トーキング・マイノリティ

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池田理代子氏-左派寄り劇画家? その①

2008-01-29 21:27:58 | 漫画
 池田理代子氏と聞いて、『ベルサイユのばら』を連想しない人はいない。この漫画が池田氏の代表作なのは書くまでもないが、氏は世界史以外にも日本史や現代を扱った漫画を描いている。「聖徳太子」という作品もあり、同人物を主人公とした山岸凉子氏の漫画『日出処の天子』と合わせて考察したブログ記事を先日読んだが、管理人「郎女(いらつめ)」さんの鋭い見解には大いに刺激された。他のブログを見てインスピレーションが湧くこともある。

 私は山岸氏の「日出処~」は初めの箇所しか見ていないし、池田氏の「聖徳太子」も某大手古本チェーン店で軽く立ち読みしただけなのだ。山岸氏の作品では聖徳太子が超能力者との設定だったゆえ、それだけで敬遠してしまい、池田氏の方は、郎女さんの表現を借りれば「絵はバタ臭い」ため、日本の古代史を描くのに相応しからぬ違和感を感じてしまった。それでも郎女さんと違い私が手に取ったのは、何といってもあの“ベルばら”の著者だったから。作品としては山岸氏の方が先であり、奇しくも池田氏とは同い年である。

 池田氏による山岸氏の作品への盗作疑惑問題なら、私も新聞の週刊誌の広告見出しで目にしている。ただ、その週刊誌記事を未読なので、郎女さんの記事を参考にする外ないが、池田氏の山岸作品批判記事を掲載したのが朝日新聞というところが引っかかる。何しろネットスラング「アサヒる」なら、マスコミに対する痛烈な批判用語として有名だからだ。郎女さんも「朝日新聞のコラムの書き方そのものがよくない」と書かれていたが、氏を「東京教育大(現筑波大)の哲学科に学び、「学者になりたかった」という池田は、歴史を徹底的に掘り起こして作品にすることを信条とする」と紹介しているのだ。一方山岸氏の履歴は載らなかったらしく、朝日は明らかに池田氏に肩入れしていると受け取られても仕方ない。

 池田氏ならず私も「聖徳太子と蘇我毛人との霊的恋愛を描いた」山岸作品に違和感を覚えた。ただ、奇想天外なファンタジーを持ち込むのは歴史漫画に反するとするなら、“ベルばら”もかなり際どい作品となる。史実に忠実に漫画を描けば、オスカルの存在自体が成立しないではないか!あの時代、フランス宗教界はかなり規律が弛緩していたにせよ、カトリック国家であり、建前上国王は宗教界の守護者でもあったのだ。それを由緒ある貴族が跡継ぎがいないため娘を男児として育てるなど、到底ありえないことである。古典「とりかへばや物語」の世界ではあるまいし、このような物語が成立するのも宗教の絶対的ドグマがない日本ならでは。

 郎女さんと同じく私も、池田氏が“ベルばら”のヒントにしたというシュテファン・ツヴァイクの小説「マリー・アントワネット」を読んでいる。読んだのは中学生の頃であり“ベルばら”がきっかけだったが、やはり漫画とは空気が違う印象を受けた。特にショックを受けたのが、“ベルばら”には登場しなかった王妃の親友ランバル公妃の最後。昨年の記事でも書いたが、これだけでフランス革命を闇雲に讃える文化人の言を無条件には信用できなくなった。革命に流血惨事は付き物だが、美貌の貴婦人へのこれ程惨い虐殺は日本ではまず見られない。少女漫画という制約もあったのか、“ベルばら”にも革命の暗部はまず描かれていない。

“ベルばら”が描かれた'70年代初頭は特にマルクス史観全盛時代であり、革命というだけで文化人やマスコミは礼賛していたものだ。何しろあの文化大革命さえ、明確に非難した文化人が日本にどれだけいたろうか?'70年代後半の私の高校時代、世界史の教師もフランス革命を賛美していた。少女漫画にも、時代の影響が色濃く反映されるものである。中学時代だったと思うが、私の同級生に大の“ベルばら”ファンがおり、その生徒から池田氏がインタビューで尊敬している人物にマルクスと答えていたのを聞いた。たとえ非共産主義者であっても、当時の日本のインテリにマルクスは絶大な人気があった。

 '60年代に一世を風靡した劇画家・白土三平など、典型的なマルクス史観に基づいた作品を数多く描いている。昨年1月、白土の作品「赤目」を記事にしたが、“くもり”なる人物から興味深いコメントがあった。この者がマルキストなのかはコメントだけでは不明だが、少なくとも左派寄りなのは文面から確実だ。さらに「赤目」を見ていたならば、決して若くはないのが伺える。このフィクションを史実として描いた劇画を、発表から十年も経て(つまり'70年代)大きく支持した学者たちがいたことをコメントから知った。「勉強家で洋書もよく読んで」いたはずの白土があのような作品を発表したのも問題だが、白土劇画を支持した学者連中は遙かに性質が悪い。歴史捏造のお先棒を担いだ文化のハゲタカといったところか。
その②に続く

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