⑯ スパナの少女
「エドー!起きてる?」
ノックも無くドアが開かれた。入ってきたのは片手にスパナを持ったウィンリィ・ロックベル。彼女は働いている店がセントラルに支店を作るというので、ラッシュバレーからセントラルに移っていた。偶然を装ってこれを画策したのはマスタングであった。アルを失ったエドに少しでも支えを与えたかった。
「エド・・・。ばか!アルがいないからって男を引っ張り込むなんてアンタ最低!」
彼女の動きが一度止まった。次に動いたときスパナが宙に舞った。物理の本に載せたいようなきれいな放物線を描いてスパナはエドに飛ぶ。エドのオートメールの右手がはじき返そうと動いた。しかし、予測した金属音はいつまでも起きなかった。代わりに鈍い音がした。ラッセルの腕がエドをかばいスパナをはじいていた。
「失礼、お嬢さん。あなたがエドワードとどういう関係かは知らないが私の患者に手を出すのは許さない」
「ウィンリィこいつは俺の友人だよ。ラッセル・トリンガムだ」
「誰だっていいわよ。あんたを押し倒してるのが問題なの!」
「お嬢さん、物事は正確に見るべきです。これは押し倒しているとはいえません」
「パンツ一枚でえらそうに解説しないでよ。この変態!エドからそのいやらしい手を離して出て行って!」
確かにパンツ一枚でいつもの治癒師口調で話しても説得力は無さそうだ。そもそも彼女は聞く耳を持ちそうにない。
そして、最初の出会いから一分後、引っ張りまくられたラッセルのパンツのゴムはぷちりと切れ下に落ちた。ウィンリィは、見た。そして。
「このドスケベ!変態!とっとと出てけー!」
もう一本スパナが飛びそうな勢いだった。
(やれやれ、これでは落ち着いて調べられる状況じゃないな)
ラッセルは手早くエドに服を着せるとロングコートをはおった。
「また、後でくるから」とエドの耳元でささやくと、ウィンリィの脇をすり抜けて廊下へ出て行った。
「エド!あんた何をあの男に好き勝手にされてるのよ!!准将ならともかく」
「なんだよ、その准将(ロイ)ならともかくってのは」
突っ込むところはほかにもありそうだが、とりあえず反論しておく。
この騒ぎで疲れたのかエドはベッドに横になった。
「なんなのよ!あの男。あんたいつあんなの引き込んだの!」
「ウィンリィー どこでそんな言葉覚えたんだよ」エドは小さくため息をつく。
そのエドにウィンリィは詰め寄ってくる。
「ごまかしてないで答えなさいよ!」
「あいつは旅の途中で会ったやつだよ。2年ぶりかな、大佐(ロイ)が連れて来たんだ。
さっきのは俺の体を調べてくれてただけで、あいつまで裸だったのは俺だけ脱がされて腹立ったから・・・俺がぬがせたんだ。OK?」
「一応OKよ」
「一応かよ」
話しながらウィンリィはいくつもの工具を用意していた。
「エド、もう一度脱がすから起きて」
「もうヤダ。今日は十分脱いだ。明日にしてくれ」
「だめ、明日は本店に帰るんだから。今日中にあんたの手足調整したいのよ」
「もう眠い」
「昼間から寝てばっかりでどうするのよ」
エドの布団をはがしかける。しかし、毛布の中で震えているエドを見て手を止めた。
「寒いの」
部屋はタンクトップ姿のウィンリィが汗ばむほど暑い。それでもエドは震えていた。
「暖房温度上げるわよ」
立ちかけたウィンリィの手をフルメタルの手が押さえた。
「いいさ、お前汗かいてるだろ」
その手の力は以前には無かったほど弱い。
義手とはいえ神経をつながれたオートメールの手足は生身の部分に連動する。力が弱くなっているのはエドの体力が落ちている証拠であった。
「モーターの調子悪いみたいね」
彼女はあえて事実と異なることを言った。
「本店から戻ったら新しいのと取り替えたげるわ」
鎮痛剤の副作用でエドはぼんやりし始めていた。
「ちゃんと休んでてよ」
帰り際にエドの髪に触れる。偶然だが先刻のラッセルと同じことをしていた。
「…アル…」
薬のぼんやりした夢の中で触れる手は弟の手であった。
(あたしもバカよね。こんなブラコン達をずっと好きなんて)
⑯ 錬金治癒 血の練成陣
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「エドー!起きてる?」
ノックも無くドアが開かれた。入ってきたのは片手にスパナを持ったウィンリィ・ロックベル。彼女は働いている店がセントラルに支店を作るというので、ラッシュバレーからセントラルに移っていた。偶然を装ってこれを画策したのはマスタングであった。アルを失ったエドに少しでも支えを与えたかった。
「エド・・・。ばか!アルがいないからって男を引っ張り込むなんてアンタ最低!」
彼女の動きが一度止まった。次に動いたときスパナが宙に舞った。物理の本に載せたいようなきれいな放物線を描いてスパナはエドに飛ぶ。エドのオートメールの右手がはじき返そうと動いた。しかし、予測した金属音はいつまでも起きなかった。代わりに鈍い音がした。ラッセルの腕がエドをかばいスパナをはじいていた。
「失礼、お嬢さん。あなたがエドワードとどういう関係かは知らないが私の患者に手を出すのは許さない」
「ウィンリィこいつは俺の友人だよ。ラッセル・トリンガムだ」
「誰だっていいわよ。あんたを押し倒してるのが問題なの!」
「お嬢さん、物事は正確に見るべきです。これは押し倒しているとはいえません」
「パンツ一枚でえらそうに解説しないでよ。この変態!エドからそのいやらしい手を離して出て行って!」
確かにパンツ一枚でいつもの治癒師口調で話しても説得力は無さそうだ。そもそも彼女は聞く耳を持ちそうにない。
そして、最初の出会いから一分後、引っ張りまくられたラッセルのパンツのゴムはぷちりと切れ下に落ちた。ウィンリィは、見た。そして。
「このドスケベ!変態!とっとと出てけー!」
もう一本スパナが飛びそうな勢いだった。
(やれやれ、これでは落ち着いて調べられる状況じゃないな)
ラッセルは手早くエドに服を着せるとロングコートをはおった。
「また、後でくるから」とエドの耳元でささやくと、ウィンリィの脇をすり抜けて廊下へ出て行った。
「エド!あんた何をあの男に好き勝手にされてるのよ!!准将ならともかく」
「なんだよ、その准将(ロイ)ならともかくってのは」
突っ込むところはほかにもありそうだが、とりあえず反論しておく。
この騒ぎで疲れたのかエドはベッドに横になった。
「なんなのよ!あの男。あんたいつあんなの引き込んだの!」
「ウィンリィー どこでそんな言葉覚えたんだよ」エドは小さくため息をつく。
そのエドにウィンリィは詰め寄ってくる。
「ごまかしてないで答えなさいよ!」
「あいつは旅の途中で会ったやつだよ。2年ぶりかな、大佐(ロイ)が連れて来たんだ。
さっきのは俺の体を調べてくれてただけで、あいつまで裸だったのは俺だけ脱がされて腹立ったから・・・俺がぬがせたんだ。OK?」
「一応OKよ」
「一応かよ」
話しながらウィンリィはいくつもの工具を用意していた。
「エド、もう一度脱がすから起きて」
「もうヤダ。今日は十分脱いだ。明日にしてくれ」
「だめ、明日は本店に帰るんだから。今日中にあんたの手足調整したいのよ」
「もう眠い」
「昼間から寝てばっかりでどうするのよ」
エドの布団をはがしかける。しかし、毛布の中で震えているエドを見て手を止めた。
「寒いの」
部屋はタンクトップ姿のウィンリィが汗ばむほど暑い。それでもエドは震えていた。
「暖房温度上げるわよ」
立ちかけたウィンリィの手をフルメタルの手が押さえた。
「いいさ、お前汗かいてるだろ」
その手の力は以前には無かったほど弱い。
義手とはいえ神経をつながれたオートメールの手足は生身の部分に連動する。力が弱くなっているのはエドの体力が落ちている証拠であった。
「モーターの調子悪いみたいね」
彼女はあえて事実と異なることを言った。
「本店から戻ったら新しいのと取り替えたげるわ」
鎮痛剤の副作用でエドはぼんやりし始めていた。
「ちゃんと休んでてよ」
帰り際にエドの髪に触れる。偶然だが先刻のラッセルと同じことをしていた。
「…アル…」
薬のぼんやりした夢の中で触れる手は弟の手であった。
(あたしもバカよね。こんなブラコン達をずっと好きなんて)
⑯ 錬金治癒 血の練成陣
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