どんなきっかけだったかは忘れたが、Amazonでみつけた。著者については存在すら知らなかったので、あんまり期待もせずに読み進んだが、なかなか面白くてすぐに読み終えてしまった。
明治期、北千島占守島の拓殖に生涯を賭けた実在の人物、海軍予備大尉・郡司成忠に取材した歴史小説である。
そういった人物がいたのさえ知らなかったので、開国当初の日本における辺境探検や拓殖について大変興味津々に読めた。
感情移入を避けて資料を引用するのも自然で、新田次郎みたいな書き手だなと思ったが、幾分か主人公の顔が見えなさすぎ、その性格が読めず、あえて読者の想像力に任せたのかどうか微妙な印象は持った。
とはいえこういう描き方が歴史小説においては王道なのかもしれない。作中人物に仮託する読み手によって、その人物像に自由度はあっていいだろうし、ドラマや映画になるにしても、監督や主演の俳優によって味付けは様々になろう。
また解説によって著者の通底するテーマを知り、納得する部分、同意したいところも大きい。まだまだ私の知らない名作はこうしてたくさん埋もれているのかと思えば、時間は無駄にしたくないなと思う。
ひどい挫折を経て偏屈な老人になっていく作品の後半部分は、主人公の顔が見えないぶん、やや消化不良な読後感ではあったが、エピローグとして添えられた話に補完されて、いちおうの決着はついている。しかし続編や番外編があったらいいなという感じもした。
