よい子の読書感想文 

読書感想文592

『十字路 他一編』(江戸川乱歩 春陽堂)

『十字路』及び『盲獣』の二編を収める中編集である。
『十字路』は小学生のころ、少年探偵シリーズで読んだ淡い記憶がある。難しくて、楽しめなかったのを覚えている。『盲獣』は映画にもなっていて、ある意味メジャーな作品だ。
 前回、乱歩作品を読んだときは、マラソンのタイムを出すため日々アスリート並みに走り込んでいて、そのせいか病的な乱歩世界を堪能できなかった。だから、タイミングという観点からは、怪我をして走れない今は乱歩を読むのに適した精神状態だったかもしれない。
 というわけで、前回よりは作品に入っていけた。しかし『十字路』には終始、疑問を感じながら読んだ。文体があまりにも乱歩らしくないのだ。
 現代的で、シャープな文体は、自動車を用いた犯罪を描くような現代的サスペンスに適していよう。けれど本当に乱歩が書いたものなのか? と疑い出すと白けてしまうのだった。もしかしたら時代や作品に即して文体をも変えていたのかもしれないが。
『盲獣』は乱歩らしいといえばらしいが、初期の短編に見られる機微な味わいはなく、ただ猟奇に走るのみで、そこにクローズアップした映画の題材には良かったのだろうなと思った。
 あまりにもアブノーマルな話で、しだいに厭きて荒唐無稽さが浮き上がってきて、猟奇に浸ることなどできなかった。
 通勤電車の眠い頭で読むのには悪いチョイスではなかったが、やはり乱歩は、病床で読むべきものなのである。

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