『イン・メモリアム』
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見る人がいなくても、庭の木々は風に揺らぐだろう。
優しく咲く花もひらひら落ちるだろう。
可愛がる人がいなくても、あのブナの木は茶色の芽をだすし、
この楓の木は紅葉して散ってしまうだろう。
可愛がる人がいなくても、向日葵は美しく咲き映えて
種子の丸い花盤を焔とばかり放射状に輝かせ、
乱れ咲く真っ赤なカーネーションは
蜜蜂の羽音に満ちた大気に夏の日の香りを添える。
可愛がる人がいなくても、数多くの砂州を通りすぎ、
小川は平野を音立てながら下ってゆくだろう。
昼間にも、また夜になって子熊座が
ぐるぐると北極星のまわりを巡る、その時にも。
気にかける人がいなくても、小川は風わたる森のまわりを
流れゆき、青鷺や水鶏の巣に水を漲らせ、
あるいは入り江、あるいは窪みともなり、
大空わたる月の光を砕いて銀の矢とするだろう。
そして遂には、庭や荒野からも
新しい連想が湧きいで、
年々歳々、まわりの風景も、新しく移住した人の
子どもにも馴染みのあるものとなろう。
年々歳々、農夫はいつもの農地を耕し、
森の木々を伐って農地を作ったりするが、
年々歳々、私たちへの記憶は薄れて
丘が取り巻くこのあたり一帯からも消えることになろう。
岩波文庫
「テニスン詩集」西前美巳編
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