ピアノ弾きの娘が、両手の3、4の付け根の筋を痛めてしまいました。使い過ぎだそうです。名大病院で診察を受けました。
それから1カ月後。6月に入りやっと、自分の音楽とピアノに向かうことが出来るようになりました。
「お母さん、聞こえた?いい曲でしょ。」レッスン室から出てきた娘が、明るい顔で言いました。
左手だけの曲を探してきたのです。
スクリャービン作曲<左手のためのプレリュードとノクターン>
左手の痛みは取れたようです。弱々しい音ですが、娘のピアノがまた聴こえるようになりました。
「右手の人さし指がしびれるの。」 4月のことです。
そのうちに箸が持てなくなり、左手にも痛みが来てしまいました。
それでも、5月のコンサートに向けて、懸命に休み休みピアノを弾いています。
時々尋ねます。
「痛む?」「・・ン・・」
5月5日を最後に、痛みで全く弾けなくなり、当然10日の本番は出演出来ませんでした。
主催者の方々、来て下さった方々、本当に申し訳ありませんでした。
「翼の折れたエンジェル~♪」たまたまテレビから流れてきました。
後の歌詞はよく知りませんが、その言葉だけが突き刺さります。
これほどまでに長い間ピアノを弾かないことは、初めてのことです。
ピアノを弾かないと、これほどまでに何もすることがなく、ただ時間が物凄~くゆっくり進むことに耐えるしかない・・・暗く辛く、重い日々が試練として、娘に与えられたのです。
幼い頃から、当たり前のようにピアノを弾いてきた両手、両指の1本1本への感謝。
当たり前のようにピアノを弾ける日々への感謝。
お世話になり、心配して下さった全ての人々への感謝。
当たり前とは、とても幸せなこと。有難いこと。
充分わかっているはずなのに。
娘本人だけでなく母も、感謝の心が足りなかったのだろうか、今までやって来たことに間違いはなかったのかなど、多くのことを考えさせてもらう時間をいただきました。
「こんなに辛くとも、お前はピアノを続けることが出来るか。」
娘の人生と同じくらいの間を酷使してきた、この世にひとつしかない娘の右手に、母子共々に問われているような気がしてなりません。
それとも、やはり弾き過ぎて右手を壊したスクリャービンに出会う為、導かれているのでしょうか。
レッスン室から、娘のピアノが聴こえる幸せ・・・「お母さん、綺麗な曲でしょう」
娘が乗り越えようとしています。
直に右手も蘇ることと思います。
娘の、エネルギー溢れる演奏が聴けることを楽しみに待ちましょう。
皆様、ご心配をおかけしました。娘に明るい笑顔が戻って来ました。ありがとうございました。
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