最近はあまり見られないが、少し前までは夏になるとТV時代劇で怪談を放送していた。かなり前だが、民放の時代劇での牡丹灯籠を見た覚えがある。先日、行きつけの図書館に「ホラーセレクション(1)牡丹灯籠」(ポプラ社)があったので借りてきた。出版社では内容をこう紹介している。
―浅井了意「牡丹の灯籠」、五代目・古今亭志ん生「牡丹灯籠~お札はがし」、岡本綺堂「随筆」、「怪談 牡丹燈記」、さねとうあきら「四谷怪談」、「真景累ヶ淵・紹介」の6編を収録。表題の「牡丹灯籠」は、娘の幽霊に恋した若侍が、死の世界にひきこまれてしまう物語で、原話は中国。日本では歌舞伎や落語にとりいれられ、異なる面白さをあじわえます。
日本発の怪談なのが明らかな四谷怪談と違い、牡丹灯籠のルーツは中国だったのか。どおりで若い女の幽霊が牡丹灯籠を持って登場していたワケだ。やはり牡丹といえば中国のイメージが強く、派手な牡丹灯籠を持って登場する幽霊は日本風でないと感じた。
本作の編集者・赤木かん子氏の解説によれば「牡丹燈記」とは、中国明代の怪談を集めた『剪灯新話』(せんとうしんわ)の中にある話で、16世紀初めに日本に伝わってきたという。その影響を受けて奇異雑談集が作られ、その中に「牡丹燈記」が入るが、その時のタイトルは「女人死後男を棺の内へ引込み殺すこと」だったとか。
本作で紹介されている「怪談 牡丹燈記」は、あまりにも日本版とは結末が違っており、まさにホラーだった。
牡丹燈記の主人公は喬生(きょうせい)で、早く妻を亡くしてから独身を続けていた男。妻の死後家にこもりがちで外出もあまりしなかったが、ある祭りの夜に、ふと祭り見物する気になり、美しい娘と運命の出会いをする。舞台は元朝末期の明州。
娘は牡丹の花飾りを付けた灯籠を掲げている召使の女を伴っており、娘の名は符麗卿(ふれいきょう)、召使は金蓮(きんれん)だった。彼女らは日本版のお露とお米に当たり、2人とも幽霊だったのは書くまでもない。
隣人の老人から符麗卿らの正体を知り、家の門口と部屋に護符を貼って幽霊封じをする喬生だが、護符をくれた道士の言いつけに背いた彼は麗卿に殺される。寺には家族を亡くしたため引き取り手のない麗卿の棺が安置されていたが、棺の中には無残にも胸をえぐられて絶命した喬生と、その傍らにはまるで生きているかのような麗卿の遺体が横たわっていた。
棺は手厚く埋葬されたが、事件はこれに止まらなかった。月の無い小雨の降るような晩になると、寺の西門近くに牡丹の花の灯篭を下げた喬生、麗卿、金連の3人連れの幽霊が現れ、通る者を手招きで引き寄せ、胸を裂いて命を奪う。運よく手招きから逃げおおせても、得体の知れぬ病に取り付けれ、苦しみ死にするのが落ちだった。
3人の悪霊封じのために、強力な霊能力を有する道士・鉄冠道人(てっかんどうじん)の助けが必要となった。喬生らを捕らえた鉄冠道人は、再びこの世に出て悪業を重ねないようにと、奥深い冥府の牢獄に3人の霊を押し込めた。鉄冠道人も厳格な性質らしく、彼のことをみだりに話した人物の口を利けなくしている。
それにしても、中国の原話は恐ろしい。日本版では被害者は新三郎くらいだが、本国ではさらに犠牲者を出すのだ。しかも胸をえぐっての殺害とは酷い。いくらフィクションでも、このような残酷な殺害が記されているということは、あの国ではリアルでも胸裂きの刑があったのやら。何といっても20世紀初めまで凌遅刑が行われていたのだから。
日本でストーリーが改ざんされたのも、原話そのままでは到底日本人に受け入れられないからだろう。ロマンス仕立てになっている牡丹灯籠と違い、幽霊に恋した男の悲劇だけでは済まないのが中国である。
『続 妖怪画談』(水木しげる著、岩波新書)には複数の中国の妖怪が載っている。その中のひとつ「産鬼」は産婦に取り付き、出産をさまたげる妖怪。出産をさまたげるばかりか、産婦を殺したりする。難産で死んだ女が産鬼になるというが、「日本の“産女”と違って、こちらは無念の気持ちが、ずい分残忍な形で現れるようだ」という著者。
怪談に残忍な妖怪が登場するのは、国情や民族性が影響しているからだろう。人を食い殺す日本の妖怪もいるが至って少なく、妖怪以上に恐ろしい人間がザラにいるのがかの国である。
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「日本の妖怪、外国の妖怪の違い」
杜子春にも中国の原話があることは知りませんでした。wikiを見たら、確かに中国の原話はあの国らしい内容でした。日本版の結末は発表が児童雑誌ということもあり、親子愛の話に変えたのでしょう。