埼玉県の里山で行われるトレイルランニングの大会に、前泊で参加した。
旅のともに、当初バッグに入れたのは清岡卓行『郊外の小さな駅』だったが、ふと思い返して本書に入れ替えた。詩情を纏った爽やかなエッセイ集は悪くないけれど、闘いの前のモチベーションに、ミスマッチかもしれない。加えて、昨年の秋に、この本で“ヤマケン”からもらった走る悦び、感謝の気持ちを、再びインプットしておきたいと思った。
宿で時間はあったので、ほぼいっきに読んだ。二回目の通読で新鮮さはないが、私が昨年、このモチベーションの高さを自らに伝染させていき、それを走りに体現させようとした過程を思い出した。
そのときの自分に激励されるように、力が湧いてくるのを感じた。また、純粋に、“ヤマケン”みたく楽しもうじゃないかと思えた。翌日の大会に参加するにあたって、私は順位のことばかり考えていたのだ。
本書を旅のともに選んだのは正解だった。ギラギラしていたものが、和やかな気持ちになっていて、走りながらも気持ちと身体に余裕があった。走れる幸福に感謝しながら、楽しんでゴールでき、結果もまたついてきた。
こういう、精神安定剤(良い意味での興奮剤でもある)の作用は、場面ごと選ぶべき本は異なってくるだろうが、読書のひとつの効用として使いこなせたら良いなと感じた。
