、知りませんでした。教えて頂きありがとうございます。それにしても、若干27歳の女性社長がアンネ株式会社を創業していたことも初めて知りました。検索したら、田中氏による記事がヒットしましたが、かつての女性社長は存命かもしれません。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/60043
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P&G (スポンジ頭)
2019-07-18 07:02:37
 P&Gは1989年からこの手の製品をインドで製造していたそうですが、一般の人たちには届かない価格だったのですね。しかし、この主人公もそれなりに裕福に思えますが、そのような階級の人たちにも無縁の製品だったとしたら、本当に大変です。
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Re:P&G (mugi)
2019-07-18 22:10:26
>スポンジ頭さん、

あのP&Gが1989年からナプキンをインドで製造していたとは知りませんでした。ハンドクリームのヴァセリン(本社ユニリーバ)もインド製造の商品が日本で売られています。

 記事にも書きましたが、食品類に比べインドのナプキンはとにかく高い!映画では普及率12%となっていますが、現代でも50%に達していないかも。日本にいると他国でも普及していると思ってしまいますが、そうではなかったことを映画で初めて知った人が多かったでしょう。
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