洛陽の病院にて
「こんなところにいると自分の体以外への興味を失いそうだな」
外部との連絡や情報から完全に遮断されたことに対しての不満を星刻はそんなふうに皮肉る。
「たまにはお体のことも考えてください。いままでほったらかしていたんですから」
香凜は天子から託されたたんぽぽの花束を花瓶に挿すと、星刻から本を取り上げる。
「おい、まだ途中」
「だめです。お休みにならないと」
星刻の手が本を追うが、香凜はすばやく鍵つきの棚にしまう。
「やっぱりだめね」
香凜は何度も挿しなおしてみるが、たんぽぽは下を向いている。やはり、消毒に耐えられなかったようだ。
「たんぽぽ?」
お見舞いの花としてはあまりふさわしくない選び方である。
一体誰からなのか?
「天子様が、星刻様の一番好きな花だからとご自身で摘まれたのですよ。でも」
消毒に耐えられなかった花はしおれかけている。
星刻自身はまだ知らないが彼は肝臓を移植されている。免疫抑制剤の投与を受けているため、完全消毒されていないものは病室に入れられない。
香凜はたんぽぽを花瓶から抜こうとした。
「待て、そのまま」
星刻が慌てて止める。
「そのまま置いていてくれ」
星刻の視線がたんぽぽに注がれる。
瞳に映るのはしおれたたんぽぽだが、心に映るのは白い綿毛。
たんぽぽは初めてあの方に捧げた花。
あの方の髪と同じ色の綿毛。
あの方のようにやわらかくふわふわした
いとおしい、愛らしい
私の大切な天子様
星刻の心が天子様で満たされてしまったのを確認して香凜は病室を出た。これであの男も数時間はおとなしいだろう。
「こんなところにいると自分の体以外への興味を失いそうだな」
外部との連絡や情報から完全に遮断されたことに対しての不満を星刻はそんなふうに皮肉る。
「たまにはお体のことも考えてください。いままでほったらかしていたんですから」
香凜は天子から託されたたんぽぽの花束を花瓶に挿すと、星刻から本を取り上げる。
「おい、まだ途中」
「だめです。お休みにならないと」
星刻の手が本を追うが、香凜はすばやく鍵つきの棚にしまう。
「やっぱりだめね」
香凜は何度も挿しなおしてみるが、たんぽぽは下を向いている。やはり、消毒に耐えられなかったようだ。
「たんぽぽ?」
お見舞いの花としてはあまりふさわしくない選び方である。
一体誰からなのか?
「天子様が、星刻様の一番好きな花だからとご自身で摘まれたのですよ。でも」
消毒に耐えられなかった花はしおれかけている。
星刻自身はまだ知らないが彼は肝臓を移植されている。免疫抑制剤の投与を受けているため、完全消毒されていないものは病室に入れられない。
香凜はたんぽぽを花瓶から抜こうとした。
「待て、そのまま」
星刻が慌てて止める。
「そのまま置いていてくれ」
星刻の視線がたんぽぽに注がれる。
瞳に映るのはしおれたたんぽぽだが、心に映るのは白い綿毛。
たんぽぽは初めてあの方に捧げた花。
あの方の髪と同じ色の綿毛。
あの方のようにやわらかくふわふわした
いとおしい、愛らしい
私の大切な天子様
星刻の心が天子様で満たされてしまったのを確認して香凜は病室を出た。これであの男も数時間はおとなしいだろう。