新聞で「全米図書賞」受賞と話題になっているのを目にして、即買いした。福島県相馬郡出身の男がホームレスに転落していく様を、原発事故と並行的に描くという。柳美里といえば、当事者たらんとして福島に移住したことで、作品以外で目立つ昨今だったが、共にあろうとする覚悟や本気さが、この作品に投影されているのかもしれないと思って大いに期待した。
一人の人生を辿りながら、その結末に、救いのない原発事故が添えられる。叙事詩として、走馬灯を眺めるような鑑賞ができる。こうした作り方が、海外でも受け入れられた要因かもしれないし、同じ意味で、時代を問わず読み継がれていくものになるかもしれない。
しかし、ちょっと腑に落ちない部分も少なからずあった。
主人公は、息子と妻を亡くして、孫に世話になる日々から逃げるように家出し、上野駅でホームレスとなる。そこに必然性を感じられるような作り込みが足りているとは思えない。
また、ラスト、死者の視点で、原発事故が俯瞰される。これは映画的なエンディングとしてはアリかもしれないが、とってつけたような印象が拭えなかった。ホームレスになるしかない切実さや、原発事故の取り扱いが、悪く言えば詩的にぼかされていて、小ぎれいに纏められているように感じてしまった。
誰もが、いつでも、どこでも読める。そういう狙いのもとに、意図して書かれたものなのかもしれないけれど。
