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不登校問題の元凶は学校である!

2022-10-21 10:54:58 | 考察

Series 不登校問題を考える
第2章 不登校問題の元凶は学校である!
      ~2つの調査の乖離を考える~


1.はじめに
 令和2年度の「不登校に関する調査研究協力者会議」(以後、協力者会議という)において、文科省が行った2つの調査結果が報告された。「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」と「不登校に関する実態調査」である。
 第1章で触れたように、「不登校の要因やきっかけ」に関するこの2つの調査結果は、正反対というか、真逆というか、大きな差異が生じている。(ちなみに、「不登校に関する実態調査」は、文科省が、「協力者会議」に不登校当事者の声を反映させるために実施された調査である。)※1
  ※1 当事者の声として、直近まで不登校であった児童生徒やその保護者に対する実態調査の結果を積極的に活かすなど、不登校の当事者の意識や要望等に配慮しつつ議論を進めてきた。
 「協力者会議」では、委員から調査結果の差異(乖離)に関する発言があったが、座長は、すぐさま発言を引き取り、事務局と相談するとした。結果、議論は深まらなかったが、「協力者会議」の報告書には2つの調査結果の乖離について、次のようにまとめられていた。
 「今回、不登校の要因・背景(実態調査では、『最初に(学校に)行きづらいと感じ始めたきっかけ』)について『令和2年度問題行動等調査』と『実態調査』の結果に乖離が見られたのが、『教職員との関係をめぐる問題』(実態調査では『先生のこと』や『学業不振』(実態調査では『勉強が分からない』)であった。これについては、前者は学校を対象とした悉皆調査で、主な要因を1つ選択することとしているのに対し、後者は不登校児童生徒本人を対象とした抽出調査で、あてはまる要因を複数回答するものであることから、より幅広く回答がされたことなど、調査対象者数や調査手法等の違いによって差が出たものと考えられる。一方で、実態調査において主たる要因でない可能性があるとはいえ、これらの点について学校が認識しているよりも多くの児童生徒が感じていることが明らかになった。
 要するに、「乖離は調査対象差数と調査手法の違いによって生じたもの」として片付けられたてしまったのである。また、「実態調査」で子どもたちが回答した不登校のきっかけについて、「主たる要因でない可能性がある」としている。そして、「当事者の声を反映させる」という当初の目的は捨て置かれてしまった。※2
  ※2 「実態調査」に表れた子どもたちの声は、施策のそれぞれの箇所において引用され、参考にされている。形として、当事者の声を活かす、という体裁になっている。文科省の施策の妥当性を裏付けるものとして。
 はたして、「実態調査」に表れた子どもたちの声は、なんだったのだろう。実は、不登校問題の本質を突いているのかも知れない。第2章「不登校問題の元凶は学校にある!」では、2つの調査結果の乖離から、不登校問題の本質について考えていく。

2.文科省の2つの調査について
 文科省は、不登校に関して2つの調査を行っている。1つは、毎年実施している「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」(以降、問題行動等調査という)と10年間隔で行っている「不登校に関する実態調査」(以降、実態調査という)である。
 不登校に関する調査は、以前は「学校基本調査」に含まれていたが、いつの間にか、問題行動等を調査していた「生徒指導上の諸課題に関する調査」に位置付けられ、「問題行動等調査」となった。この調査は、全児童生徒を対象とした悉皆調査であり、各小中学校が回答する。回答者は教職員である。(基本的に、各学校の生徒指導担当者と考えていいだろう。)
 これに対して、「実態調査」は、2001年に、1993年に中学3年生で不登校だった生徒を対象に行った追跡調査が第1回目である。第2回目は、2011年に、2006年の中学3年生を対象に実施した。そして、2020年に協力者会議への資料として、2020年当時不登校の小学6年生と中学3年生を対象に行った実態調査が3回目である。
 協力者会議に資料として提出されたのは、2020年設置の会議だけである。それまでの2回は、文科省ホームページに公表されていたが、協力者会議に資料としては提出されておらず、協議の対象になっていない。2020年の協力者会議において、委員から、「実態調査」と「問題行動等調査」との違いが指摘されたが、議論には至らなかった。
 しかし、両調査の乖離について、協力者会議のまとめである報告書には、わざわざ項を設けて見解を示している。ちなみに、第1章で指摘したとおり、第1回目から第3回目までの実態調査の結果は、3回とも同じ傾向を示している。

3.文科省の見解について
2つの調査結果の乖離に関する文科省の見解は次の諸点である。
(1) どのような乖離が生じたか
 〇今回、不登校の要因・背景(実態調査では、『最初に(学校に)行きづらいと感 じ始めたきっかけ』)について『令和2年度問題行動等調査』と『実態調査』の結果に乖離が見られた
  〇教職員との関係をめぐる問題』(実態調査では『先生のこと』)や『学業不振』(実態調査では『勉強が分からない』)であった。
 下の表を見ていただきたい。
  項  目            実・小学生    実・中学生    問・小学生   問・  中学生
先生のこと             29.7%    27.5%       1.9%     0.9%
友達のこと(いやがらせやいじめ)  25.4%    25.5%    0.3%      0.2% 
勉強が分からない          22.0%    27.6%    3.2%      6.5%
    実=実態調査   問=問題行動等調査
実態調査「先生のこと」=問題行動等調査「教職員との関係をめぐる問題」
実態調査「友達のこと(いやがらせやいじめがあった)」=問題行動等調査「いじめ」                      実態調査「勉強が分からない」=問題行動等調査=「学業の不振」

 この違い(差)は大きい。報告書は、「実態調査において主たる要因でない可能性があるとはいえ、
これらの点について学校が認識しているよりも多くの児童生徒が感じていることが明らかになっ
た。」と指摘しているが、はたして、認識の違いで済ませていいのだろうか。
 問題行動等調査を見ると、不登校の主な要因は、小学生で1位が「無気力・不安」(46.3%)、2位「生活リズムの乱れ」(14.0%)、そして、3位「親子の関わり方」(14.6%).4位「いじめを除く友人関係をめぐる問題」(6.7%)である。中学生では、1位「無気力・不安」(47.1%)、2位「いじめを除く友人関係をめぐる問題」(12.5%)、3位「生活リズムの乱れ」(11.0%)、4位が「学力の不振」(6.5%)そして、5位が「親子の関わり方」(6.2%)となっている。
「無気力・不安」「生活リズムの乱れ」「友人関係」そして、「親子の関わり方」、これらを合わせると、小学生67.6%、中学生66%となり、不登校の要因の大半を占めている。すなわち、不登校の要因は、主に子ども自身と家庭にあることになる。
しかし、実態調査を見ると、不登校は、上の表に示した「先生のこと」「友達
のこと(いじめ)」、そして、「勉強が分からない」の3つが主な要因を占めている。
 実態調査は複数回答が可能であり、対して、問題行動等調査は主な要因1つを選択としている。
協力者会議の報告書は、この複数回答と単一回答の違いによって乖離が生じたのだと説明している。
しかし、問題行動等調査は、主な要因のほかに、「主要でない要因」についても調べている。その結
果を合わせても、調査結果の集計には大きな変化は見られない。問題行動調査の結果は、不登校の要因
は、主に子ども自身と家庭にあることを示唆している。
 それに対して、実態調査は、不登校の要因は「先生」「いじめ」「勉強」という「学校」「学校生活」そのものにあると訴えている。
 
(2) なぜ乖離は生じたか
 なぜ、このような差(乖離)が生まれたのだろうか。文科省・報告書は、
〇前者(問題行動等調査)は学校を対象とした悉皆調査で、主な要因を1つ選択することとしている 
〇後者(実態調査)は不登校児童生徒本人を対象とした抽出調査で、あてはまる要因を複数回答するものであることから、より幅広く回答がされた
〇調査対象者数や調査手法等の違いによって差が出たものと考えられる。
 と、見解を示している。この見解について検討してみる。

 1)悉皆調査と抽出調査について
 「実態調査」は、「対象者の令和元年度に不登校であった者のうち、学校又は教育支援センターに通所の実績がある者を対象とし、全く家から出られないような不登校児童生徒の状況等、全ての不登校児童生徒の状況を反映した調査ではない点に留意する必要がある。」と報告書が指摘しているように、不登校者全員に対する調査ではなく、調査時点で調査可能な児童生徒に限られた抽出調査である。
 それに対して、「問題行動等調査」は、回答者が学校(先生)であり、学校基本調査と同じく、在籍児童生徒の状況を報告・回答することが義務付けられている全数調査(悉皆調査)である。
 悉皆調査は、「国勢調査」で用いられる方法であり、全体の実情が分かり誤差が生じにくいと言われている。他方、抽出調査は、「世論調査」に見られる方法であり、全体的な傾向を知ることができる。どちらも、調査の方法として実績があり、定着しており、どちらも、調査目的に応じて活用できるものである。
 今回の場合、どちらの調査も、不登校の要因やきっかけを知るために実施されたものであり、とりわけ、「実態調査」は、協力者会議に、不登校当事者の声を反映させるために実施されたものであり、その目的に合わせて活用できるものとして実施されたはずである。(なぜなら、文科省は、過去2回、調査研究会を設置して調査対象、調査方法を精査して実施してきた経緯がある。)※3
  ※3 実態調査の調査対象は、学校や教育支援センターに通所可能な子どもであり、家から出られない状況にある子どもに比べて、良好な状況にあると言える。もし、全ての不登校の子どもへの調査が可能であったら、調査結果は、より違った結果になっているかもしれない。過去2回の実態調査は、学年こそ中学3年に限っていたが、全員を対象に実施したにもかかわらず、全員からの回答は不可能だった。それだけ、不登校者は困難な状況にあると言えるのではないか。
 ゆえに、調査方法が違うから乖離が生まれたというのは、理由にはならない。また、調査目的に合わせて、それぞれの調査結果を活用すればいいのであって、調査結果の乖離を説明するために、調査対象、調査人数、調査方法を持ち出すことは、そもそも必要もなければ、根拠もないと言える。

2)回答数(単数回答と複数回答)が乖離を生み出したか
報告書は、「問題行動等調査は、主な要因を1つ選択」、「実態調査は、あてはまる要
因を複数回答するものであることから、より幅広く回答がされた」から、乖離が生じたとする見解を示している。
 また、協力者会議の報告書は、実態調査は複数回答が可能であり、それに対して、問
題行動等調査は主な要因1つを選択としているが、問題行動等調査は、主な要因のほか
に、「主要でない要因」についても調べている。その結果を合わせても、調査結果の集計に
は大きな変化は見られない。問題行動調査の結果は、不登校の要因は、主に子ども自身と家庭にあることを示唆している。
 第1章で見たように、不登校の要因は多様であり、複合的である。故に、不登校の実態調査のように、不登校の原因・きっかけについてもあてはまる事柄を複数回答できる方が、より実態に迫ることができると思われる。「問題行動等調査」でも、主たる要因のほかに、「主要でない要因」も調べている。「問題行動等調査」も複数回答を認めて、集計している。回答数(単数回答と複数回答)が乖離を生み出したとは言い難い。ちなみに、その結果を合わせても、調査結果の集計には大きな変化は見られなかった。問題行動等調査の結果は、不登校の要因は、主に子ども自身と家庭にあることを示唆していることに変わりはない。

(3) 学校の認識と児童生徒の認識の違いはなぜ生じたのか
以上、見てきたように、調査対象、調査方法、回答数などによって、2つの調査の乖離が生じたとは考えられない。では、なぜ、乖離は生じたのか。それは、二つの調査の回答者の違いによるものと考えられる。
学校とは、すなわち先生である。先生は、子どもの「無気力・不安」や「生活リズムの乱れ」、そして、「親子の関わり方」が不登校の原因であると捉えているから、「問題行動等調査」にも、その認識が反映されているのだろう。一方、当事者の子どもは答えを繕う必要もなく、自分の感じたこと、思ったことを、そのまま答えているのではないか。不登校に関わって、学校(先生)という立場と当事者という立場によって、とらえ方、感じ方が違っているのだろう。
これに関して、報告書は、「実態調査において主たる要因でない可能性があるとはいえ、これらの点について学校が認識しているよりも多くの児童生徒が感じていることが明らかになった。」と指摘している。
乖離とは、すなわち、学校(先生)と当事者(子ども)のとらえ方、感じ方が違いである。
はたして、乖離を先生と子どもの認識の違いで済ませていいのだろうか。
不登校は、子どもたちに大きな負担を負わせている。とりわけ、自己肯定感の否定、喪失は、子どもたちの発達・成長に大きな影響をもたらしている。それを取り戻すための苦しみは言葉にできないほどである。両者の認識の違い(乖離)は、「実態調査」に表れた子どもたちの思い、子どもたちの悲鳴が、先生たちに届いていないことを表しているのである。
 よって、「2つの調査の乖離」とは、「問題行動等調査」が不登校の子どもたちの思いを反映していないことを意味しているのである。
 「協力者会議」は、乖離を認識の違いとして済ませてしまった。当事者の声を反映させるための調査に応え、子どもたちがせっかく声を上げたものを「主たる要因でない」とさえ言っている。なぜ、率直に子どもたちの思いを受け止めないのか。
 子どもたちの声を率直に受け止めればいいものを、受け取らないのにはそれなりの理由があるものと考えられる。子どもたちの声は、不登校の要因として、「先生」「友達」「授業」を挙げている。「先生」「友達」「授業」とは、そもそも学校を構成している重要な要素であり、学校そのものではないか。それらが不登校を生み出している要因となっている。学校そのものが不登校を生み出している、と言って過言ではないだろう。
 子どもたちの声を率直に受け止めれば、これまでの不登校に対する認識が覆ってしまう。“不登校の要因は、主に子ども自身と家庭にある”という「問題行動等調査」に依拠した認識が。「問題行動等調査」は、文科省の不登校施策のデーターベースであり、この調査をもとに、不登校施策が考えられ、実施されてきた。そして、今、現在、「教育機会確保法」と新しい文科省通知をもとに“不登校の子どもは、学校以外の場で学べばよい”とする新たな不登校施策が繰り広げられている。
子どもたちの思いとかけ離れた調査結果をもとに講じられている不登校施策が、本当に子どもたちの為になるのだろうか。そして、不登校問題の真の解決につながっていくのだろうか。不登校施策の妥当性が問われることになる。


次回、第3章では、不登校施策の妥当性について考える。