見出し画像

よい子の読書感想文 

読書感想文865

『スターリン その秘められた生涯』(バーナード・ハットン 木村浩訳 講談社学術文庫)

 スターリン伝はさまざま出ているが、どれも政治的に一方の側から描かれたような匂いがして、何を信じれば良いかわからなかった。
 その点、本書は中立的な立場から、私的な面を描いた稀有のスターリン伝記である。大いに参考になると思って読んだ。
 その若き日から備えていた党への全身全霊の忠誠心は、権力を握るにつれ、他者への威力として悪いほうに発揮されていく。その推移を本書は教えてくれた。
 スターリンはグルジアの活動家として活躍し、「妥協を断乎として拒むことこそ。革命運動における最上の武器なのだ。私が粗暴で無礼な男だと人はいうかも知れない。しかし、そんなことは私には問題じゃない。私は、党を破壊しようとするあらゆる敵と戦いつづけるだろう」と宣言、若干22歳にして党指導者の一員にのしあがった。
 粗暴といわれようが、革命を断乎行う。危急存亡のときに、この強引な暴力性と指導力は、必要とされ、評価もされたのだろう。
 党の資金を得るため、銀行強盗すら行うのである。(日本のブント赤軍派が同様のことを行っていたのも、こうした先例があったわけである)
 と、後のスターリンを知る上で、グルジア時代は示唆に富んでいる。しかし驚くべきは、その飽くなき欲である。権力欲、物欲、性欲、その衰えを知らぬ欲が、ソ連の独裁者としてスターリンを支えていく。
 党のためという欲は、党=自分だったのではないかとさえ思える。晩年の狂乱は、信じ難い。猜疑心に振り回され、腰巾着はこれに応じて暴虐の限りを尽くした。
 それでもソ連が倒れなかったこと、独ソ戦に勝ったことは驚異だが、もしかしたら、ロシアの国家、軍隊は、非常時を乗りきるのに、スターリンの狂気を必要ともしていたのかもしれない。
 普通の神経の持ち主であるなら、あれほどの死者を出してなお、戦いつづけるだろう続けようとはしないだろうから。
名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「人物伝」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事