
スターリン伝はさまざま出ているが、どれも政治的に一方の側から描かれたような匂いがして、何を信じれば良いかわからなかった。
その点、本書は中立的な立場から、私的な面を描いた稀有のスターリン伝記である。大いに参考になると思って読んだ。
その若き日から備えていた党への全身全霊の忠誠心は、権力を握るにつれ、他者への威力として悪いほうに発揮されていく。その推移を本書は教えてくれた。
スターリンはグルジアの活動家として活躍し、「妥協を断乎として拒むことこそ。革命運動における最上の武器なのだ。私が粗暴で無礼な男だと人はいうかも知れない。しかし、そんなことは私には問題じゃない。私は、党を破壊しようとするあらゆる敵と戦いつづけるだろう」と宣言、若干22歳にして党指導者の一員にのしあがった。
粗暴といわれようが、革命を断乎行う。危急存亡のときに、この強引な暴力性と指導力は、必要とされ、評価もされたのだろう。
党の資金を得るため、銀行強盗すら行うのである。(日本のブント赤軍派が同様のことを行っていたのも、こうした先例があったわけである)
と、後のスターリンを知る上で、グルジア時代は示唆に富んでいる。しかし驚くべきは、その飽くなき欲である。権力欲、物欲、性欲、その衰えを知らぬ欲が、ソ連の独裁者としてスターリンを支えていく。
党のためという欲は、党=自分だったのではないかとさえ思える。晩年の狂乱は、信じ難い。猜疑心に振り回され、腰巾着はこれに応じて暴虐の限りを尽くした。
それでもソ連が倒れなかったこと、独ソ戦に勝ったことは驚異だが、もしかしたら、ロシアの国家、軍隊は、非常時を乗りきるのに、スターリンの狂気を必要ともしていたのかもしれない。
普通の神経の持ち主であるなら、あれほどの死者を出してなお、戦いつづけるだろう続けようとはしないだろうから。
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