不登校問題を考える・子ども応援センターTomorrow 

不登校問題への提言・問題提起/不登校の親の会「こぶしの会」/不登校・ひきこもりの人たちの居場所「水曜塾」の活動紹介

不登校問題を考える3

2023-04-11 15:34:14 | 考察

第3部 不登校施策を問う

1.はじめに

 不登校が24万人を超えた。小学生の70人に1人、中学生の20人に1人、これは、もう、異常な状態だ。にもかかわらず、文科省は、これまでと同じ対策・施策に固執している。先日(2023年2月)、通常国会、衆議院予算委員会で与党(公明党)の議員が不登校施策について質問した。それは、“不登校の主な要因は「無気力不安」である。早期発見、早期対応が大事である。そのため、相談体制と特例校等学校外の学びの場の整備が大事だ。”というような内容であった。それに対して、文科大臣は、“子どもらに配布しているタブレットを活用や不登校特例校を増やすなどの施策を早期にまとめたい。”という旨の答弁をしていた。これは、「問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」をもとにした文科省の不登校施策を後押しする質疑であった。

この調査が不登校の子どもたちの思いと全くかけ離れていることは、「第2章 不登校問題の元凶は学校である!」で指摘したとおりである。今、文科省は、従前の施策に加え、教育機会確保法による施策を推し進めようとしている。その基調は、「不登校の子どもたちは、学校以外の場で学んでもいい」というものである。学校にこだわらずに、学びの場を広く捉え推奨している。一見、斬新な考え方のようにも見えるが、何の裏付けも、保障もない絵空事である。

文科省が推奨する学校外での学びと言っても、その主なものは市町村教育委員会が設置している「教育支援センター(適応指導教室)」やフリースクール等の民間施設などである。これらの利用者は、不登校の子どもたち(小中学生)244,940人の内のわずか34,338人である(2021年度)。前年度より若干増えているとはいえ、全不登校者の1割強に過ぎない。残り9割の子どもたちには学校外の学びの場が保障されているとは言えない状況である。学習支援センターやフリースクールも質量ともに不十分である。この状態で、学校外での学びを推奨しても、実際は、放置そのものである。

学校に行けない子どもたちは、学校に行けなくなったその時点で、多くのリスクを背負い、学びの場さえ失っているのである。そのような子どもたちに、“相談する場所は作ってあるから利用して” “学校のほかにも学ぶ場があるから” と言っても、1割程度の子どもたちしか利用できない状況である。これが、不登校をなくすためのまともな対応、施策だろうか。

「第3章 不登校施策を問う」では、文科省の不登校施策が、①不登校の子どもたちの為に役立っているのか、②不登校問題を解決するために寄与しているのかどうか、文科省が行った2つ調査「問題行動等調査」と「実態調査」の資料を基に考察する。そして、③不登校をなくすための、不登校問題を解決するための道すじ、展望について考える。

 

2.文科省が行ってきた不登校施策

 まず初めに、文科省が行っている不登校に関する施策について見てみる。

【文科省による不登校児童生徒への支援、施策】

(文科省の不登校施策(調査研究協力者会議への資料)

 

〇教育支援センター(適応指導教室)の設置の推進

 ・不登校児童生徒の社会的自立に向けた指導・支援を担う「教育支援センター(適応指導教室)の設置の推進

      (令和元年度:1,527施設(H30:1449施設))

〇不登校児童生徒を対象とした学校の設置に係る教育課程の弾力化(不登校特例校)

 ・不登校児童生徒を対象として、その実態に配慮した特別の教育課程を編成する必要があると認められる場合、指定を受けた特定の学校において教育課程の基準によらずに特別の教育課程を編成

【特区措置を平成17年7月6日付け初等中等教育局長通知により全国化】

〇教育相談体制の充実

 ・不登校を含め様々な課題を抱える児童生徒への相談体制の強化に向け、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーの配置やSNS等を活用した相談体制の構築を推進

〇指導要録上の出席扱いについての措置等

 ・小・中・高等学校の不登校児童生徒が教育支援センター(適応指導教室)や民間施設など学校外の機関で指導等を受ける場合や、自宅においてICT等を活用して行った学習活動について、一定の要件を満たすときは指導要録上「出席扱い」にできる

【令和元年10月25日付け初等中等教育局長通知(義務教育)】

【平成21年3月12日付け初等中等教育局長通知(高等学校)】

 

【文科省通知  令和4年6月10日

「不登校に関する調査研究協力者会議報告書~今後の不登校児童生徒への学習機会と

支援の在り方について~」について(通知)

 

「令和3年9月より、文部科学省において「不登校に関する調査研究協力者会議」を設置し、今後重点的に実施すべき施策に関する検討を行い、今般、その報告書が取りまとめられました。」

〇教育機会確保法及び基本指針の学校現場への周知・浸透

〇心の健康保持に関する教育の実施及び一人一台端末を活用した早期発見

〇不登校傾向にある児童生徒の早期発見及び支援ニーズの適切な把握のための、スクリ

ーニング及び「児童生徒理解・支援ノート」を活用したアセスメントの有機的な実施

〇不登校特例校設置の推進

〇学校内の居場所づくり(校内の別室を活用した支援策)

〇フリースクール等民間団体との連携

〇ICT等を活用した学習支援等を含めた教育支援センターの機能強化

〇教育相談の充実(オンラインカウンセリングを含む)

〇家庭教育の充実

〇その他

    *学校外における学習活動や自宅におけるICTを活用した学習活動について、一定の要件の下、指導要録上の出席扱いとなる制度について、校長を含め教職員への理解が進むよう、研修等において周知徹底を図っていただくよう、お願いします。

 

 以上、文科省の不登校施策(調査研究協力者会議への資料)と文科省通知(令和4年6月10日)から分かるように、文科省の不登校支援は、不登校の子どもたちへの相談・支援体制と教育保障体制の整備が大きな柱となっている。

 これらの施策のデーターベースになっているのは、文科省が毎年行っている「問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」である。

 次の(3)「子どもたちの施策への反応は?」では、これらの施策を子どもたちがどのように利用し、どのように受け止めているかについて見ていきたい。

 

3.子どもたちの施策への反応は?(子どもたちの利用状況と反応)

(1)「問題行動等調査」 から

1)相談・指導を受けた学校内外の機関等

文科省が講じてきた種々の施策の利用状況を「問題行動等調査」で見てみる。

 小学生(不登校者数 81,498人)

利用者数(人)

比率(%)

1.教育支援センター(適応指導教室)

7283

8.9

2.教育委員会及び教育センター等教育委員会所管の機関

8516

10.4

3.児童相談所.福祉事務所

4443

5.5

4.保健所.精神保健福祉センター

592

0.7

5.病院.診療所

12302

15.1

6.民間団体.民間施設

4021

4.9

7,上記以外の機関

1943

2.4

8.養護教諭による専門的な指導

15051

18.5

9.スクールカウンセラー、相談員などによる指導等

30716

37.7

10.  相談・指導を受けていない

26934

33.0

 

 中学生(不登校者数 163,442人)

利用者数(人)

比率(%)

1.教育支援センター(適応指導教室)

17926

10.1

2.教育委員会及び教育センター等教育委員会所管の機関

9237

5.7

3.児童相談所.福祉事務所

6530

4.0

4.保健所.精神保健福祉センター

744

0.5

5.病院.診療所

21981

13.4

6.民間団体.民間施設

5108

3.1

7,上記以外の機関

2810

1.7

8.養護教諭による専門的な指導

28476

17.4

9.スクールカウンセラー、相談員などによる指導等

54700

33.5

10.  相談・指導を受けていない

61997

37.9

 

 この表は、相談・指導を行っている機関の利用状況を表している。

それぞれの機関ごとに、その果たす役割や子どもたちとのかかわり方がある。施設・機関の役割を整理すると次のようになる。

〇学校外の施設・機関

支援施設・機関・・・「教育支援センター(適応指導教室)」、「民間団体・民間施設」

相談施設・機関・・・「教育委員会及び教育センター等教育委員会所管の機関」

            「児童相談所、福祉事務所」、「保健所、精神保健福祉センター」

 医療機関・・・・・・「病院、診療所」

〇学校内の施設・機関

 相談施設・機関・・・「養護教諭」、「スクールカウンセラー」

1の「教育支援センター(適応指導教室)」は、不登校の子どもたちの受け皿として自治体の教育委員会が設置している公的な機関である。 2の「教育委員会及び教育センター等教育委員会所管の機関」とは、主に教職員の研修のための施設であるが、業務の一環として不登校の子どもや親に対する相談活動を行っている。 3の児童相談所、福祉センター、 4の保健所、精神保健センターも公的な機関で、業務の一つとして相談活動を行っている。 5の病院.診療所は文字通り医療機関である。心身の不調や不安の診察、診療を行っている。 6の民間団体.民間施設は、フリースクールや親の会、あるいは塾などをいう。 7の上記以外の機関は不明である。

8の養護教諭と 9のスクールカウンセラー・相談員は、それぞれ学校に配置されている。

 

2)施設・機関の利用状況

  • 相談施設・機関の利用

文科省の不登校施策の大きな柱である相談体制について見てみる。

  • どの相談施設・機関にも相談していない小・中学生が88,931人(36.3%)もいる。
  • 次に、「病院、診療所」の利用も多い。小・中学生の利用は34,283人(14%)である。
  • 上記①②と「教育支援センター(適応指導教室)」を除く相談施設・機関に相談した人数は、小学生58,561人、中学生102,497人、合計161,058人である。この中で突出しているのが、養護教諭とスクールカウンセラーである。両者を小・中学生の123,943人(相談者の77%)が利用している。

 

このことから、不登校の子どもの多く、特に中学生はどの施設や機関にも相談していないこと。そして、相談する場合は、専ら学校に配置されている養護教諭やスクールカウンセラーである。一方、親は子どもの不登校は心身の不調にあるのではないかと医療機関を頼っていることが分かる。

 

  • 支援施設・機関の利用

 文科省が特に力を入れて進めている学校以外の学びの場利用について見る。

  • 教育支援センター(適応指導教室)の利用は、小学生7283人(8.9%)、中学生17,926人(10.1%)、小中学生合わせて25,209人が利用している。小中学生の10.3%である。
  • 民間団体、民間施設の利用は、小学生4021人(4.9%)、中学生5,108人(3.1%)、小中学生合わせて9,129人で、3.7%である。
  • ④⑤の支援施設・機関を利用している子どもは小中学生34,338人で、全体の14%である。

 

上記のことから、不登校の子どもの大半にあたる86%の子ども(210,602人)は、支援施設・機関を利用していない、または、利用できていないことが分かる。

 

(2)「実態調査」から

 「実態調査」にも、もう一つ興味深い調査がある。子どもたちが休みはじめた頃に誰に相談し、どのような施設などを利用したがわかる。さらに、どんな支援があれば学校に戻れたかというものもある。次に表示する。

1)相談した相手  

相談した相手

小学生%

中学生%

学校の先生

13.3

15.0

保健室の先生

7.7

6.9

学校にいるカウンセラー

8

7.4

友達

7.6

10.6

家族

53.4

45.0

電話相談やSNS相談の相談員

0.4

1.4

その他

3.2

3.2

誰にも相談しなかった

35.9

41.7

無回答

2.7

3.6

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不登校になりかけた時、子どもたちの相談相手は、

  • 「家族(小学生53.4%、中学生45%)」が圧倒的に多い。半数を超える。
  • 次に、「誰にも相談しなかった〈小学生35.9%、中学生41.7%〉」が続く。
  • その後、「学校の先生(小学生13.3%、中学生15.0%)」
  • 「友達(小学生7.6%、中学生10.6%)」
  • 「学校にいるカウンセラー(小学生8%、中学生7.4%)」
  • 「保健室の先生(小学生7.7%、中学生6.9%)」となっている。

 

 不登校になりかけた時、子どもたちが相談するのは、身近な人たちである。親であり、友だちであり、担任の先生や養護の先生、カウンセラーである。このことは、以下の項目でも共通している。身近な人たちの存在、身近な人たちとのかかわりが不登校の子どもたちにとって重要な意味を持っていると言える。

2)どのようなことがあれば休まなかったと思うか

 

小学生%

中学生%

学校の先生からの声かけ

11.4

8.7

学校にいるカウンセラーと話をすること

4.8

6.2

友達からの声かけ

15.1

17.4

家族からの声かけ

8.6

6.7

学校以外の相談窓口(市の相談センターなど)に行くこと

2.7

1.5

学校以外の相談窓口に電話やSNSで相談すること

1.4

1.7

クラスとしての活動、文化祭、運動会などに参加すること

5.0

4.8

部活動などに参加すること

2.2

4.3

個別で勉強を教えてもらえること(学校以外も含む)

9.3

9.1

自分以外の家族への働きかけや手助け

2.5

2.5

その他

8.4

9.9

特になし

55.7

56.8

無回答

4.1

3.5

 

 不登校になりかけた時、どのような働きかけや支援があったら学校に通えたかとい質問である。

  • 第1位は、「特になし」である。小学生55.7%、中学生56.8%、小中学生ともに半数以上の子どもたちが「特になし」と答えている。圧倒的である。
  • つづいて注目すべきは、「〇〇からの働きかけ」である。「友達からの働きかけ(小学生15.1%、中学生17.4%)。
  • 「先生からの働きかけ(小学生11.4%、中学生8.7%)。
  • 「家族からの声かけ(小学生8.6%、中学生6.7%)」。②③④を合わせると小学生35.1%、中学生32.8%である。
  • 「特になし」に次ぐ2番目は、「個別で勉強を教えてもらえること(小学生9.3%、中学生9.1%)である。注目すべきことである。

 

「特になし」とは、何らかの支援や働き掛けがあったとしても、不登校になっていただろう、不登校になるのを防ぐ術、手立てはなかっただろうということをいっているのだろう。

だが、一方で、少なくない子どもたちが、家族、友だち、先生など、身近な人たちからの働きかけや「個別で勉強を教えてもらえること」を期待し、拠り所としていることが分かる。

 

 3)学校に戻りやすいと思う対応

 【小学生】

先生の家庭訪問

4.2%

先生とインターネットや電話で話すこと

4.1%

学校にいるカウンセラーと話をすること

5.0%

友達からの声かけ

17.1%

家族からの声かけ

8.3%

学校以外の相談窓口(市の相談センター等)に行くこと

2.4%

学校以外の相談窓口に電話やSNSで相談すること

1.1%

個別で勉強を教えてもらえること(学校以外も含む)

10.7%

自分以外の家族への働きかけや手助け

2.7%

その他

5.2%

特になし

57.1%

無回答

5.9%

 

 【中学生】

先生の家庭訪問

6.2%

先生とインターネットや電話で話すこと

3.9%

学校にいるカウンセラーと話をすること

7.1%

友達からの声かけ

20.7%

家族からの声かけ

7.5%

学校以外の相談窓口(市の相談センター等)に行くこと

1.4%

学校以外の相談窓口に電話やSNSで相談すること

1.9%

個別で勉強を教えてもらえること(学校以外も含む)

13.4%

自分以外の家族への働きかけや手助け

2.7%

その他

5.1%

特になし

54.4%

無回答

5.6%

 

 この項目は、不登校の状態にある子どもたちに、どういう支援や働き掛けがあれば、学校へ戻れるか、を尋ねている。調査結果を見て分かるように、「2)どのようなことがあれば学校を休まなかったか」と同じ傾向を示している。

  • ここでも「特になし」が突出している。小学生57.1%、中学生54.4%で半数以上を占める。
  • そして、「友達からの声かけ(小学生17.1%、中学生20.7%)」
  • 「家族からの声かけ(小学生8.3%、中学生7.5%)」
  • 先生やカウンセラーとの関わりも大事であることが分かる。
  • 「先生の家庭訪問(小学生4.2%、中学生6.2%)」
  • 「先生と話すこと(小学生4.1%、中学生3.9%)」
  • 「カウンセラーと話すこと(小学生5.0%、中学生7.1%)」。
  • そして、ここでも、「個別で勉強を教えてもらえること」が「特になし」に次いで多い。(小学生10.7%、中学生13.4%である。

 

この項目でも、「特になし」が突出しているが、身近な人たちとの関係(働き掛けや対話など)や「個別で勉強を教えてもらえること」が不登校の子どもたちが大きな期待を寄せていることが分かる。

 

 4)学校を多く休んだことに対する感想

  小学生

もっと登校すればよかったと思っている

25.2%

登校しなかったことは、自分にとって良かったと思う

12.8%

しかたがなかったと思う

16.8%

何も思わない

18.1%

分からない

21.2%

無回答

5.9%

 

  中学生

もっと登校すればよかったと思っている

30.3%

登校しなかったことは、自分にとって良かったと思う

10.3%

しかたがなかったと思う

15.3%

何も思わない

15.2%

分からない

22.6%

無回答

6.4%

 

 この項目では、不登校の子どもたちが学校を休んだことをどう受け止めているか、を尋ねている。

 この問いに答えているのは、不登校只中の子どもたちであるが、教育支援センター(適応指導教室)に通える子どもである。(相談もできず支援も受けられていない子どもに比して)不登校の状態としては良好な状況にあると言えるのではないか。そのことを念頭に置いて調査結果と向き合うのが肝要と思える。

 ここに表れた子どもたちの思いをどう理解するかは難しい。その傾向だけを示しておく。

  • 「もっと登校すればよかったと思っている」と不登校を懐疑的に捉えているのは、小学生25.2%、中学生30.3%である。約3割である。
  • これに対して「登校しなかったことは、自分にとって良かったと思う」と不登校を肯定的に捉えているのは、小学生12.8%、中学生10.3%である。
  • また、「しかたがなかったと思う」というように不登校になったのは必然であったと捉えている子ども(小学生16.8%、中学生15.3%)を合わせると、小学生29.6%、中学生25.6%と3割近くになる。
  • この先がどのようになるか分からない中で、不登校の是非を判断できない状況の中で「分からない」という回答は、子どもたちの心情を率直に表しているのかもしれない。「分からない」は小学生21.2%、中学生22.6%である。

 

4.子どもたちの状況に合っていない不登校施策

 以上、不登校の子どもたちの不登校施策の利用状況を見てきた。そこから分かることは、不登校施策が子どもたちの状況にあっていないということである。それは、次の諸点から分かる。

  • どの相談施設・機関にも相談していない小・中学生が88,931人(36.3%)もいる(問題行動等調査)こと。これは、「実態調査」の「誰にも相談しなかった〈小学生35.9%、中学生41.7%〉」に符合する。
  • ア「どのようなことがあれば休まなかったと思うか」イ「学校に戻りやすいと思う対応」(実態調査)に対して、半数以上の子どもたち(アは小学生55.7%、中学生56.8%、イは小学生57.1%、中学生54.4%)が「特になし」と答えている。
  • 学校以外の学びの場である「教育支援センター(適応指導教室)」の利用は、小学生7283人(8.9%)、中学生17,926人(10.1%)、小中学生合わせて25,209人(小中学生の10.3%)である。
  • 民間団体、民間施設の利用は、小学生4021人(4.9%)、中学生5,108人(3.1%)、小中学生合わせて9,129人で、3.7%である。

学校以外の支援施設・機関を利用している子どもは小中学生34,338人で、全体の14%である。

さらに、文科省が近年、特に力を入れて推進している「不登校特例校」ついて見ると、次の状況にある。

 

  • 夜間中学校や不登校特例校の設置は、文科省が力を入れて進めている施策である。夜間中学校は、学び直しの場として、中学校を卒業した後も利用することができる。

不登校特例校は、不登校経験者を対象とした小学校、中学校、高校である。現在、

全国で10自治体にあり、21校が指定されている。うち公立が12校、私立が9校

である。(2022年5月、小学校1,中学校15、高校3、その他2)である。利

用者数の資料はない。(ちなみに、平成28年1月時点で、不登校特例校は、小・中

併設校2校、中学校6校、高等学校2校で、在籍者数は729人であった。在籍者

数も学校数に合わせて増えていると思える。)また、不登校特例校は、設置に積極的

な自治体や学校法人に集中しているようで、一般化しているとはいえる状況ではな

い。

  • このほか、学校以外の学びの場としてフリースクールがある。令和元年の調査では、フリ―スクール252、親の会10,学習塾10、その他79。計351ある。(その他とは特色ある教育を行う施設などを言うらしい。)
  • 教育委員会と連携のある民間の団体・施設は351ある。2021年度の「問題行動等調査」によれば、その利用者は、小学生4,021人、中学生5,108人、計9,129人で、小学生の4.9%、中学生の3.1%、小中学生全体の3.7%である。

 

もう1度、文科省の不登校施策を見てみよう。

〇教育機会確保法及び基本指針の学校現場への周知・浸透

〇心の健康保持に関する教育の実施及び一人一台端末を活用した早期発見

〇不登校傾向にある児童生徒の早期発見及び支援ニーズの適切な把握のための、スクリ

ーニング及び「児童生徒理解・支援ノート」を活用したアセスメントの有機的な実施

〇不登校特例校設置の推進

〇学校内の居場所づくり(校内の別室を活用した支援策)

〇フリースクール等民間団体との連携

〇ICT等を活用した学習支援等を含めた教育支援センターの機能強化

〇教育相談の充実(オンラインカウンセリングを含む)

〇家庭教育の充実

 不登校の早期発見、相談体制の充実、学校内の居場所づくり、学校以外の学びの場の保障などなど、様々な施策が講じられている。

しかし、子どもたちの受け止めや施策の利用は、以上のように2つの調査資料を通して見て来たとおりで、多くの子どもたちが施策と無縁の状況にあることが分かる。

その結果が次の表、「不登校児童生徒への指導結果状況」である。

 

 

小学生

中学生

不登校児童生徒数

81,498人

163,442人

244,940人

指導の結果,登校する又はできるようになった児童生徒

 

22,119人(27.1%)

 

45,925人(28.1%)

 

68,044人(27.8%)

指導中の児童生徒

59,379人(72.9%)

117,517人(71.9%)

176,896人72.2%)

 

 この状況は、数十年間、毎年、続いている。

 しかし、多くの不登校の子どもたちは、施策と無縁の状況にある中で、多くの困難を抱えながらも自らの進路を切り開いて行っている。

2007年(平成18年)に不登校の子どもたちの就学、就職状況を調査した文科省の資料が下の表である。

 

2007(平成18)年度不登校生徒の進学・就学・就業状況について

( )内は1994(平成5)年度調査

中学3年生時の高校進学率

 

今回調査

全国平均

高校進学率

85.1% (65.3%)

98%

高校中退率

14.0% (37.9%)

1.9%

高校進学率全国平均はH19学校基本調査、中退率全国平均はH19~21問題行動調査

20歳現在の就学・就業の状況

 

今回調査

全国平均

就学している

47.4% (23.5%)

59.0%

就業している

54.1% (63.0%)

44.7%

全国平均は2010年国勢調査

20歳現在の就学の状況

 

今回調査

全国平均

高等学校

9.0% (6.5%)

1.3%

専門学校・各種学校等・大学・短大・高専

 

37.7% (*16.5%)

 

58.8%

全国平均は2010年国勢調査 *前回調査は高専を含まず

 

5.調査資料から分かる子どもたちの思い

 以上のように、不登校に関して様々な施策が講じられている。しかし、子どもたちの受け止めや施策の利用は、調査資料を通して見て来たとおり、施策を利用できているのは限られた子どもたちであって、多くの子どもたちは施策と無縁の状況にあることが分かる。

 よって、施策は有効でないと言える。しかし、調査資料からは、次のような子どもたちの様子や思いが分かる。それは、不登校問題を解決していくための参考になるかもしれない。

1つは、不登校になりかけた時、困った時、子どもは、身近な人に相談している。それは、家族、親であり、友だちであり、先生である。(しかし、先生の存在感が薄いのが気に懸かる。)

 2つ目は、身近な人たちの声かけや働き掛けが子どもたちにとっては大きな支えや励ましになっていること。

 3つ目は、子どもたちは、勉強がしたい、勉強がわかりたいという思いを持っていること。

 4つ目は、子どもたちは、友だちと一緒に楽しく活動したいという気持でいること。

 こうした思いは、子どもの最も基本的な欲求、要求である。

 5つ目は、子どもたちは学校に行けなくなる状況まで自分を追い詰めていることである。その思いは、学校を休んだことに対する感想から伝わってくる。また、多くの子どもが何らの相談・支援も受けていないことからも分かる。

 6つ目は、子どもたちは、自らの不登校の状態を受け入れざるを得ず、また、どのような施策をも当てにできない状況にあるということである。

 そして、7つ目は、不登校を経験した子どもたちは、いつまでも同じ状況に留まっていないということ。例え、リスクを抱え、困難な状況にあっても、多くの子どもたちが前に向かって進み、そして、自らの進路を切り開いて行っている。

 

まとめ・・・不登校問題解決への道すじ・・・

 では、なぜ、不登校施策が子どもたちに響いていないのか。それは、文科省の調査結果に表れた不登校問題の本質を見ようともせず、いつまでも、不登校を子や親の責任、課題としているからである。それについては、「第2章 不登校問題の元凶は学校である!」で明らかにした。

 

このレポートを書いている間にも、2月に、文科大臣は “子どもらに配布しているタブレットの活用による早期発見、不登校特例校を増やすなどの施策を早期にまとめたい。”と有識者会議に諮問し、また、3月には、中教審が、今後5年間で不登校特例校を300校に増やすと文科大臣に答申した。また、効果のない同じ施策が続く。

 このような施策が、不登校の子どもたちに対してほとんど効果がないことをこのレポートで明らかにしてきた。不登校問題の深刻さが理解できていないようである。

まとめとして、24万人の子どもが学校へ行けない異常な状況を変え、不登校をなくし、不登校問題を根本的に解決するために何が必要なのか、考える。

不登校の子どもたちに寄り添い、問題を見つめれば、いろんな知恵が、考えがそして、方法が生まれてくるだろう。みんなで考えよう。

以下は、私からの提案です。

◎まず、不登校に対する認識を改めよう。

〇不登校は、子どもたちの「無気力・不安」から起こっているのではない。この国の貧 

困な教育政策によって生み出されているということ。

〇不登校は、子どもたちの発達・成長する権利、学習権の侵害である。

〇不登校の子どもたちは、支援や援助を受ける憐れまれる存在ではない。

〇不登校の子どもたちは、成長・発達、学習、生活の主体であり、主権者として尊重さ

れるべき存在である。

◎不登校問題を子ども(当事者)の視点から考えよう

〇まず、不登校問題がなぜ起こっているのかを、子どもの視点に立って明らかにするこ

とである。そのヒントは、文科省が実施した「問題行動等調査」や「実態調査」、更

には、民間団体が行った調査を検証すればよい。

〇次に、不登校の子どもたちが示している発達や学びに対する要求を尊重すること。子

どもたちは、勉強が分かりたい、友だちと一緒に活動し成長したいという要求を訴え 

ている。一人ひとりの子どもの確かな学力をはじめ全面発達が保障される教育内容を 

整えること。

〇そして、誰もが伸び伸びと生活できる時間的空間的、そして、物理的環境を整備する  

こと。

〇不登校を乗り越えた多くの子どもたちから学ぼう

◎このような視点で、今日の学校教育、制度を見直そう

〇子どもの学びたい、わかりたいという思いを大切にしよう。

○どの子にも確かな学力を保障しよう。

○子どもの主体性を大切にしよう。

○子どもの全面発達を保障しよう。

○先生が授業の準備や教材研究できる時間を保障しよう(午前中授業など)。

○子どもの表情が分かる教室を作ろう(25人学級など)。

◎子どもを権利の主体とした新しい子ども観・教育論を確立しよう

〇子どもが学校、地域、家庭でのびのびと生活できる環境を作ろう

〇子どもを人材としてではなく、権利の主体として尊重しよう

〇子どもを権利の主体とした教育活動・教育実践を家庭、地域で展開しよう。

 


不登校問題を考える2

2023-04-11 15:29:28 | 考察

第2部 不登校問題の元凶は学校である

1.文科省の2つの調査には乖離がある

令和2年度の「不登校に関する調査研究協力者会議」(以後、協力者会議という)において、文科省が行った2つの調査結果が報告された。「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」と「不登校に関する実態調査」である。

 第1章で触れたように、「不登校の要因やきっかけ」に関するこの2つの調査結果は、正反対というか、真逆というか、大きな差異が生じている。(ちなみに、「不登校に関する実態調査」は、文科省が、「協力者会議」に不登校当事者の声を反映させるために実施された調査である。)※1

  ※1 当事者の声として、直近まで不登校であった児童生徒やその保護者に対する実態調査の結果を積極的に活かすなど、不登校の当事者の意識や要望等に配慮しつつ議論を進めてきた。

 「協力者会議」では、委員から調査結果の差異(乖離)に関する発言があったが、座長は、すぐさま発言を引き取り、事務局と相談するとした。結果、議論は深まらなかったが、「協力者会議」の報告書には2つの調査結果の乖離について、次のようにまとめられていた。

 「今回、不登校の要因・背景(実態調査では、『最初に(学校に)行きづらいと感じ始めたきっかけ』)について『令和2年度問題行動等調査』と『実態調査』の結果に乖離が見られたのが、『教職員との関係をめぐる問題』(実態調査では『先生のこと』や『学業不振』(実態調査では『勉強が分からない』)であった。これについては、前者は学校を対象とした悉皆調査で、主な要因を1つ選択することとしているのに対し、後者は不登校児童生徒本人を対象とした抽出調査で、あてはまる要因を複数回答するものであることから、より幅広く回答がされたことなど、調査対象者数や調査手法等の違いによって差が出たものと考えられる。一方で、実態調査において主たる要因でない可能性があるとはいえ、これらの点について学校が認識しているよりも多くの児童生徒が感じていることが明らかになった。

 要するに、「乖離は調査対象差数と調査手法の違いによって生じたもの」として片付けられたてしまったのである。また、「実態調査」で子どもたちが回答した不登校のきっかけについて、「主たる要因でない可能性がある」としている。そして、「当事者の声を反映させる」という当初の目的は捨て置かれてしまった。※2

  ※2 「実態調査」に表れた子どもたちの声は、施策のそれぞれの箇所において引用され、参考にされている。形として、当事者の声を活かす、という体裁になっている。文科省の施策の妥当性を裏付けるものとして。

 はたして、「実態調査」に表れた子どもたちの声は、なんだったのだろう。実は、不登校問題の本質を突いているのかも知れない。第2章「不登校問題の元凶は学校にある!」では、2つの調査結果の乖離から、不登校問題の本質について考えていく。

 

(1)文科省の2つの調査について

 文科省は、不登校に関して2つの調査を行っている。1つは、毎年実施している「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」(以降、問題行動等調査という)と10年間隔で行っている「不登校に関する実態調査」(以降、実態調査という)である。

 不登校に関する調査は、以前は「学校基本調査」に含まれていたが、いつの間にか、問題行動等を調査していた「生徒指導上の諸課題に関する調査」に位置付けられ、「問題行動等調査」となった。この調査は、全児童生徒を対象とした悉皆調査であり、各小中学校が回答する。回答者は教職員である。(基本的に、各学校の生徒指導担当者と考えていいだろう。)

 これに対して、「実態調査」は、2001年に、1993年に中学3年生で不登校だった生徒を対象に行った追跡調査が第1回目である。第2回目は、2011年に、2006年の中学3年生を対象に実施した。そして、2020年に協力者会議への資料として、2020年当時不登校の小学6年生と中学3年生を対象に行った実態調査が3回目である。

 協力者会議に資料として提出されたのは、2020年設置の会議だけである。それまでの2回は、文科省ホームページに公表されていたが、協力者会議に資料としては提出されておらず、協議の対象になっていない。2020年の協力者会議において、委員から、「実態調査」と「問題行動等調査」との違いが指摘されたが、議論には至らなかった。

 しかし、両調査の乖離について、協力者会議のまとめである報告書には、わざわざ項を設けて見解を示している。ちなみに、第1章で指摘したとおり、第1回目から第3回目までの実態調査の結果は、3回とも同じ傾向を示している。

 

(2)文科省の見解について

2つの調査結果の乖離に関する文科省の見解は次の諸点である。

1)どのような乖離が生じたか

 〇今回、不登校の要因・背景(実態調査では、『最初に(学校に)行きづらいと感 じ始めたきっかけ』)について『令和2年度問題行動等調査』と『実態調査』の結果に乖離が見られた

  〇教職員との関係をめぐる問題』(実態調査では『先生のこと』)や『学業不振』(実態調査では『勉強が分からない』)であった。

 下の表を見ていただきたい。

項  目

・小学生

・中学生

・小学生

・中学生

先生のこと

29.7%

27.5%

 1.9%

0.9%

友達のこと(いやがらせやいじめ)

25.4%

25.5%

0.3%

0.2%

勉強が分からない

22.0%

27.6%

3.2%

6.5%

    実=実態調査   問=問題行動等調査

実態調査「先生のこと」=問題行動等調査「教職員との関係をめぐる問題」

実態調査「友達のこと(いやがらせやいじめがあった)」=「いじめ」

 実態調査「勉強が分からない」=問題行動等調査=「学業の不振」

 この違い(差)は大きい。報告書は、「実態調査において主たる要因でない可能性が

あるとはいえ、これらの点について学校が認識しているよりも多くの児童生徒が感じて

いることが明らかになった。」と指摘しているが、はたして、認識の違いで済ませてい

いのだろうか。

問題行動等調査を見ると、不登校の主な要因は、小学生で1位が「無気力・不安」(46.3%)、2位「生活リズムの乱れ」(14.0%)、そして、3位「親子の関わり方」(14.6%).4位「いじめを除く友人関係をめぐる問題」(6.7%)である。中学生では、1位「無気力・不安」(47.1%)、2位「いじめを除く友人関係をめぐる問題」(12.5%)、3位「生活リズムの乱れ」(11.0%)、4位が「学力の不振」(6.5%)そして、5位が「親子の関わり方」(6.2%)となっている。

「無気力・不安」「生活リズムの乱れ」「友人関係」そして、「親子の関わり方」、これらを合わせると、小学生67.6%、中学生66%となり、不登校の要因の大半を占めている。すなわち、不登校の要因は、主に子ども自身と家庭にあることになる。

しかし、実態調査を見ると、不登校は、上の表に示した「先生のこと」「友達のこと(いじめ)」、そして、「勉強が分からない」の3つが主な要因を占めている。

 実態調査は複数回答が可能であり、対して、問題行動等調査は主な要因1つを選択と

している。協力者会議の報告書は、この複数回答と単一回答の違いによって乖離が生じ

たのだと説明している。

しかし、問題行動等調査は、主な要因のほかに、「主要でない要因」についても調べて

いる。その結果を合わせても、調査結果の集計には大きな変化は見られない。問題行動調査の結果は、不登校の要因は、主に子ども自身と家庭にあることを示唆している。

 それに対して、実態調査は、不登校の要因は「先生」「いじめ」「勉強」という「学校」「学校生活」そのものにあると訴えている。

 

2)なぜ乖離は生じたか

 なぜ、このような差(乖離)が生まれたのだろうか。文科省・報告書は、

〇前者(問題行動等調査)は学校を対象とした悉皆調査で、主な要因を1つ選択することとしている 

〇後者(実態調査)は不登校児童生徒本人を対象とした抽出調査で、あてはまる要因を複数回答するものであることから、より幅広く回答がされた

〇調査対象者数や調査手法等の違いによって差が出たものと考えられる。

 と、見解を示している。この見解について検討してみる。

 

ア.悉皆調査と抽出調査について

 「実態調査」は、「対象者の令和元年度に不登校であった者のうち、学校又は教育支援センターに通所の実績がある者を対象とし、全く家から出られないような不登校児童生徒の状況等、全ての不登校児童生徒の状況を反映した調査ではない点に留意する必要がある。」と報告書が指摘しているように、不登校者全員に対する調査ではなく、調査時点で調査可能な児童生徒に限られた抽出調査である。

 それに対して、「問題行動等調査」は、回答者が学校(先生)であり、学校基本調査と同じく、在籍児童生徒の状況を報告・回答することが義務付けられている全数調査(悉皆調査)である。

 悉皆調査は、「国勢調査」で用いられる方法であり、全体の実情が分かり誤差が生じにくいと言われている。他方、抽出調査は、「世論調査」に見られる方法であり、全体的な傾向を知ることができる。どちらも、調査の方法として実績があり、定着しており、どちらも、調査目的に応じて活用できるものである。

 今回の場合、どちらの調査も、不登校の要因やきっかけを知るために実施されたものであり、とりわけ、「実態調査」は、協力者会議に、不登校当事者の声を反映させるために実施されたものであり、その目的に合わせて活用できるものとして実施されたはずである。(なぜなら、文科省は、過去2回、調査研究会を設置して調査対象、調査方法を精査して実施してきた経緯がある。)※3

  ※3 実態調査の調査対象は、学校や教育支援センターに通所可能な子どもであり、家から出られない状況にある子どもに比べて、良好な状況にあると言える。もし、全ての不登校の子どもへの調査が可能であったら、調査結果は、より違った結果になっているかもしれない。過去2回の実態調査は、学年こそ中学3年に限っていたが、全員を対象に実施したにもかかわらず、全員からの回答は不可能だった。それだけ、不登校者は困難な状況にあると言えるのではないか。

 ゆえに、調査方法が違うから乖離が生まれたというのは、理由にはならない。また、調査目的に合わせて、それぞれの調査結果を活用すればいいのであって、調査結果の乖離を説明するために、調査対象、調査人数、調査方法を持ち出すことは、そもそも必要もなければ、根拠もないと言える。

 

イ.回答数(単数回答と複数回答)が乖離を生み出したか

報告書は、「問題行動等調査は、主な要因を1つ選択」、「実態調査は、あてはまる要

因を複数回答するものであることから、より幅広く回答がされた」から、乖離が生じたとする見解を示している。

 また、協力者会議の報告書は、実態調査は複数回答が可能であり、それに対して、問

題行動等調査は主な要因1つを選択としているが、問題行動等調査は、主な要因のほか

に、「主要でない要因」についても調べている。その結果を合わせても、調査結果の集計に

は大きな変化は見られない。問題行動調査の結果は、不登校の要因は、主に子ども自身と家庭にあることを示唆している。

 第1章で見たように、不登校の要因は多様であり、複合的である。故に、不登校の実態調査のように、不登校の原因・きっかけについてもあてはまる事柄を複数回答できる方が、より実態に迫ることができると思われる。「問題行動等調査」でも、主たる要因のほかに、「主要でない要因」も調べている。「問題行動等調査」も複数回答を認めて、集計している。回答数(単数回答と複数回答)が乖離を生み出したとは言い難い。ちなみに、その結果を合わせても、調査結果の集計には大きな変化は見られなかった。問題行動等調査の結果は、不登校の要因は、主に子ども自身と家庭にあることを示唆していることに変わりはない。

 

(3)子どもと先生の認識の違いはなぜ生じたか

以上、見てきたように、調査対象、調査方法、回答数などによって、2つの調査の乖離が生じたとは考えられない。では、なぜ、乖離は生じたのか。それは、二つの調査の回答者の違いによるものと考えられる。

学校とは、すなわち先生である。先生は、子どもの「無気力・不安」や「生活リズムの乱れ」、そして、「親子の関わり方」が不登校の原因であると捉えているから、「問題行動等調査」にも、その認識が反映されているのだろう。一方、当事者の子どもは答えを繕う必要もなく、自分の感じたこと、思ったことを、そのまま答えているのではないか。不登校に関わって、学校(先生)という立場と当事者という立場によって、とらえ方、感じ方が違っているのだろう。

これに関して、報告書は、「実態調査において主たる要因でない可能性があるとはいえ、これらの点について学校が認識しているよりも多くの児童生徒が感じていることが明らかになった。」と指摘している。

乖離とは、すなわち、学校(先生)と当事者(子ども)のとらえ方、感じ方が違いである。

はたして、乖離を先生と子どもの認識の違いで済ませていいのだろうか。

不登校は、子どもたちに大きな負担を負わせている。とりわけ、自己肯定感の否定、喪失は、子どもたちの発達・成長に大きな影響をもたらしている。それを取り戻すための苦しみは言葉にできないほどである。両者の認識の違い(乖離)は、「実態調査」に表れた子どもたちの思い、子どもたちの悲鳴が、先生たちに届いていないことを表しているのである。

 よって、「2つの調査の乖離」とは、「問題行動等調査」が不登校の子どもたちの思いを反映していないことを意味しているのである。

 「協力者会議」は、乖離を認識の違いとして済ませてしまった。当事者の声を反映させるための調査に応え、子どもたちがせっかく声を上げたものを「主たる要因でない」とさえ言っている。なぜ、率直に子どもたちの思いを受け止めないのか。

 子どもたちの声を率直に受け止めればいいものを、受け取らないのにはそれなりの理由があるものと考えられる。子どもたちの声は、不登校の要因として、「先生」「友達」「授業」を挙げている。「先生」「友達」「授業」とは、そもそも学校を構成している重要な要素であり、学校そのものではないか。それらが不登校を生み出している要因となっている。学校そのものが不登校を生み出している、と言って過言ではないだろう。

 子どもたちの声を率直に受け止めれば、これまでの不登校に対する認識が覆ってしまう。“不登校の要因は、主に子ども自身と家庭にある”という「問題行動等調査」に依拠した認識が。「問題行動等調査」は、文科省の不登校施策のデーターベースであり、この調査をもとに、不登校施策が考えられ、実施されてきた。そして、今、現在、「教育機会確保法」と新しい文科省通知をもとに“不登校の子どもは、学校以外の場で学べばよい”とする新たな不登校施策が繰り広げられている。

子どもたちの思いとかけ離れた調査結果をもとに講じられている不登校施策が、本当に子どもたちの為になるのだろうか。そして、不登校問題の真の解決につながっていくのだろうか。不登校施策の妥当性が問われることになる。


不登校問題を考える1

2023-04-11 15:23:16 | 考察

第1部 なぜ、子どもたちは学校に行けなくなるのか

1.資料で見る不登校の理由やきっかけ 

A.「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」

小学生(不登校者 63,350人)

 

主たるもの

主たるもの以外

いじめ

171人

0.3

96人

0.1

いじめを除く友人関係をめぐる問題

4259人

6.7

2621人

4.1

教職員との関係をめぐる問題」

1187人

1.9

1005人

1.6

学業の不振

2049人

3.2

4822人

7.6

進路に係る不安

153人

0.2

238人

0.4

クラブ活動・部活動への不適応

11人

0.0

25人

0.0

学校のきまり等をめぐる問題

453人

0.7

549人

0.9

入学・転編入学・進級時の不適応

1121人

1.8

785人

1.2

家庭の生活環境の急激な変化

2408人

3.8

1523人

2.4

親子の関わり方

9227人

14.6

8888人

14.0

家庭内の不和

1027人

1.6

1403人

2.2

生活リズムの乱れ・あそび・非行

8863人

14.0

6802人

10.7

無気力・不安

29331人

46.3

7247人

11.4

上記に該当なし

3090人

4.9

***

***

 

中学生(132,777人)

 

主たるもの

 

主たるもの以外

 

いじめ

228人

0.2

109人

0.1

いじめを除く友人関係をめぐる問題

16571人

12.5

6524人

4.9

教職員との関係をめぐる問題」

1226人

0.9

1201人

0.9

学業の不振

8626人

6.5

11485人

8.6

進路に係る不安

1428人

1.1

2174人

1.6

クラブ活動・部活動への不適応

772人

0.6

1060人

0.8

学校のきまり等をめぐる問題

1061人

0.8

1118人

0.8

入学・転編入学・進級時の不適応

5412人

4.1

2512人

1.9

家庭の生活環境の急激な変化

3259人

2.5

2183人

1.6

親子の関わり方

8168人

6.2

9923人

7.5

家庭内の不和

2456人

1.8

2834人

2.0

生活リズムの乱れ・あそび・非行

14576人

11.0

9130人

6.9

無気力・不安

62555人

47.1

12840人

9.7

上記に該当なし

6439人

4.8

***

**

上の表の内、「学校に係る状況」は、「いじめ」から「入学・・」まで、「家庭に係る状況」は「家庭の生活環境・・」から「家庭内の不和」まで、「本人に係る状況」は「生活リズム・・」と「無気力・不安」です。

 

B.「不登校に関する実態調査」

小学6年生(713人)

1.友達のこと(いやがらせやいじめがあった)

25.2%

2.友達のこと(1以外)

21.7%

3.先生のこと

29.7%

4.勉強が分からない

22.0%

5.部活動の問題

2.1%

6.学校の決まりなどの問題

2.7%

7.入学、進級、転校して学級や学校に合わなかった

7.4%

8.1~7以外の理由で学校生活と合わなかった

13.3%

9.親のこと

6.7%

10.親の学校に対する考え

1.3%

11.家族関係

4.9%

12.家族の世話や家事が忙しかった

1.1%

13.身体の不調

26.5%

14.生活リズムの乱れ

25.7%

15.インターネット、ゲーム、動画視聴、SNSなどの影響

18.1%

16.学校を休んでいる人がいて影響を受けた

7.2%

17.学校に行く意味が理解できず、行かなくてもいいと思った

13.6%

18.その他

4.8%

19.きっかけが何か自分でもよくわからない

25.5%

20.特にきっかけはないと思う

2.2%

21.無回答

2.0%

 

中学3年生(1,303人)

1.友達のこと(いやがらせやいじめがあった)

25.5%

2.友達のこと(1以外)

25.6%

3.先生のこと

27.5%

4.勉強が分からない

27.6%

5.部活動の問題

13.3%

6.学校の決まりなどの問題

7.8%

7.入学、進級、転校して学級や学校に合わなかった

10.0%

8.1~7以外の理由で学校生活と合わなかった

12.3%

9.親のこと

8.9%

10.親の学校に対する考え

1.8%

11.家族関係

6.2%

12.家族の世話や家事が忙しかった

1.2%

13.身体の不調

32.6%

14.生活リズムの乱れ

25.5%

15.インターネット、ゲーム、動画視聴、SNSなどの影響

17.3%

16.学校を休んでいる人がいて影響を受けた

5.9%

17.学校に行く意味が理解できず、行かなくてもいいと思った

14.6%

18.その他

4.1%

19.きっかけが何か自分でもよくわからない

22.9%

20.特にきっかけはないと思う

1.5%

21.無回答

1.9%

【凡例】

〇友達のことA・・(いやがらせやいじめがあった)

〇友達のことB(A以外)

〇先生のこと・・・(先生と合わなかった、先生が怖かった、体罰があったなど)

〇勉強が分からない・・(授業がおもしろくなかった、成績がよくなかった、テストの点がよくなかったなど)

〇部活動の問題・・(部活動に合わなかった、同じ部活の友達とうまくいかなかった、

試合に出場できなかった、部活に行きたくなかったなど)

〇学校の決まりなどの問題

         (学校の校則がきびしかった、制服を着たくなかったなど)

〇親のこと・・・・(親と仲が悪かった、親がおこった、親の注意がうるさかったなど)

〇親の学校に対する考え

         (親がそもそも学校に行く必要はないと考えていたなど)

〇家族関係・・・・(自分以外の家族どうしの仲が悪かった、家族が失業した、家族が離れ離れになったなど)

〇身体の不調・・・(学校に行こうとするとおなかが痛くなったなど)

〇生活リズムの乱れ・・(朝起きられなかったなど)

〇インターネット、ゲーム

・・・(インターネット、ゲーム、動画視聴、SNS(LINEやツイッターなど)等の影響(一度始めると止められなかった、学校に行くより楽しかったなど)

〇学校を休んでいる人の影響

        ・・・(兄弟姉妹や親しい友達の中に、学校を休んでいる人がいて、影響を受けた)

〇学校へ行く意味が理解できず

        ・・・(なぜ学校に行かなくてはならないのかが理解できず、行かなくてもいいと思った)

 

C.「不登校傾向にある子どもの実態調査」

*調査対象の子どもの特徴(タイプ)

調査対象者・・12歳から15歳(6,500人) 有効回答6,450人

1-1・不登校・・・・・年間30日以上学校に行っていない

1-2・不登校・・・・・1週間以上連続など一定程度学校に行っていない

2・・・教室外登校・・・保健室登校、図書室登校、校長室登校、校門登校など

3・・・部分登校・・・・基本的には教室で過ごすが、授業に参加する時間が少ない

4・・・仮面登校A・・・教室では過ごすが、みんなと違うことをし、授業に参加する

          時間が少ない

5・・・仮面登校B・・・教室で過ごしているが、学校に行きたくない、学校が辛い、

          嫌

6・・・登校・・・・・・学校に馴染んでいる

*分類 1-1,1-2を不登校。2~5を不登校傾向とし、2~4と5を分ける。

*比率 1-1(3.1%)、1-2(1.8%)、2~4(4.0%)、

5(4.4%)、6(86.7%)

 

〈学校に行きたくない理由TOP10〉

  • 1-1・・・不登校

①朝起きられない・・・・・・・・・・・・・59.5%

②疲れる・・・・・・・・・・・・・・・・・58.2%

③学校に行こうとすると体調が悪くなる・・・52.9%

④授業がよく分からない、ついて行けない・・49.9%

⑤学校は居心地が悪い・・・・・・・・・・・46.1%

⑥友達とうまくいかない・・・・・・・・・・46.1%

➆自分でもよく分からない・・・・・・・・・44.0%

➇学校に行く意味が分からない・・・・・・・42.9%

➈先生とうまくいかない、頼れない・・・・・38.0%

⑩小学生の時と比べてよい成績が取れない・・33.9%

 

  • 1-2・・・不登校

①疲れる・・・・・・・・・・・・・・・・・38.2%

②朝、起きられない・・・・・・・・・・・・32.6%

③自分でもよく分からない・・・・・・・・・31.0%

④友達とうまくいかない・・・・・・・・・・30.1%

⑤授業がよく分からない、ついていけない・・29.2%

⑥小学校の時と比べてよい成績が取れない・・28.9%

➆学校に行こうとすると体調が悪くなる・・・28.1%

➇学校は居心地が悪い・・・・・・・・・・・24.5%

➈先生とうまくいかない、頼れない・・・・・23.4%

⑩テストを受けたくない・・・・・・・・・・23.2%

 

  • 2~4・・・教室外登校、部分登校、仮面登校A

①疲れる・・・・・・・・・・・・・・・・・44.0%

②朝、起きられない・・・・・・・・・・・・35.6%

③授業がよく分からない、ついて行けない・・33.3%

④友達とうまくいかない・・・・・・・・・・28.5%

⑤小学校の時と比べてよい成績が取れない・・27.1%

⑥テストを受けたくない・・・・・・・・・・27.0%

➆先生とうまくいかない、頼れない・・・・・26.1%

⑧学校は居心地が悪い・・・・・・・・・・・25.9%

⑨校則など学校のきまりが嫌だ・・・・・・・22.5%

➉小学校の時と比べてつまらない・・・・・・21.8%

 

  • 5・・・仮面登校B

①疲れる・・・・・・・・・・・・・・・・・48.7%

②朝、起きられない・・・・・・・・・・・・32.2%

③学校に行く意味が分からない・・・・・・・31.9%

④学校は居心地が悪い・・・・・・・・・・・28.4%

⑤テストを受けたくない・・・・・・・・・・28.2%

⑥小学校の時と比べてよい成績が取れない・・27.8%

➆授業がよく分からない、ついて行けない・・27.3%

⑧先生とうまくいかない、ついて行けない・・26.1

⑨小学校の時と比べて、つまらない・・・・・25.0%

➉友達とうまくいかない・・・・・・・・・・24.1%

 

D.不登校に関する実態調査

 「平成18年度不登校生徒に関する追跡調査報告書」

調査の概要

*調査対象…平成18(2006)年度に中学校第3学年に在籍し学校基本調査において不登校として計上された者 41,043人

*調査時期 平成23(2011)年から平成24(2012)年

*在籍中学校に対する基礎的調査(A調査)・・・・・・回答数28,388人

*対象者本人に対するアンケート調査(B調査)・・・・回答者 1,604人

*対象者本人に対するインタビュー調査(C調査)・・・回答者   379人

調査資料について

*調査資料はB調査の集計表を基にして作成した。

【調査資料】・・・「不登校のきっかけ」

全項目に対して総回答数1,604 有効回答数1,581であった。

 問 「あなたが学校を休みはじめた時のきっかけは何ですか。思いあたるものすべて

に〇をつけてください。」

選択肢

回答数

H18調査(%)

H5調査(%)

1.友人との関係

849

53.7

44.5

2.先生との関係

420

26.6

20.8

3.勉強が分からない

500

31.6

27.6

4.クラブや部活動の友人・先輩との関係

366

23.1

16.5

5.学校のきまり等の問題

161

10.2

9.8

6.入学、転校、進級して学校や学級になじめなかった

273

17.3

14.3

7.家族の生活環境の急激な変化

155

9.8

4.3

8.親との関係

288

14.4

11.3

9.家族の不和

160

10.1

7.5

10.病気

235

14.9

13.2

11.生活リズムの乱れ

548

34.7

12.インターネットやメール、ゲームなどの影響

246

15.6

13.その他

257

16.3

19.3

14.とくに思い当たることはない

88

5.6

10.8

*表のH5年調査は、平成5(1993)年度に中学3年生在籍の不登校だった生徒を

対象に、平成13(2001)年に実施した追跡調査である。

*選択肢の具体例

1.友人との関係・・・・いやがらせやいじめ、けんかなど

2.先生との関係・・・・先生がおこる、注意がうるさい、体罰など

3.勉強が分からない・・授業がおもしろくない。成績がよくない、テストが嫌いなど

4.クラブや部活動の友人・先輩との関係

・・・先輩からのいじめ、他の部員とうまくいかなかったなど

5.学校のきまり等の問題

・・・学校の校則がきびしいなど

6.入学、転校、進級して学校や学級になじめなかった

・・・転校、進級した時の不適応

7.家族の生活環境の急激な変化

・・・父親や母親の単身赴任、家族の別居、親の転職や失業などの経済的な問題など

8.親との関係・・親がおこる、親の言葉や態度への反発、親との会話がほとんどないなど

9.家族の不和・・・・・両親の不和、祖父母と父母の不和など

10.病気

11.生活リズムの乱れ・・朝起きられないなど

12.インターネットやメール、ゲームなどの影響

         ・・・一度始めると止められない、学校より楽しいなど

13.その他

14.とくに思いあたることはない

 

2.子どもと先生では不登校の捉え方がちがう(考察Ⅰ) 

 資料に目を通しただけで、子どもたちが学校に行けなくなる理由やきっかけが多様であることに気づく。

 学校へ行けない子どもたちが、19万人。私の暮らす街の人口の2倍以上である。こんなにも多くの子どもが、学校に行けなくなっている。

 ワクワクしながら、小学校の入学式を迎えたはずなのに。学校って楽しいところ、勉強するって嬉しいこと、友だちたくさんできるかなって、胸躍らせていた子どもたちが、どうして学校に行けなくなったのか。

 

(1)「問題行動等調査」の不登校の子どもたち

なんと、不登校の子どもたち(小学生も中学生も)の約半数は、本人の「無気力・不安」によって学校に行けなくなったらしい。それに続くのが、「生活リズムの乱れ」である。つまり、朝、学校に行く時間になっても、起きられない子どもたちだ。6割近くの子どもが、これらの理由で学校に行けなくなっている

子どもたちが学校に行けなくなるのは本人に原因がある、ということが「問題行動等調査」からは読み取れる。

そして、見落としてはならないのが、「親子の関わり方」である。中学生で6.2%、小学生では14.6%、と大きな割合を占めている。「無気力・不安」「生活リズムの乱れ」に次ぐ不登校の要因である。

社会的に問題となっている、いわゆる「いじめ」を原因とする不登校は、小学生0,2%、中学生0,3%と極めて少ない。しかし、いじめ以外の友達関係は、不登校との関りが大きいことが分かる。

「無気力・不安」、「生活リズムの乱れ」、そして、「親子の関わり方」と「友人関係をめぐる問題」、これらを合わせると、小学生67.6%、中学生66%となり、不登校の要因の大半を占めている。

何事にもやる気が見られず、いつも何か心配事があるようで落ち着かない様子の子。遊びやゲームに夢中になったり、非行に走ったりして生活リズムが乱れ、朝、起きられずに、学校を休みがちになる子。

不登校になる子どもには、そんな傾向がみられるようだ。親に反抗したり、言うことを聞かなかったり、親子関係がうまくいっていない子、そして、いさかいを起こしたり、喧嘩をしたり、友だち関係がうまく築けない子どもが不登校になりがちである。

「問題行動等調査」からは、そんな子どもたちの姿が浮かんでくる。

 

(2)「実態調査」から分かる子どもたちの思い

次に、「実態調査」を見る。

「実態調査」を見ると、「問題行動等調査」とは相反する不登校になった原因、きっかけが浮かび上がってくる。

 

先生とうまくいかなかったから、先生が怖かったから、体罰があったから、学校へ行けなかった。

授業がおもしろくない、勉強が分からない。だから、学校へ行くのが辛くなって、学校を休むようになった。

友だちからいやがらせをされたり、いじめられたりするから、学校に行くのが嫌になった。

さらに、朝、起きられない。お母さんが起こしに来ても体が動かず、起きられない。学校へ行こうとすると、おなかが痛くなり、吐き気がしたり、体の調子が悪くなって、休んでしまった。

これが、「実態調査」に表れた子どもたちの思いである。これらのことは、「問題行動等調査」には、ほとんど表れていない。

学校は、先生がいて、友だちがいて、みんな、わいわいガヤガヤおしゃべりをして、遊んで、そして、勉強するところ・・・・。

今日の算数頑張るぞ。理科の実験が楽しみだなあ。休み時間は何をして遊ぼうか、ドッジボールをしようかな。給食は何だろう。子どもたちは、何か、きっと、楽しいことがあるような気がして、学校へ行くのだろう。そんな学校だと楽しいのだが。

でも、先生の怖い顔が浮かんできたり、今日も友だちにいじ悪されたり、いじめられたらどうしようと悩んでいたりしたら、朝起きるのも辛いだろう。

勉強が分からなくて、授業について行けなかったら、どんな思いで座っているのだろ。どんな気持ちで、先生の話を聞くのだろう。

「実態調査」に表れた子どもたちの声が、私には悲鳴に聞こえる。

 

(3)全く相反する調査結果

 二つの調査からは、子どもたちが学校に行けなくなるのには、いろんな理由やきっかけがあること、そして、友だちとの関係が大きな要因になっていることがわかる。

しかし、二つの調査結果は、大きく違っている。「問題行動等調査」では、子ども自身と家庭に大きな要因である。反対に、「実態調査」では、学校やいじめが大きな要因となっている。

 

3.学校へ行けない子どもたちの思い(届かない子どもの声)(考察Ⅱ)

(1)その他の調査が示していることは?

「実態調査」と「問題行動等調査」では、結果に大きな食い違い(乖離)が見られる。幸い、この二つの調査以外にも、子どもたちが学校に行けなくなる理由を調べた調査がある。民間の社団法人「日本財団」が実施した「財団調査」と文科省が「不登校に関する追跡調査研究会を立ち上げ、実施した「不登校生徒に関する追跡調査」である。それらについて見てみる。

 

 ア)「財団調査」

「財団調査」は、2018(平成30)年に、中学生6500人を対象に、不登校傾向にある子どもたちの学校に馴染めない原因、背景を知るために実施されて調査である。6500人の内、1-1不登校が201人、1-2不登校が117人、合計318人である。その生徒たちの声を聞いてみる。

 「財団調査」では、「疲れる」「「朝起きられない」「学校へ行こうとすると体調が悪くなる」といった身体的な症状が学校に行けなくなる要因として浮かび上がってくる。次に、「授業がよく分からない、ついて行けない」「小学校の時と比べてよい成績が取れない」という勉強や授業のことが不登校につながっていることも伺える。そして、この調査でも、「友達とうまくいかない」「先生とうまくいかない、頼れない」といった先生や友達との関係が不登校の要因になっていることが分かる。

 イ)「追跡調査」

 「追跡調査」を見て、まず、浮かぶことは、「実態調査」と同じ傾向ではないか、ということだ。不登校になるきっかけ、理由は、「実態調査」と同様に、「友人との関係」「生活リズムの乱れ」「勉強が分からない」「先生との関係」が大きな比率で現れている。(なお、「身体の不調」は「追跡調査」には選択肢に入っていなかった。)

 両調査を、割合の大きい上記の項目について比べてみると、次のようになる。

設問項目

実態調査

H18追跡調査

H5追跡調査

友達との関係

51.0%

53.7%

44.5%

勉強が分からない

27.6%

31.6%

27.6%

先生との関係

27.5%

26.6%

20.8%

生活リズムの乱れ

25.5%

34.7%

・・・・・

 

「追跡調査」は、中学3年生の時に不登校だった人を対象に、5年後に調査をしたもので、2001年と2011年の2回実施している。比較するために、「実態調査」も中学3年生分の比率を使った。

「身体の不調」と「生活リズムの乱れ」は、「追跡調査」の選択肢に入っていないため比較はできないが、不登校になる理由として割合の大きい「友達との関係」「勉強が分からない」「先生との関係」は、どの調査でも大きい割合を占めている。

「実態調査」と「追跡調査」は、10年ごとに実施されている。いわば30年間の不登校の要因の推移が分かる資料であるとも言える。しかし、上の表のように、「友達との関係」「勉強が分からない」「先生との関係」が、ずっと変わらず、不登校の大きな要因であることが分かる。

 

(2)子どもたちは、なぜ、学校へ行けないのか

「実態調査」「財団調査」「追跡調査」では、「友達関係」「先生との関係」「勉強が分からない」が不登校の大きな要因であることが分かる。また、「生活リズムの乱れ」「体調の不調」「朝起きられない」も大事な要因として浮かび上がってくる。

 これらの調査と「問題行動等調査」とでは、結果に大きな違いが見られる。

 思うに、「問題行動等調査」は、先生が回答者であり、先生の視点から見える不登校の要因であり、他の調査は回答者が子ども本人であり、いわば、子どもの視点から見える不登校の要因であるのではないだろうか。

先生は、子どもに「やる気がないから」、「親子関係がうまくいっていないから」不登校になった、と言う。子どもたちは、「先生との関係」や「友達との関係」、そして、「勉強が分からない」から不登校になったと言う。

 

(3)追 記

「問題行動等調査」は文科省が毎年行っている調査で、文科省の不登校施策のデーターベースである。果たして、適切なデーターといえるだろうか。

これらについては、次章で改めて考えてみたい。

 


不登校問題を考える

2023-04-11 15:18:33 | 考察

不登校問題を考える

 

本レポートの問題意識

 

 学校へ行けない、行かない子どもが20万人を超えた。

 不登校が社会問題化してから数十年、文科省はスクールカウンセラーの配置、適応指導教室の設置など様々な対策を講じてきた。しかし、今日では、小学生の70人に1人、中学生の20人に1人が不登校という状態になっている。

 そうした中、2016年12月、「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保に関する法律(教育機会確保法)」が成立し、2019年10月、文科省は、「不登校児童生徒への支援の在り方」を通知した。それらは、“不登校の子どもたちは、学校以外の場で学んでも良い”とするものである。不登校施策の大転換が行われた。

 既に、「教育機会確保法」から6年、「通知」から3年が経った。その間にも不登校の子どもは増え続けた。しかし、学校以外の場で子どもたちが学び、過ごせる場所はほとんどない。環境の整備は掛け声だけで、遅々として進んでいない。子どもたちには行き場がない。文科省の調査によると、誰にも相談せず、何の支援も受けていない子どもが多くいるという。文科省が実施している施策を、不登校の子どもたちは望んでいるのだろうか。そして、それらは、本当に子どもたちの為になっているのだろうか。

 なぜ、子どもたちは学校に行けなくなるのか。子どもたちは何を望んでいるのか。どうすれば不登校をなくせるのか。不登校の当事者・経験者=子どもたちの声を聞いてみてはどうだろう。

幸い、不登校の子どもたちを対象とした調査が、文科省や民間団体によって行われている。このレポートでは、それらの調査資料を基に、子どもたちがなぜ不登校になるのか、不登校問題の本質とは何か、不登校をなくし、不登校問題を解決するにはどうすればいいか、を考えていきたい。

 

レポートで使用する調査資料

A.「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」(以降、「問題行動等調査」と略す)第1章・第2章は2020年度の調査 第3章は2021年度調査の資料を使用した。

B.「不登校に関する実態調査」(以降、「実態調査」と略す)2020年の「不登校に

関する調査研究協力者会議」の資料とするため実施された調査である。

C.「不登校傾向にある子どもたちの実態調査」(以降、「財団調査」と略す)日本財団

が2018年に実施した調査である。

D.「平成18年度不登校生徒に関する追跡調査報告書」(以降、「追跡調査」と略す)   

文科省が2011年に調査研究会を設けて、2011年から12年にかけて実施

した調査である。なお、2001年にも同様の調査を行っている。

 

 

「不登校問題を考える」 レポートの構成

 

不登校問題を考える         ・・・・・・・・・・・P1~2

  レポートの問題意識

 

第1部 なぜ、子どもたちは学校に行けなくなるのか・・・・・P3~13

  • 資料で見る不登校の理由やきっかけ
  • 子どもと先生では不登校の認識がちがう
  • 学校に行けない子どもたちの思い

 

第2部 不登校問題の元凶は学校である ・・・・・・・・・・P14~19

  • 文科省の2つの調査結果には大きな乖離がある
  • なぜ、乖離は生じたか
  • 学校(先生)と子どもの認識の違いはなぜ生じたのか

 

第3部 文科省の不登校施策を問う ・・・・・・・・・・・・P20~34

  • はじめに
  • 文科省が行ってきた不登校施策
  • 子どもたちの施策への反応は?
  • 子どもたちの為になっていない不登校施策
  • 調査資料から分かる子どもたちの思い

6.まとめ 不登校問題解決への道すじ