高齢者を標的とした振り込め詐欺といえば、少し前までは息子や孫を騙ったオレオレ詐欺が主流だったが、昨今はキャッシュカード詐欺が増加しているらしい。河北新報の地方面「みやぎ」では、連日のように振り込め詐欺を報じているが、この頃はキャッシュカード詐欺に遭う高齢者のニュースが多い。しかも被害者の殆どは女性なのだ。
今日付14面「みやぎ」にも、そんな事件が載っている。塩釜市の女性(84)がキャッシュカード1枚をだまし取られ、50万円が引き出される被害に遭ったそうだ。塩釜署によると11日午後5時頃、女性宅に警察官や金融庁職員を名乗る男たちから、「おれおれ詐欺の犯人が持つ名簿に名前が載っている」「口座から現金が引き出されている」等と電話があり、女性に口座や暗証番号を教えるよう求めた。
女性は、電話中に訪れてきた別の金融庁職員を名乗る男にキャッシュカードを渡して印鑑を取って戻ると、カード入りの封筒を渡された。帰った後に女性が不審に思い同署に相談すると、中身がポイントカードにすり替えられていたという。
この種の事件を聞くにつれ、警察官や金融庁職員や市役所職員などが庶民の自宅に電話してくること自体、極めて有り得ないのに何故気付かなかったのか、と歯がゆい思いになる。他にも警察や弁護士事務所の人間を騙って自宅を訪れ、「あなたのカードが偽造されています。口座を凍結するために必要です」と、カードを預かる手口も増えているらしい。特に体が不自由で外出できない高齢者は格好の標的となっている。
『九十歳、何がめでたい』(佐藤愛子著、小学館)の「悔恨の記」にも、少し気になる話があった。アクセサリーなどの不用品があれば引き取らせていただきます、という電話が時々かかるそうだ。著者は年寄りなのでそういうものはないというと、何でもいい、時計でも古靴でも着物でも、古本、陶器、何でもと調子よくいう。
この章を見て、私の母の元にも似たような電話があったことを思い出した。但し母には、古靴があったら引き取ります、といってきたのだ。佐藤氏には感じのいい中年女性の声での電話だったが、母の場合は若い女性の声だったという。いきなり古靴を引き取るという話を不審に思った母は、古靴はゴミに出したと言って断るも、その後も同じ内容の電話が来たそうだ。
著名人の佐藤氏はともかく、母は十年以上前からタウンページに個人名を載せていない。にも拘らず、時々妙な勧誘電話がかかってくる。物が捨てられない性分の佐藤氏は、不要のものは何でも頂くという電話に応じて来てもらったら、やってきたのは電話の女性ではなく若い男だったそうな。男は佐藤氏が用意した古本はロクに見ようともせず、こういう。
「ネックレスでもブローチでも何でもいいんですが、キン(金)を使っているものはありませんか」
佐藤氏の娘もこれに引っかかったことがあり、「金製品はありませんか。キン、キン、とそれはしつこい」のでコリゴリしたとか。古靴や古本は口実であり、端から引き取る気はなかったのだ。もし母も応じていたら、同じ憂き目に遭ったことだろう。
古物引き取りますの類は詐欺ではないにせよ、金相場に疎い老女に無知に付け込み、金製品を二束三文で買い叩くのは目に見えている。これは殆ど詐欺行為に近いのではないか?
私の母は今のところ特殊詐欺に遭ったことはないが、タウンページに名がなくとも怪しげな連中がこちらの電話番号を知っているのは実に不気味だ。特殊詐欺集団は老人の名や住所、電話番号のリストを、とうに作成しているのやら。
振り込め詐欺の標的にされるのは高齢者女性ばかりではない。中高年男女も被害に遭っており、私も何時被害者になるか分らない。今日は母の日。これを悪用した詐欺が起きないことを切に願うばかりだ。