先日某シネコンで、『2001年宇宙の旅』を観てきた。20年近く前にもこの作品を見たことがあり、これもリバイバルだったが、既にSF映画の金字塔と謳われていた作品だったので映画館に行ったのだ。40年以上前に制作されたにも関わらず、改めて映像と全編に使用されているクラシック音楽の質の高さに驚く。同時に難解なストーリーでも有名な作品だし、今回見直してみてもやはりよく分からない。
私と同じくこの作品を見た人が、特に疑問に感じたのは次の3点に尽きるのではないか。
1.“モノリス”こと、あの黒い石版は何なのか?
2.コンピュータHAL 9000は何故反乱を起こしたのか?
3.宇宙船ディスカバリー号のボーマン船長はどうなったのか?
初めてこの作品を見た時、映像の素晴らしさに感動したと同時にコンピュータが反乱を起こし、人間を殺害する場面はショッキングだった。世界で最高性能を持つ高度コンピュータが殺人を行うのだから、この作品でコンピュータに悪印象を持った人も少なからずいたのではないか。造反の原因が命令系統の矛盾によるものなのは、今回見直してみて納得できたし、ボーマン船長によって強制機能停止されられる直前、「怖い」「止めてほしい」を繰り返し訴えていたのはかなり“人間的”で、前回の悪印象は薄らいだ。
作品は3部構成となっており、第3部「木星 そして無限の宇宙の彼方へ」に至っては理解不能となった観客が大半だろう。独り生き残ったボーマン船長が探索を続けるまではともかく、辿り付いた先に突然地球の高級ホテルを思わせる白い部屋が出てくる。その部屋でまたもモノリスが登場。ラストで胎児が現れ、地球を見ているシーンで分からなくなる。恥ずかしながらwikiの解説で、あれが人類を超越した存在・スターチャイルドへと進化を遂げたボーマン船長だと知った。
『2001年~』で最大の謎はやはりモノリスなのだ。この作品はモノリスに始まり、モノリスに終わると言ってもよい。映画ではこの物体に関して一切の説明がない。それだけに想像をかき立てられるのだが、人類の進化に貢献したことだけは分かる。序章「人類の夜明け」で、突如現れたモノリスに驚きつつ触れた類人猿が、動物の骨が道具や武器になることを覚えるシーンは印象的。敵対する群を動物の骨で打ち据え、水場争いに勝った類人猿が骨を投げ、次の場面でそれが宇宙船に変る。骨から宇宙船を製造するまで人類は進化したのだが、宇宙船は同時に攻撃武器にもなるのだ。
モノリスを作ったのは誰か、それを地球や月に打ち込んだ目的は何なのか、映画では全く触れていない。そこが難解と言われる処だが、アーサー・C・クラークの原作には解明されているのだろうか?クラークの作品は学生時代に『幼年期の終り』『海底牧場』を読んだだけで、『2001年~』は未見。映画を観て、原作も読みたくなった。
この作品は音楽と映像で見せてしまう映画の代表作でもある。特撮も素晴らしいが、クラシック音楽がSF映画にあれだけマッチする意外性もあった。特にメインタイトルや類人猿の目覚め、ラストと3度流れる「ツァラトゥストラはかく語りき」は圧巻。クラシックに疎い私でもあの音楽は1度聞いただけで忘れ難い。宇宙ステーションや宇宙船が映るシーンでも、「美しく青きドナウ」が流れる。クラシックが使われたためかストーリーのテンポもゆったりで、途中で眠くなってしまったと言った知人もいた。
やはり60年代後半に制作されただけあり、時代を感じさせられるシーンもあった。この作品ではパンナムのロゴが見えていたが、この名門航空会社は1991年12月に破産している。制作当時、誰がパンナムの倒産を予測できただろう。また、見るからに味気なさそうなトレイ入りのペースト状の宇宙食が登場するが、20世紀中に宇宙食はかなり進歩しており、種類も豊富となってきた。
しかし、未だに人類は映画のように有人木星探索宇宙船を飛ばすことはもちろん、高度な宇宙ステーションの建設も難しい有様。地球外知的生命との遭遇はなくとも構わないが、『2001年~』の世界が実現するのは何時の日になるのだろう。
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mugiさんが仰るように、本当に宇宙ものにはクラシックはよく合いますよね。mugiさんも見られた事もあるという銀河声優伝説のアニメにも多くのクラシックの曲が使われ、とてもマッチしていまいした。ご存知かとは思いますが、このアニメでは、ラヴェルのボレロを初め、ドヴォルザークの第九等多くの曲が使われていましたね。
クラシックとアニメと言えば、かわぐちかいじ先生の漫画、沈黙の艦隊でも有名な場面がありました。これは、逃亡中の原子力潜水艦やまとを追いかけていた米原子力潜水艦に対し、海江田艦長は自身が好きなモーツァルトのジュピターを艦内に流し、浮上を続ける度にそのボリュームを上げていきました。そして、米原潜が気付いた時には真横にいた、という場面がありました。
映画:地獄の黙示録といえばワーグナーのワルキューレの騎行が有名ですが、ミリタリーとクラシックも合いますね(もちろん、エルガーの威風堂々や軍艦行進曲(いわゆる軍艦マーチ)等、ミリタリーとクラシックは切っても切れない関係にあるようですね)。
SFには電子音楽が合いそうなイメージがありますが、実際はクラシックの方がマッチしますよね。あの広大な宇宙空間には壮大なクラシックの方がピッタリでしょう。電子音楽では安っぽくなると思います。そして銀英伝でもクラシックが効果的に使われていました。これがロックなら、印象がよくないでしょう。
『沈黙の艦隊』はアニメ化されていたのでしょうか?ならば、行きつけのレンタル店で探してみたいですね。こちらもクラシックが使われていましたか。
地獄の黙示録でのワルキューレの騎行は圧巻でしたね。これで初めてこの曲を知りましたが、このシーンの動画もアップされています。
http://www.youtube.com/watch?v=IHUSmOQnzEk
この場面でモーツアルトを使えばズッコケますが、ワーグナーは本当にミリタリーに合います。軍隊行進曲のようにミリタリー向けに作られたクラシックも少なくないし、オスマン帝国には軍楽隊がいました。有名なのがジェッディン・デデン(祖先も祖父も)、こちらも動画サイトがあり、元気が出る曲です。
http://www.youtube.com/watch?v=ntVtN3g6ERM
この映画は何を描こうとしているのか?それがわからない映画です。でも、映像を楽しめばいいかなと思いながら見ました。宇宙船の中で万年筆が浮かぶ場面は「さよならジュピター」で真似されていました・・・(^^;
>未だに人類は映画のように有人木星探索宇宙船を飛ばすことはもちろん、高度な宇宙ステーションの建設も難しい有様。
それどころかアポロ11号の月面着陸さえも捏造と言う説もありますね・・・(苦笑)。
この映画が製作されたのは1968年。2001年になればこれぐらい科学が進化すると信じていた人も多かった事でしょう。
この作品は難解さでも有名なSF映画でしたよね。私も宇宙ステーションの中の無重力状態の映像は印象的でした。「さよならジュピター」は未見なので、2001年のシーンが真似されていたとは知りませんでした。それだけ質の高い作品となりますね。
>>それどころかアポロ11号の月面着陸さえも捏造と言う説もありますね・・・(苦笑)。
私もネットをするようになって、これが捏造だったという陰謀論を知りました。ガガーリンの世界初の有人宇宙飛行にも疑いがもたれています。真相は不明ですが、2014年になってもこの映画のような宇宙ステーションの建設もしていない。何時になったら人類は宇宙の旅を実現できるのでしょうか。
そうなんですよね。彼はその7年後に死去。
>何時になったら人類は宇宙の旅を実現できるのでしょうか。
1970年代。子供用の雑誌や科学の本。「2000年代になったら、こんな感じになっている。」と言うのがよくありました。宇宙ステーションだけでなく、地球上もすごい科学の進歩。超高層ビル。空中を走る車。何でも出来るロボット。2010年代となった現在では虚しいです。
ただ、携帯電話そしてスマホと言った小道具で音楽・テレビ・パソコン・地図・・・etc.そのあたりに関しては本当に進化しましたね。
ガガーリンの死は一応事故とされていますが、様々な憶測が飛び交っています。一躍「時の人」となって、精神的に苦しんだのは確かでしょう。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A6%E3%83%BC%E3%83%AA%E3%82%A4%E3%83%BB%E3%82%AC%E3%82%AC%E3%83%BC%E3%83%AA%E3%83%B3
1970年代の子供用の雑誌や科学の本を見ていたならば、貴方も私と同世代となりますね。当時の本では21世紀の著しい科学技術の予想で溢れていましたが、殆ど現代でも実現出来なかった。一方で仰る通り、映像や通信などの小道具では驚異的な進化を遂げました。
昔のSFでは、カセットテープやビデオテープが未来でも使われているストーリーがあります。SF作家の予想を軽く超えてしまったのです。
>昔のSFでは、カセットテープやビデオテープが未来でも使われているストーリーがあります。
そうなんですよ。星新一氏のSF小説でも「電話のダイヤルを回す」と言う表現が出て来ます。晩年の星新一氏は自分の小説に永遠の命を持たせようとして、その部分を「電話のプッシュホンを押す」と言うように直しました。しかし、その後携帯電話やスマホの普及・・・。
また、昔のSF映画を見るとブラウン管のテレビ(ディスプレイ)が多いです。機械のスイッチも出っ張った物とか。
>貴方も私と同世代となりますね。
どうやらそのようです・・・(苦笑)。
>ガガーリン
謎が多過ぎます。
>制作当時、誰がパンナムの倒産を予測できただろう。
予測できなかったでしょうね。これからも「まさかあの大企業が・・・。」と言う例があるかも知れません。2008年のリーマンショックのように。
星新一氏の生前ではプッシュホン電話が最先端の通信機器だったのでしょうね。それが今のスマホにまで進化するとは、SF作家でも想像出来なかったのです。
フランソワ・トリュフォー監督の『華氏451』では、確か壁掛けTVが出てきたと思います。壁掛けTVを通じ体制が大衆を洗脳するのですが、主人公の妻は優雅な専業主婦で、1日中ТVを見ている。まもなく女性の社会進出が始まり、専業主婦が批判される時代になりました。SFならずとも、20世紀初めは女性の議員や首相が登場すること等、想像もできなかったはず。
あのパンナムが倒産したのだから、半世紀もしない間にマイクロソフトやアップルがそうなる可能性はありますね。意外にしぶといのがフィリップモリスのような煙草会社。