Eテレ「ドキュランドへようこそ」(7月3日放送)の「マリー・アントワネット 最後の日々」を見た。少女時代にベルばらをリアルタイムで見た世代なので、マリー・アントワネット特集番組となると気になり、見ずにはいられない。以下は番組サイトからの引用。
「軽薄な悪女」や「伝説の王妃」などさまざまな言葉で評価されたマリー・アントワネット。その最後の日々を、緻密なドラマと専門家たちの解説でひもとくドキュメンタリー。
1793年の秋、恐怖政治の嵐が吹き荒れるフランス。ロベスピエールが実権を握る革命政府は、戦争や貧困にあえぐ大衆の不満をなだめようとマリー・アントワネットを裁判にかける。検察官によって意図的に選ばれた陪審員、でたらめな証言、最小限の弁護、幼い王太子までも巻き込んだおぞましい告発…。
死刑ありきの仕組まれた裁判において、被告人アントワネットは、威厳に満ちた王妃としての姿を人々の目に焼き付ける。
アントワネットを演じた女優は白髪でも若い印象だったが、コンシェルジュリー牢獄のアントワネットを描いた肖像画ではもっと老けており、ドラマゆえビジュアル面も無視できなかったのか。アントワネットを苦しめたエベールもドラマでは髪がフサフサだったが、実際はかなり薄毛だった。
今回の特集では特に新情報はなく、ベルばらのベースとなったツヴァイクの伝記とほぼ同じ内容となっている。ただ新解釈もあり、アントワネットは死刑になるとは思っていなかったのではないか……という歴史家がいたのは驚いた。ツヴァイクの伝記ではコンシェルジュリーに入れられた時点で死を覚悟していたような描き方だったが。
確かに歴史家のいうように処刑ではなく、母国に国外追放という手段もあった。尤も生き延びたところで、その後の人生は生き地獄だったと歴史家は推察している。
祖国オーストリアがアントワネット救出に動かなかったのは、ツヴァイクが書いたように親族が愚かでも冷酷だったためでもなく、フランスと戦をしていたオーストリアが何よりも勝利を優先させていたから、と登場した歴史家は述べている。既にアントワネットはカードとしても使えず、オーストリアは国益が第一だった、と。親族の情など入る余地もなかった。
国民公会によるアントワネットの裁きは見せしめ裁判そのものだ、と歴史家のフィリップ・マンセル氏は述べている。その他見せしめ裁判として氏は英語で、ソビエト・ロシアやヒトラーズ・ジャーマニー、アガレジーム?(※私のヒアリングが悪いのか、5回再生して聞き直し、そう聞こえた)、チャイナ、カンボジアを挙げている。
だが、字幕スーパーではアガレジーム?と共に中国はなかった!一般に日本人には知られない国ならともかく、中国を見事に字幕から外している。
この箇所を見ただけで不快になり、なかなか重厚なドキュメントだったが、以降はすっかり興ざめしてしまった。制作は2019年フランス。番組最後でスタッフは白石江里、立澤麗、制作総括は久米麻子とあり、名前から全員女だろう。
果たして字幕で中国をカットしたのはスタッフか、或いは制作総括の指示なのかは不明だが、このような歴史ドキュメンタリーにさえ中国となると、“検閲”に基づく削除が入ることに愕然とした視聴者もいたのではないか?
昨日付の「痛いニュース」は実に興味深い。記事名が「テレ朝アナ「ウイグル問題を扱うのは中国当局から検閲が入るからタブー」」。これはテレ朝のみならず他局も同様であり、ウイグル問題に限らないはず。ТVはもちろん新聞や雑誌もウイグルやチベットはタブーとなっているはず。
東日本大震災で日本に人道支援した台湾情報も、宮城の河北新報では全く報じなかったことを改めて思い出す。今年春、台湾から200万枚のマスクが無償で送られたが、見逃してしまうほどのベタ記事だった。対照的に中国からの2~3万枚程度の支援は写真付きで大きく取り上げているクズ地方紙である。
歴史ドキュメンタリーとして質は悪くはなかったが、字幕カットの件だけで改めて日本のメディアが完全に隣国の支配下にあることを突きつけられ、何とも後味の悪い番組となった。
◆関連記事:「小説フランス革命」
「マリー・アントワネットの子供たち」
しかし、アガレジームをすっ飛ばすのはともかく、中国と言う文言を字幕に入れないのは変ですね。
悩んだのですが、マッカーシズム(アメリカの赤狩り)じゃないですかね。
PS.
狭義の検閲ではなく自主規制です。
検閲してないんです。理由を言わずに圧力を掛ける(例えば、金を出さない、取材を受けない)ことで、表現側に勝手に考えさせるのです。
狭義の検閲と違って主体性や基準がなく、「自主規制(事実上の検閲)していることが分からない」ので、たちが悪いことがあります。(黒塗りするような検閲は「検閲していることが分かる」ので良心的です。)
GHQ がやったのがこれで、あれもこれもと自主規制するようになりました。
マンセル氏が挙げた見せしめ裁判は、「アガレジーム」以外には20世紀のケースばかりだったので、オスマントルコの役職「agha」は全く浮かびませんでした。私もオスマン帝国時代の見せしめ裁判のことはよく知りませんが、帝都イスタンブルでも厳粛な裁判が行わないこともあったし、まして「agha」が支配していた地域ならなお更でしょう。
この番組は掲示板でも取り上げられ、中国の文字を消したのは白石か立澤か?という書き込みがありました。やはり中国をすっ飛ばしたのは完全な自主規制としか見えません。
>ただ新解釈もあり、アントワネットは死刑になるとは思っていなかったのではないか……という歴史家がいたのは驚いた。
裁判の際にしっかり弁論して国家反逆罪の証拠を相手に握らせなかったので、国外追放処分になると思っていた可能性はあります。しかし、その際に子どもたちとは離れ離れにされるでしょうし、オーストリアに戻っても修道院生活でしょう。それにもし子宮がんを患っていたら、先はそれほど長くなかった筈。個人的にはツヴァイクの伝記の影響でフランツ皇帝は碌でもない人物だと思っていましたが、国民の命と国家の財産を一個人のために浪費する訳にはいかないでしょう。とは言うものの、フェルセンへの借財を踏み倒したのは不愉快ですけど。
ロベスピエールは元来死刑反対論者ですが、ここでは出鱈目裁判を積極的に推進したと言うことでしょうか。ツヴァイクは裁判そのものを愚かで杜撰と言う扱いにしていましたが、ロベスピエールの関与は書いていなかったような。
私のヒヤリングはお粗末ですが、先にスポンジ頭さんがコメントされたように「アガレジーム」とは「agha regime」のことと思えます。フィリップ・マンセル氏はフランスの君主制やオスマン帝国の歴史を専門にする人物なので。
仰る通り、番組で中国の文字を消したのは自主規制でしょう。そのため記事でもカッコ付で“検閲”と表記しました。上からの命令ではなく、空気を読んで「自主規制」したことが考えられます。
そしてメディアの自主規制はGHQに通じていたとは、何とも考えさせられます。事実上の検閲がまかり通るのは本当に始末が悪い。
先にmottonさんがコメントされていますが、狭義の検閲ではなく自主規制であり、主体性や基準がないため質が悪いこともあるとか。中共の命令で中国の国名を削除したとは思えませんが、今や犬HKと罵られる放送局だし、スパイや息のかかった者が組織内にいるのは確かでしょう。その空気を読んで振舞わないと左遷されるのやら。
ネットでも中国大好きと言いいながら、日本に居座っている輩がいますね。連中はメディアを擁護する傾向がありますが、メディア幹部の子弟が米国留学しており、移住先には断然欧米を選ぶはず。白人絶滅を願うツイートをしていても、NYTの編集委員になれる韓国系移民がいるほどですから。
アントワネットは国家機密情報をオーストリアに流していたのですが、生前は発覚しませんでした。証言はデタラメばかりで確証もなく、国外追放処分でもおかしくなかった。しかし、子どもたちとは離れ離れにされ、母国でも王侯貴族の暮らしはもうできない。この番組でも子宮がんを患っていたと見る歴史家がいました。
私もツヴァイクの伝記の影響で、フランツ皇帝は親族には実に冷酷な人物というイメージがありました。しかし、国王の立場からすれば身内のために国益を犠牲にするわけにはいきません。結局フェルセンはオーストリア宮廷では礼一つ言われなかった、とツヴァイクは書いています。
ドラマではロベスピエールは法廷に出ていませんが、陰で見せしめ裁判を推進した印象でした。ツヴァイクの伝記でもロベスピエールは法廷にはいなかったし、後でエベールのでっち上げを聞いて激怒しています。
トップクラスのスパイですが、国王が裁判にかけられるきっかけとなった鉄の箱には何も入っていなかった、と言う事ですよね。ツヴァイクはその辺り記していませんが。オーストリアにしてみたらスパイ一人のために犠牲を払う必要を感じなかった、と言う事です。フランツに関して英語のウィキを見ていたら、ダントンがマリー・アントワネットの身柄を交渉材料にしようとしたものの、フランツは拒否したとか。
ツヴァイクによると、メルシーはフェルセンに対して激怒した事があり、それはフェルセンが王妃の愛人だったことが理由とされていました。しかし、メルシーにすればフェルセンが逃亡を唆したので王妃が窮地に追いやられた、国家間の情勢を悪化させた、と言う感情が入っていたのだろうと。
ツヴァイクは「ジョゼフ・フーシェ」で自分の野心のみで戦争をするようになったナポレオンを批判していました。が、個人感情で動かないフランツを非難するのもおかしな話で、フェルセンに感情移入した結果、限度を超えて避難するようになったのかと思えます。ツヴァイクはナポレオンと結婚したマリア・ルイーザをマリー・アントワネットに関心を示さない鈍い感情の持ち主と非難したとも思いますが、そもそも旧来からの敵国にいる中、その国が処刑した人間に関心を示すのは無理ではないでしょうか。
> ドラマではロベスピエールは法廷に出ていませんが、陰で見せしめ裁判を推進した印象でした。
陰でそのような行動をするロベスピエールがエベールのでっち上げを批判する資格があるとも思えません。しかし、エベールの話は論外にしても、「オルレアン公を殺すために拳銃を携帯」と言う馬鹿げた容疑を持ち出すなど、告発の限度を考えなかったのかと言う裁判ですね。個人的には、まだ王妃がヨーゼフの要請で外交に介入した方を告発すべきだったと言う感じです。
ダントンがマリー・アントワネットの身柄を交渉材料にしようとしていたことは知りませんでした。何といってもオーストリア皇帝の親族、その価値はあると思ったのでしょうが、彼にとってもフランツの拒否は予想外だったかも。
ダントンはアントワネットが国家機密情報をオーストリアに流していたことは知らなかったはずですが、機密情報を入手しつつ親族でも切り捨てたところは国際政治の非情さですよね。
以前のコメントにメルシーは元々逃亡には反対で、それが失敗に終わったことを知り激怒した話がありましたね。王族は窮地に追いやられ、国家間の情勢を悪化させたのは確かだし、外交官としては当然の感情だと思います。
「ジョゼフ・フーシェ」でのナポレオン批判は当然ですが、仰る通りフランツを非難するのは的外れですよね。前者の行為は大勢の戦死者を出したのに、フランツは親族を見殺しにしたにせよ、自国の戦死者を減らすためでした。
またマリア・ルイーザへの非難もおかしい。アントワネットに関心を示せば怪しまれるのは確実だし、トラブルを避けるためあえて無関心を装っていたのかもしれません。
ロベスピエールにとってもエベールのでっち上げは想定外だったのでしょう。あのでっち上げでかえってアントワネットが株を上げたことに怒り、粛清を決意したとツヴァイクは描いています。
アントワネットも都合の悪いことになると、「私はルイ16世の妻に過ぎず、外交に介入したことはない」とシラを切っているし、やはり王族は強かです。