十代終わりの乱読期に、読んだような読んでないような、曖昧なままだった。菊池寛……今さら? という思いもあって手が伸びなかった。大衆的な小説の元祖というイメージが独り歩きしていた。
自然と手が伸びて、自分の狭い好みの範疇から飛び出す冒険ができるのは、\100コーナーの楽しさである。
と、まるで\100じゃなきゃ手に取りさえしないみたいな書き方になったが、読んでみてその姿勢があまりに失礼だったかなと反省した。
面白かったのである。身に迫るような文学ではないが、歴史好きな私にはページを繰る指も軽かった。注釈を紐解くのも、歴史の辞典を辿るような面白みがあった(これは著者でなく編集サイドのおかげなのであるが)。
封建制の打破という通底するテーマが菊池寛の歴史小説に盛り込まれている、というのは解説を見るまで気づかなかった。それは後に続く歴史小説作家たちが、菊池寛の手法をベースにした結果、その姿勢が=歴史小説のスタンスになっていったから、というのは驚きだ。
それにしてもこれらが大正時代の作品とは俄には信じられない。古くさくない。題材のためもあろうが、今さらなんて考えていたのを恥じねばなるまい。
とはいえ、作品それぞれの感想を書かねばならない義務感が湧かないのは、やはり気易い作風のためだろうか。
他の代表的なものにも食指を伸ばしていきたい。
