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レポート 新しい不登校対策「COCOLOプラン」の批判的検討 No7

2024-05-26 11:08:07 | レポート

レポート 新しい不登校対策「COCOLOプラン」の批判的検討     No7

7.不登校対策の背景 その2 (中教審・経団連の不登校認識)

 日本の教育の基本方針を審議する中教審や国の諸政策に影響力を持ち、多くの提言を行っている資本家団体・経団連は、不登校に対してどのような認識を持ち、どのような提言をしているかを、それぞれが公表している資料から見てみる。

中教審=「令和の日本型学校教育」の構築を目指して(2022年1月26日答申)

経団連=「優先的に取り組むべき教育政策の施策」(2022年)

 

中教審は日本型学校教育を、

「学校が学習指導のみならず、生徒指導の面でも主要な役割を担い、児童生徒の状況

を総合的に把握して教師が指導を行うことで、子供たちの知・徳・体を一体で育む

日本型学校教育は、諸外国から高い評価」を受けているとし、日本の学校教育の優秀さを自負している。その上で、日本型学校の直面する課題として、

「子供たちの多様化」(特別支援教育を受ける児童生徒や外国人児童生徒等の増加、貧困、いじめの重大事態や不登校児童生徒数の増加等)

など7つの課題を列挙している。

 

経団連は、文科省の第4期「教育振興基本計画」策定に向けた提言において「優先的に取り組むべき教育政策の施策」として、

 5.子どもの才能を伸ばす多様な教育機会の提供

 特定分野に特異な才能を持つ子どもに限らず、幅広い子どもの個性・才能を伸ばす教育を学校外で実践していく必要がある。特に学校になじめず、不登校傾向にある子どもが増加傾向にある中で、不登校の子どもたちの学びを保障することは喫緊の課題である。地方自治体は、学びを保障する観点から不登校児童生徒など学校教育になじめない子どもたちがオルタナティブ教育を受けられる環境を整備すべきである。国も質の高いオルタナティブ教育への支援を検討する必要がある。

と述べている。

 2022年、不登校の数は30万人を数えた。実に小学生の31人に1人、中学生の16人に1人が不登校である。この状態を、中教審は「子供たちの多様化」、経団連は「学校教育になじめない子どもたち」という。

 そして、必要な対策は「学びの多様化学校」であり、オルタナティブ教育だという。

「学びの多様化学校」とは、「通常学校」や「特別支援学校」ではない不登校に特化した学校であり、「オルタナティブ教育」とは学校に替わる教育のことをいう。

つまり、学校になじめない子どもたちは、勉強したくなったら、学校以外の自分に合ったところで勉強すればいい、ということである。諸外国から高い評価を受けている優れた日本の学校教育になじめずに不登校となった子どもは、学校以外で勉強すれば良い、と言いているのである。

これが、この国の教育に責任のある立場にある中教審や影響力のある経団連の不登校に対する認識である。

そうした考えを背景に、新しい不登校対策「誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策(COCOLOプラン)」が作られていることを、私たちは知っておかなければならない。


レポート 新しい不登校対策「COCOLOプラン」の批判的検討 No6

2024-05-21 11:56:47 | レポート

レポート 新しい不登校対策「COCOLOプラン」の批判的検討     No6

6.不登校対策の背景(名ばかりの有識者会議)

2023年3月31日、「新しい不登校対策」が発表された。これは2022年の文科省の有識者会議「不登校に関する調査研究協力者会議」がまとめた対策のコピーであって、何ら新しいものではない。すでに指摘したように名称を「誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策(COCOLOプラン)」とし、装いを変えただけである。

 2022年不登校が30万人を数え、国会でも不登校問題が取り上げられ、文科省は対策を迫られた。有識者会議は「報告書」をまとめ、その役割を終えたにも関わらず、急遽、2月に再招集された。議論されたのはたった一回の数十分であった。そして、3月31日に「新しい不登校対策」が発表され、後に、「COCOLOプラン」と名付けられた。有識者会議が単なる手続き・セレモニーだったことがわかる。

 有識者会議とは何か。ほんとうに不登校問題解決のために話し合われる場なのか。次の資料を見ていただきたい。

 

(4)義務教育を全ての児童生徒に実質的に保障するための方策

 ①不登校児童生徒への対応

・SC・SSWの配置時間等の充実による相談体制の整備、教育支援センターの機能強化、不登 

校特例校の設置促進、教育委員会・学校とフリースクール等の民間の団体とが連携した取組

の充実、自宅等でのICT活用等多様な教育機会の確保など、学校内外において、個々の状

況に応じた段階的な支援

 ・児童生徒の支援ニーズの早期把握、校内別室における相談・指導体制の充実等の調査研究

 ②義務教育未修了の学齢を経過した者等への対応

 ・すべての都道府県・指令都市における夜間中学校の設置促進

 ・専門人材の配置促進による夜間中学の教育活動の充実や受入生徒の拡大

 

 これは、2021年1月16日の中央教育審議会答申「『令和の日本型学校教育』の構築

を目指して」の第Ⅱ部各論の一部である。読んでわかるように「新しい不登校対策」そのも

のである。この時点で中教審は文科省に対して答申している。第1回「不登校に関する調査

研究協力者会議」は2021年10月6日に開かれた。協力者会議は6回開催されたが、そ

の内容は、まさに答申のいう「校内別室における相談・指導体制の充実等の調査研究」であり、

各委員が事例について発表する形で行われた。

 不登校対策は既に中教審が示し、協力者会議は支持された項目を事例にて補完するだけで、不

登校について。不登校問題や対策について話し合い、議論する場ではないようである。事実、協

力者会議において、委員から文科省提出の調査資料について疑義が出たにもかかわらず、なん

ら取り合われず、会議は進められた(不登校問題の本質に迫るような内容だったが)。協力者会

議は議論をしたり深め合ったりする場ではなかったようだ。

 つまり、不登校対策の内容は中教審で示され、協力者会議は一部内容を補完しているに過ぎ

ない。たった5回の会議で、事例の報告だけで、議論もなく、報告書がまとめられていくのに

は、こうした背景があり、会議の方向や内容を着て、事例以外の資料を作成し、報告書をまと

めていくのは文科省の役人(官僚)である。すでに決まったレールの上を約束通りに進んで行

くのが協力者会議である。(異論を挟んだり、議論したりする場ではないようだ。)

 それは、あたかも、有識者や専門家の了承のもとに対策(政策)が決まっているという形を

とっているに過ぎない。

 次は、中教審について考えてみたい。


レポート 新しい不登校対策「COCOLOプラン」の批判的検討 No5

2024-05-19 15:40:37 | レポート

レポート 新しい不登校対策「COCOLOプラン」の批判的検討     No5

5.「誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策」

 「新しい不登校対策」の正式の名称は「誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策」である。そして、その対策の柱の1つが「学びの多様化学校」である。

 「誰一人取り残さない」は、2015年の国連総会で採択されたSDGsの前文に記された言葉である。

「ともに持続可能な世界へ向かってこの旅をはじめるにあたり、だれひとり取り残さないことを誓います。」

これは、主体者が主語になっている。「私たちはだれひとり取り残さない」という決意の表明である。また、「新しい不登校対策」の基となった中教審答申「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して」にも、「誰一人取り残さない」が使われている。しかし、「新しい不登校対策」では、「誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策」のように「誰一人取り残されない」が使われている。

 「誰一人取り残されない」の主語は何か。

NPO法人「あなたのいばしょ」理事長の大空幸星さんは、「ほんとうに助けが必要な、取り残されている側の目線に立った言葉であるべきだと思う。」 だから、「誰一人取り残さない」ではなく「誰一人取り残されない」を使うほうがいい主張されているように、「誰一人取り残されない」の主語は、助けが必要な、取り残されている側の人たちである。不登校対策でいえば、不登校の子どもたち自身が主語になる。

今やだれもが耳にし、よく使われている言葉であり、しかも、耳障りの言い言葉だからすっと受け入れてしまいそうである。しかし、注意深く、もう一度、「誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策」を言葉にして読んでみよう。この不登校対策を行う実施主体は文科省であり、教育行政である。教育行政が行うべきことは、不登校がなぜ起きるのかという不登校問題の本質を解明し、不登校問題を根本的に解消していくことである。そういう立場だったら「誰一人取り残さない」という文言を使うだろう。

しかし、「誰一人取り残されない」の主語は不登校の当事者の子どもたちである。文科省に改めて言われるまでもなく、不登校になった子どもたちの多くは、自らの力で自らの進路を切り開いてきたし、切り開いている。(野中執筆・レポート「不登校問題の真実」参照) 

文科省が「誰一人取り残されない」と言っている「誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策」とは、「学びの保障に向けた対策」である。「学びの保障」とは何か。それは、「学びの場」であり「学びの環境」を保障するということである。それは、つまり、場所=学校や環境=ICTの保障である。「学びの場」として、不登校特例校、教育支援センターや校内教育支援センター、そして、1人1台端末やバーチャルフリースクールなどのICTを活用できる環境の整備などである。

「学べる場」や「学べる環境」は整備するから、きみたちは「誰一人取り残されないよう」ように頑張りなさい、というのが「誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策」なのである。

 「巧言令色少なし哉仁」 かつて孔子は言った。

 優しそうな言葉に惑わされてはならない。これまで、不登校の子どもたちに見向きもされなかった施策を美辞麗句で飾って装いを改めても、子どもたちの心に響くかどうか。


レポート 新しい不登校対策「COCOLOプラン」の批判的検討 No4

2024-05-16 15:47:41 | レポート

レポート 新しい不登校対策「COCOLOプラン」の批判的検討     No4

4.「学びの多様化学校」とは

 不登校特例校の呼び方を公募して「学びの多様化学校」に決まったという。そもそも、「多様化学校」とは何なのか。

「多様」とは、いろいろ違った様子、いろいろと種類の違ったものがあること、さまざま、という意味で、「化」は変化を表し、前の状態と違ったものになる(変わる)、という意味がある。「多様化」とは、様式や傾向がさまざまに分かれる(変化する)ことをいう。

「学びの多様化」とは、「学び方がいろいろな様式や傾向など多くの種類に分かれること」ということで、「学びの多様化学校」は、「学び方がいろいろな様式や傾向など多くの種類に分かれる」、つまり、「いろんな学び方がある学校」ということになる。

「学びの多様化学校」は不登校特例校の新しい名称で、不登校の子どもを対象にした、不登校に特化した学校である。その特徴は、教育課程の基準によらずに「特別の教育課程」を編成して実施できる学校である。午後からの始業でもよく、授業時間数も減らすこともできるし、教育課程も柔軟に編成できるようだ。

「学びの多様化学校」とは、「好きなことを好きな時に学んでよい学校」とか、「行きたいときに行って勉強ができる学校」とか、「自由な学校」という風に、いろいろなイメージが浮かんでくる。ほんとうに「一人ひとりの子どもに寄り添い、一人ひとりを大切にし、一人ひとりに合った学び方ができる学校」であればいいと思うのだが。果たしてどうだろか。

私は、不登校の子どもたちの学びの場、学習できる場ができること、増えることは望ましいと思う。しかし、いくつか危惧することがある。

子どもたちが学校に行けなくなるのは、「友達関係(いじめ)」「勉強についていけない(わからない)」「先生との関係」などが主な原因・要因である(不登校に関する実態調査、2020年文科省)。このような原因・要因が「学びの多様化学校」では無くせるというのか。あるいは、そのようなことを抱えている子どもたちだから、基準を緩和するというのか。

不登校特例校、教育支援センター(適応指導教室)や民間支援団体・施設は、不登校の子どもたちの居場所や学びの場としてこれまでも存在してきた。しかし、文科省も認めている通り、不登校の子どもたちの多くは不登校対策・施策を利用していない。2022年、不登校の子どもたちの36.3%がどの相談施設・機関も利用していない。教育支援センターの利用は10.3%、フリースクール等の民間団体・施設の利用は3.7%である。ちなみに、2016年「不登校特例校」9校の在籍者数は729人であった。不登校対策・施策を利用できているのは限られた子どもたちであって、多くの子どもたちは施策と無縁の状況にある。「COCOLOプラン」では全国に300校の「学びの多様化学校」を作るという。単純に考えて、不登校30万人に300の学校、1校当たり1000人の子どもである。誰だけの子どもが利用するだろうか。他にも学習支援センターや校内支援センター、あるいは、端末を利用したオンライン、などなど学ぶ場や機会は作ったとしても、子どもたちは利用できる状況(物理的にも、心理的にも)にあるのだろうか。

さらに、もう一つ、今現在不登校の子に学びの場が保障されたとしても、これから不登校になる子どもたちもいる。大事なのは、これから不登校になる子どもを作らないことではないか。「学びの多様化学校」が不登校の子どもたちの学びを保障できるというのなら、今在る学校全てを「学びの多様化学校」にすればいいのではないか。そうすれば、不登校は生まれないのでは。

 


レポート 新しい不登校対策「COCOLOプラン」の批判的検討 No3

2024-05-09 11:49:52 | レポート

レポート 新しい不登校対策「COCOLOプラン」の批判的検討         No3

3.「COCOLOプラン」の概要

 では、「COCOLOプラン」とは、いったいどのようなものか。2023(令和5)年3月31日に文科省が出した通知「誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策について」には、「目指す姿」として次のようにまとめている

1.不登校の児童生徒全ての学びの場を確保し、学びたいと思った時に学べる環境を整えま 

す。

✓一人ひとりのニーズに応じた学びの場が確保されている

  ・不登校特例校、校内教育支援センター(スペシャルサポートルーム)・教育支援センター等、こども  

家庭庁と連携し多様な学びの場、居場所を確保

✓学校に来られなくてもオンライン等で授業や支援につながることができる

✓学校に戻りたいと思った時にクラスを変えたり、転校したりするなど本人や保護者の 

希望に沿った丁寧な対応がされている

2.心の小さなSOSを見逃さず、「チーム学校」で支援します。

 ✓1人1台端末で小さな声が可視化され、心の不安や生活リズムの乱れに教師が確実に

気付くことができる

 ✓小さなSOSに「チーム学校」で素早く支援することにより、早期に最適な支援につな

げられている

 ✓教育と福祉が連携し、子供や保護者が必要な時に支援が行われる

  ・子ども家庭庁と連携し自治体の教育部局と福祉部局等の連携・協働を強化

3.学校の風土の「見える化」を通して、

  学校を「みんなが安心して学べる」場所にします。

 ✓それぞれの良さや持ち味を生かした主体的な学びがあり、みんなが活躍できる機会や

出番がある

 ✓トラブルが起きても学校はしっかり対応してくれる安心感がある

 ✓公平で納得できる決まりやルールがみんなに守られている

 ✓障害や国籍言語等の違いに関わらず、色々な個性や意見を認め合う雰囲気がある

 

具体的には、

〇「学びの多様化学校(不登校特例校)」の増設

〇校内教育支援センター(スペシャルサポートルーム等)、教育支援センター等の強化

〇一人台端末の利用

〇「チーム学校」(教師・スクールカウンセラー・スクールソーシャルワーカー・養護教諭・学校医等)での支援

〇学校と地域・関係機関との連携・協働

〇学校を「みんなが安心して学べる」場所に(1人1台端末の利用・いじめへのき然とした対応・等)

である。

 

これらの支援は、これまで行われてきた支援と全く同じである。ただ、

〇これまで遅々として進まなかった不登校特例校を「学びの多様化学校」と名称を変更し、

300校という数値目標を設けたこと。

〇各自治体取り組んできた「適応指導教室」を教育支援センターという名称にしたこと。ま

た、小学校や中学校で取り組まれていた「別室」あるいは「保健室」「相談室」での指導・支援を「校内教育支援センター(スペシャルサポートルーム)」と名称を付けて、2024年度には5億円という予算措置をしたこと。

〇また、こども家庭庁を一緒に「誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策推進 

本部」が設置されたこと。

などが、これまでとは違った対応になっている。

 「COCOLOプラン」を見てみると、ようやく本腰を入れて不登校対策に取り組もうとしているかのように見える。しかし、不登校の子どもたちが30万人を超え、文科省が取り組んでいた不登校対策を多くの子どもたちが利用さえしていない状況が明らかになり、やむを得ず、「新しい不登校対策」を講じなければならないまでに追い込まれたのである。

 しかし、「COCOLOプラン」の内容は、これまでと同じ中身である。さて、どれほどの効果があるだろう。それは、すぐに明らかになるだろう。

なぜなら、子どもたちが学校に行けなくなるのは、子どもや家庭に課題があるからではなく、学校教育や教育制度に問題があるからであり、それを子どもたちが拒んでいるからであるという不登校問題の本質から目を背けた対策になっているからである。(私レポート「不登校問題の本質」参照を)

 

「COCOLOプラン」に関して、まだいくつかの点を指摘しなければならない。さらに、批判的検討を進めたい