よい子の読書感想文 

読書感想文564

『暗黒星・闇に蠢く』(江戸川乱歩 春陽文庫)

 私にとってはお馴染みの春陽文庫、リニューアル前の地味な装丁のシリーズである。中学3年の夏、受験から現実逃避するように、古本屋で見つけては読み漁った記憶が、つい近頃のように感じる。
 また、小学校時に愛読したポプラ社の少年探偵シリーズは、活字の世界に私をいざなった灯台のような存在だった(あの、おどろおどろしい表紙の絵が、幼い心にドキドキわくわくのイマジネーションを喚起してやまなかった)。
 と、好印象の江戸川乱歩だが、本作は期待せずに開いた。昭和30年代以降の長編は、多産のためか通り一遍な推理・ストーリーで、あまり熱中できるものは少ない印象なのだ。でも、気楽に、こだわらずに、頭の中を通過させていく。活字でできた小川のようなもので、頭の中という暗渠を漱ぐ。たまにこういう読書をして、肩の力を抜くことも私には必要だと、ここ数年来の習慣である。
 とはいっても、本作は江戸川乱歩らしからぬ雑な出来だったと思う。
『暗黒星』は最後に明智探偵が種明かしするまで読者はただ受動に陥るしかないし、真犯人の動機も突飛な筋立てに基づいている。三文小説という感じである。
『闇に蠢く』はまだ読者を引っ張るスリルがあったが、終盤にかけ人肉食に話が猟奇的にまとめられていき、だんだんうんざりしてきそうだった。ことに、『レイテ戦記』で戦場の人肉食についての悲痛な言及を読んだ直後ゆえ、気軽に猟奇的なネタとして描くスタンスに嫌気を感じてしまった。
 まあ、当時は障害者を“かたわ”とか“奇形児”と称して座敷牢に閉じ込めたり見せ物小屋で見物に供した、人権や尊厳など度外視の時代であり、またそういうおどろおどろしさを作風にもしていた乱歩だけに、仕方ないのかもしれない。
 しかし、どうしても気になるのは、ゴーストライター説である。若い頃、あれだけ秀逸な短編を多作した乱歩が、いかに出版社の要請とはいえ、こんな品質のものを無節操に書き連ねただろうか。そう疑いだすと、文体の中に乱歩の特性をことさら真似してみせているようなところもあって、疑念は深まるのであった(たとえば乱歩の同性愛的嗜好を強調するような描写が、繰り返し挿入される)。
 春陽文庫のこのシリーズ、心の清涼剤として読み続けてきたが、今後も続けるべきなのか、ちょっと疑問に感じ始めた今回である。


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