茨城県教育委員会は2007年4月、県立高校一年生を対象に、全国で初めて道徳の授業を必修化。「総合的な学習の時間」のうちの週1時間、年間で計35時間を充てる。家庭や地域の教育力や子どもたちの規範意識が低下していることを踏まえ、高校時代に、自身と向き合い生き方を考える時間が必要だと判断した。
道徳って学校に持ち込まれることで、『修身』にまた逆戻りしないか。心のノートは、まだ小中学校に使われている。
東京新聞から
2009年12月22日
「赤ちゃんポストの是非」をテーマに意見を出し合う生徒と丹教諭(中)=茨城県日立市の日立第二高校で
「赤ちゃんがかわいそうなことになるならあった方がいい」
「でもあったら頼り過ぎるんじゃないの」
「命がなくなるのが一番良くないよ」
茨城県立日立第二高校(同県日立市)の一年五組の教室。道徳の授業中、女子生徒三十六人が四班に分かれて意見を交わす。テーマは「赤ちゃんポスト」の是非だ。
担当の丹佳織教諭は生徒の意見を一通り聞くと、「ポストの利用、理由の四割は親の身勝手」という新聞記事を見せた。「私こういうの許せない」。一部の生徒から怒りの声が上がる。丹教諭は「逆に六割はやむを得ない事情だったのかもしれない」と別の視点を提供し、さらに「どうすればポストがなくなるか考えてみて」と問い掛けた。
自身も子育て中という丹教諭。ポストの設置に賛否両論があることを見越して「いろいろな意見を聞き、命の尊さを考えるのにふさわしい」と思い、テーマに選んだという。
県教育委員会は二〇〇八年十二月、道徳の授業に関するアンケートを実施した。その結果によると、生徒の八割以上が授業を受ける前と比べ、他人とのかかわりや自然と命の大切さを考えるようになり、教員の六割以上がそうした生徒の「変化」を実感していた。県教委高校教育課は「必修化の成果は出ている」と受け止める。
教員は学期末に、数値ではなく「友達への思いやりの心が育っている」などと記述式で生徒を評価する。比較の対象は他の生徒ではなく、四月時点の「過去の自分」。解答が一つではない心の成長を評価することに、当初は現場に戸惑いがあったが、教員に加えて生徒や保護者にも「問題なく受け入れられている」(同課)という。
一方、課題として浮かんできたのは、教員によって授業の進め方にばらつきが出始めている点だ。道徳の授業は「生徒に主体的に考えてもらう」が基本目標だが、教員の講話に終始し生徒が聞き役に回る授業が今もある。教材やテーマ設定に工夫を凝らし、生徒の関心を上手に引き寄せている授業との差が目立ってきた。
授業を担当するのは、生徒と触れ合う時間が長い学級の担任か副担任がほとんどで、専任の教員はいない。県教委は教員の資質向上のため、道徳教育を専門とする学識者の助言や各校の実践例を見聞きできるセミナーを開いてきた。だが、全国初の取り組みゆえに、確固たる「お手本」はなく、一般の教科の授業と比べて差がつきやすいという。
現場の教員からは「今も手探りの状態」という声が聞こえてくる。県教委は必修化四年目を迎える一〇年度を「次のステージ」ととらえ、今後の研修のあり方を見直している。
以上
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