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逍遥日記

経済・政治・哲学などに関する思索の跡や旅・グルメなどの随筆を書きます。

現在の危機時における支援の基本的な考え方

2020-05-12 11:47:51 | 経済
現在の危機時における支援の基本的な考え方
和洋女子大学・山下景秋

財政資金による支援
 新型コロナウイルスの感染症と経済危機による複合危機の現在、政府は企業・商店・個人などを支援しようとしているが、スピードが遅いし支援金額も少ない。できるだけ政府は速度を上げ、支援金額を可能な限り増やすことが必要である。
 しかし、財政的な制約もあり財政資金による100%の支援を期待することはできない。政府による支援と合わせて、民間の金融による支援資金を出動させなくてはならない。
金融による支援
 外出規制により飲食店や観光業などは収入が入らないので、家賃などを支払うことができず経営が苦しくなっている。一方、一般の人達は外出できないので、消費する機会が少なくなり、使用しないおカネが増えている(収入が減少した人を除く)。すなわち、現在は資金が必要なところと資金が余っているところの差が拡大することになっているはずである。
(ただし、以下のことが前提にされている。
 所得=消費+貯蓄より貯蓄=所得-消費、
所得=GDP(国内総生産)であるとし、貯蓄は全て金融機関に預けられる(預貯金になる可能性がある)ものとする。
  所得=100、消費=60の時は、貯蓄=40、
  所得=60、消費=10の時は、貯蓄=50
所得の減少よりも消費の減少の方が大きければ、貯蓄が増加する。現在のような危機の時には、人々は外出規制により消費できないことと、将来が不安であるため将来に備えてできるだけ消費を節約しようとしているので、消費が大きく落ち込んでいるのではないかと考えられる。
  厳密には、危機の中で国民のうち所得がそれほど減少しない層と、飲食業のように所得が大きく落ち込む層に分けて調べる必要がある)
 現在のような緊急時において必要なことは、一般の人達のこの余っている資金を金融機関を通じて飲食店など当座の支払い資金を必要とするところに早急に融通することである。民間の金融機関ならば、効率的にこの仕事をしてくれる。
既に人が殺到して混乱している役所の窓口だけでなく、全国の金融機関に数多ある窓口をも利用する方がよい。しかも、預金口座をもつ金融機関の口座に必要な資金を振り込んでもらうだけなら、窓口に行く必要すらない。
金融を財政が支援
 しかし、民間の金融による支援と言っても収益事業なので、貸出金は十分返済されないと不良債権が累積し、金融機関の経営が危なくなったり貸し渋りにより一般の企業・商店が将来資金を借り入れることが難しくなる。
 そこで、危機後の借り手の十分な自助努力を前提に、借り手が返済できない部分を政府が財政的に支援するというようにすればよい。
 危機後の借り手側の自助努力を促すことが必要であるということと、これにより限られた財政資金を有効に使うことができるからである。
結論
 現在の危機時の救済資金は、財政による補助金と、一部財政支援を伴う金融を通じる支援の2本立てで行うべきである。
返済が困難な救済に関しては、前者の方法で支援すべきである。現在、日本の与野党が実施を検討している家賃補償は、後者の方法であるようだ。
 

転売の問題(1)―マスク転売の現状―

2020-05-06 22:13:47 | 経済
転売の問題(1)―マスク転売の現状―
和洋女子大学・山下景秋

(「マスク転売の問題」という題を「転売の問題」という題に変更しました)

 この「転売の問題」のシリーズでは、この新型コロナ感染症拡大の危機時における転売の問題を中心に扱う。以下では、転売に関して日本人に一番関心のあるマスクを例にして述べる。

平常時
新型コロナウイルスが日本で感染拡大する前は、日本でマスクが不足したり、価格が異常に上がるという問題はなかった。
 月間のマスクの需要が1億枚から4億枚(年間12億枚から48億枚)であるのに対し、2019年のマスクの生産・輸入数は約55億枚だったからである。(このうち約44億枚[8割]が輸入であり、ほとんど中国からの輸入である。国内の生産数は約11億枚で国産化比率は2割ぐらい)
 マスク不足はなかったし、価格もドラッグストアや量販店で不識布マスク50枚、500円から600円(1枚当たり10円から12円)程度で売られていた。
新型コロナウイルス感染の拡大
 しかし、1月に中国で新型コロナウイルス感染が拡大し、2月ごろから日本で感染が拡がり始めると、事情が変わってきた。
 ドラッグストアや量販店の店頭でマスクが見られなくなり、ネット通販で2月中旬には1箱60枚4万円(1枚667円)を超える例もあったぐらいマスクの価格が高騰したのである。
 ドラッグストアでマスクが開店直後に陳列される場合は、開店前に行列ができ、朝並べる人だけが買えるという不公平感も人々の間に生まれたのである。
マスク不足と価格高騰の原因
 このようなマスク不足と価格高騰の原因として考えられることは、ます1つ目に、主として供給を依存している中国でマスクの需要が急拡大し、中国以外への輸出がその分急減速したことがあげられる。
 また原料への需要拡大による原料不足と価格上昇により、中国のマスクの生産は1月下旬の月当たり6億枚から3月には2億枚まで減少した。
転売の問題
 日本でのマスクの不足と価格高騰の2つ目の原因は、マスクの買いだめ・買い占め・転売である。
 店頭でマスクが売られるチャンスが減ると、客がマスクを店頭で見かけた時に多く買ってしまうことが増えた。また、転売屋がマスクを買い占め、そのマスクをより高い価格で他の人に売るという転売もひどくなった。
転売禁止
そこで、3月15日からマスクの買い占めや転売が禁止されることになった。
 小売店舗やECサイトなどから購入したマスクをより高い価格で、ネットや店舗などを通して転売することが禁止されたのである。
商店や路上でのマスク販売
 ところが、マスク製造業者や卸業者から直接に仕入れたマスクによる通常の販売は禁止されなかった。
その結果、マスクを販売する、飲食店や衣料品店などの商店が目立つようになってきた。また(立ち止まると無許可の路上販売になるので)路上でカートを引いてマスクを売る者も出現し始めたのである。
なぜ急に、街角でのマスク販売が増えたのか。
その最大の理由は、中国での新型コロナ感染拡大が沈静化してきたからだと考えられる。そのため中国での需要が急減したので、(一時は中国などからの輸入はほぼなくなっていたが、2月中旬ごろから入り始め)4月には中国からのマスクの輸入は平時の4割ほどに回復した。これに対応して、4月中旬から日本に対する中国側のマスクの売り込みが盛んになってきた。 
また、これ以外に、政府が、一住所あたり2枚ずつ布製マスクいわゆるアベノマスクを配布することを決めた(4月7日に閣議決定)ことや、日本でマスクの生産を開始したシャープが、一般消費者向けマスクを4月21日から発売し始めた(1箱50枚入り、税込み3,278円、別途送料660円)ことがあるだろう。
これらの理由の結果、マスクの不足感が和らぎ、価格上昇の程度が下がってくるのではないかと恐れた転売屋や(将来の価格上昇を期待して売り惜しんでいた)商社が手持ちのマスクを早く売り始めようと考えたのだろうと思われる。
高値販売
ところが、問題はマスク1枚の価格が70円から100円という高値で売られていることである。
その理由として、欧米でもマスクを需要するようになったこと、そしてそれにより原料価格が上がったことにより、感染拡大以前は4円から7円であったマスク1枚の仕入れ価格が、4月の初めごろには70円(税込み)前後まで上がったことがある。
それ以外にも、世界的に大きな需要があるため、マスクの製造業者や販売者が価格をつり上げている要因もあると考えられる。
転売範囲の拡大
問題はさらに、マスク以外の消毒剤や体温計、人気のゲーム機、ホットケーキミックスやバターや人気店の餃子(正規価格の3倍以上)などにも転売がひろがっていることがある。
マスクの国内生産
マスクに関しては、国内で生産する動きが高まってきているとはいえる。
マスク生産工場を中国から日本国内に移したり国内の生産設備を増強しようという動きがでてきている。これは、政府が設備投資に補助金を出すことを約束したり(アイリスでは30億円のうち20数億円が補助)、(製造業者が一番恐れるのは感染症終息による売れ残りだが)売れ残れば政府が備蓄用として買い上げることを約束したことがある。
この結果、ユニ・チャームや興和は1月中旬から増産し、異業種のシャープ、トヨタ、日清紡、ヘリオス、DMMもマスク生産に参入した。
マスクバブルの崩壊
 5月に入るころから、どうやら日本のマスク不足・価格高騰の問題は少しずつ解消され始めたようである。
 中国などにおける新型コロナ収束による需要急減、中国製粗悪品の返品による在庫増、売れ残り懸念の中国製マスクの日本への輸出増、日本国内の生産増などの要因により、
 日本の飲食店や衣料品店などドラッグストア以外で売られるマスクが急増したため、不足感がなくなり、マスクの価格が低下し始めたのである。
 このまま進むと、マスクバブルの崩壊という事態になるだろう。


新型コロナウイルスと経済対策(4)―賃金、家賃―

2020-04-29 22:47:52 | 経済
新型コロナウイルスと経済対策(4)―賃金、家賃―
                                                      和洋女子大学・山下景秋
 今まで「新型コロナウイルスと経済対策(1)~(3)」など、感染症・経済のこの複合危機に対する経済対策についてブログを書いてきた。この(4)では、企業や商店などの事業体の経営や労働者や家主の経済に関わる、賃金や家賃に対する補助金の支払いに関して書いてみた。

1.賃金と家賃に対する政府補助
(1)自民党案と野党案
 事業体の賃金や家賃の支払いに対する政府の補助・支援の方法としては、全額補助金、一部補助金、支払い延期支援などがある。
 現在(4月29日)の時点では、事業体の家賃の支払いに関して、自民党案が検討され、野党が共同で案を提出している。
 自民党案は、部屋の借主が金融機関から家賃を無利子で借りて家賃を支払い、この借り入れ金を金融機関に返済する時、その返済金の全額か一部を政府が補助するというものである。
 それに対して野党案は、政府系の銀行が部屋の借主の代わりに家主に対して家賃を支払い(銀行が家賃の代金を立て替える)、借主は後にその代金をその銀行に支払う(借主が銀行から借りた資金を銀行に返済する、とみなすことができる)。これは、実質的に、借主にとっては家賃を延納することに等しい。ただし、家主が家賃の金額を減額すれば、その減額の8割ぐらいを政府が補助するというものである。

(2)山下案
 私の案(山下案)は、政府による補助金によって事業体と労働者・家主を支援する仕組みに関する1つの案である。
目標
 本稿は、主として事業体の経営や雇用ができるだけ維持されること、また事業体の経営維持や家賃補助により家主もできるだけ救済されることを目標とする。
原理ならびに方法
1. 事業体の規模が小さいほど、労働者の賃金が低いほど、家主の家賃が少ないほど補助の程度を高くする。
2. 事業体の収入低下幅が大きいほど補助の程度を高くする。
3. 事業体が雇用を維持すればするほど補助の程度を高くする。

2.賃金の補助
(1)賃金の補助率
 労働者の賃金は1人1人異なるが、ここでいう「賃金」とは全労働者の(月当たり)平均賃金のことである。
 賃金の補助率=(賃金に関する)補助金/(危機前の)賃金、危機前の賃金(wage)をwと表わし、補助(subsidy)率をsと表わすことにする。ただし、0≦s≦1
①賃金水準と補助率
 賃金水準が低いほど労働者の生活が苦しい。低賃金労働者の生活維持のために危機前の賃金水準が低いほど賃金に対する補助率を高くするものとする。
 ここでは1つの具体例として、危機前の月当たり賃金がたとえば30万円以下は補助率=1、賃金が30万円を超える範囲では、賃金が多くなればなるほど補助率が低下するものとする。
賃金が30万円よりも多い範囲における補助率
 この範囲における補助率は、危機前の賃金がたとえば50万円では補助率=0.6とする。この範囲における補助率は、(w30万円、s1)と(w50万円、s0.6)を結ぶ直線上の点の高さで示されるものとする。
 この直線の式は、s=-(1/50 )w+1.6
 この式を使うと、w=50万円のときはs=0.6であることが確かめられる。もしw=80万円ならs=0となる。すなわち賃金が80万円以上では、賃金に関する補助は与えられないことになる。
(s=0となるw の金額を決めた方がsの直線の式を決めやすい)
②雇用維持と補助率
 Nを危機前の雇用数、nを危機時の雇用数とする。危機時においても、危機が到来する前の雇用が維持されることが好ましい。すなわち、雇用維持率(n/N)が高いことが好ましい。最も好ましいのはn/N=1(危機時であっても、危機到来前の雇用が完全に維持される)である。逆に、n/N=0(危機時に全員解雇)は最も好ましくない。なお、0≦n/N≦1
 この雇用維持率(n/N)も賃金に関する補助額を決めるものとして考慮することにする。
③賃金の補助率
 賃金の補助率は、①と②の双方を合わせて考えると、
賃金が30万円以下の範囲
 賃金が30万円以下の範囲では、賃金に関する補助率=1×(n/N)となる。
(企業Aのケース)
 企業Aが危機前の労働者数10人(N)のうち危機時において8人(n)の雇用を維持しようとしている場合。ただし危機前の賃金20万円(w)とする。
 →危機前の賃金20万円は30万円までの範囲内にあり、n/N=8/10であるから、補助率s=1×(8/10)=0.8
賃金が30万円よりも多い範囲
 賃金が30万円よりも多い範囲では、賃金に関する補助率=s×(n/N)={-(1/50 )w+1.6}×(n/N)となる。
(企業Bのケース)
 企業Bが危機前の労働者数50人(N)のうち危機時において30人(n)の雇用を維持しようとしている場合。ただし危機前の賃金40万円(w)とする。
→危機前の賃金40万円は30万円を超える範囲にあり、n/N=30/50であるから、補助率s={-(1/50 )×40+1.6}×(30/50)=0.8×0.6=0.48





(2)賃金支払い可能額
 危機時における事業体の月当たり収入は、賃金と家賃の双方に政策的に2:1の割合で振り分けるものとする。賃金、家賃以外の仕入れなどの費用はゼロとする。
(企業Aのケース)
 危機時における企業Aの月当たり収入30万円とし、そのうち賃金支払いに20万円、家賃支払いに10万円を充てるものとする。(賃金支払い可能額=20万円)
(企業Bのケース)
 危機時における企業Bの月当たり収入150万円とし、そのうち賃金支払いに100万円、家賃支払いに50万円を充てるものとする。(賃金支払い可能額=100万円)

(3)賃金補助額と賃金受取額
 雇用労働者1人当たりに関して、賃金補助額=(危機前の賃金-[1人当たりの]賃金支払い可能額)×雇用維持率、とする。
 雇用労働者1人当たりに関して、労働者の賃金受取額=賃金補助額+[1人当たりの]賃金支払い可能額、とする。
(企業Aのケース)
 8人の雇用維持に対して支払い可能な金額が20万円なので、1人当たりの賃金支払い可能額=20万円/8人=2.5万円。
 危機前の賃金=20万円、雇用維持率=8/10なので、
(1人当たり)賃金補助額=(20万円-2.5万円)×(8/10)=14万円、
 したがって、(1人当たり)賃金受取額=14万円+2.5万円=16.5万円
(企業Bのケース)
 1人当たりの賃金支払い可能額=100万円/30人=3.3万円。
 危機前の賃金=40万円、雇用維持率=30/50(=0.6)なので、
 (1人当たり)賃金補助額=(40万円-3.3万円)×(30/50)=22万円、
 したがって、(1人当たり)賃金受取額=22万円+3.3万円=25.3万円

3.家賃の補助
(1)家賃の補助率
 危機前の家賃水準が低いほど、家主への家賃に対する補助率を高くするものとする。
(月当たりの)家賃の補助率=(家賃に関する)補助金/(危機前の)家賃、危機前の家賃(rent)をrと表わし、補助(subsidy)率をsと表わすことにする。
 月当たり家賃がたとえば30万円以下は補助率1、家賃が30万円を超える範囲では、家賃が多くなればなるほど補助率が低下するものとする。
家賃が30万円よりも多い範囲における補助率
 この範囲における補助率は、危機前の賃金がたとえば50万円では補助率=0.8とする。
 この場合は、(r30万円、s1)と(r50万円、s0.8)を結ぶ直線上の点の高さで示されるものとする。
 この直線の式は、s=-(1/100)r+1.3
 この式を使うと、r=50万円のときはs=0.8であることが確かめられる。もしr=100万円ならs=0.3となる。
 なお、補助率s=0となる家賃r=130万円となる。130万円以上の家賃では家賃の補助金は与えられないということになる。
 (s=0となるr の金額を決めた方がsの直線の式を決めやすい)


(2)家賃支払い可能額
 企業Aでは危機時の収入30万円のうち家賃支払い可能額=10万円であり、企業Bでは危機時の収入150万円のうち家賃支払い可能額=50万円である。

(3)家賃補助額と家賃受取額
(企業Aのケース)
 危機前の家賃=20万円とする。家賃20万円では家賃補助率=1、
 家賃補助額=(危機前の家賃-家賃支払い可能額)×家賃補助率=(20万円-10万円)×1=10万円、
 したがって、家主の家賃受取額=家賃補助額+家賃支払い可能額=10万円+10万円=20万円
(企業Bのケース)
 危機前の家賃=100万円とする。家賃100万円では家賃補助率s=-(1/100)r+1.3=-(1/100)×100万円+1.3=0.3
 家賃補助額=(危機前の家賃-家賃支払い可能額)×家賃補助率=(100万円-50万円)×0.3=15万円、
 したがって、家主の家賃受取額=家賃補助額+家賃支払い可能額=15万円+50万円=65万円

4.結論
  本稿に意義があるとすれば、その主な意義は、危機時の現収入を賃金支払い可能額と家賃支払い可能額に分けることによって、雇用確保と賃金補償を家賃補償と一体化して考え、これによって政府による労働者や家主に対する支援だけでなく事業体の経営支援を一体化して考えることができる点にある。
 危機前の賃金水準や家賃水準が低ければ補助率が高くなるということは、事業体の経営規模が小さければ大きい補助をし、また労働者や家主の補助が大きくなることを意味する。
(原理ならびに方法1の条件を満たす)
 支払い可能額が小さくなれば、その分補助額が増えるということは、事業体の経営が悪化すればそれだけ補助が大きくなることを意味する。(原理ならびに方法2の条件を満たす)
  賃金(家賃)支払い可能額や「危機前の賃金(家賃)-賃金(家賃)支払い可能額」に補助率を適用する考え方もありうるが、危機前の賃金(家賃)の水準で補助率を決める本稿の方法は、事業体の経営規模を考慮し、なおかつ経営悪化の程度も考慮できるという意味がある。
 n/Nが大きい方が補助率が大きくなるということは、事業体の雇用維持の努力を評価し、その努力を促すことを意味する。(原理ならびに方法3の条件を満たす)
 なお、この山下案では、政府が家賃補助をするのは、事業体が雇用維持の努力をすることを前提条件とする。
 また、他の用途に使われないようにするために、政府の補助金は経営者に渡すのではなく、賃金補助金は労働者に、家賃補助金は家主に渡すのがよいと考える。
 本稿では、分かり易くするために、それぞれの箇所で具体的な数値例を用いたが、これらの数値が変わるともちろん計算結果の数値も変わる。





















消費増に対する政府の現金給付の効果の比較―10万円給付と30万円給付―

2020-04-20 01:59:58 | 経済
消費増に対する政府の現金給付の効果の比較―10万円給付と30万円給付―
                                                            和洋女子大学・山下景秋

 日本政府は当初、新型コロナウイルスと経済危機の複合危機により貧困化した世帯に30万円の現金を給付する案を検討していた。私のブログでも、貧困化した世帯への経済的支援の必要性を訴えてきた。しかし、多数の国民が反対したため、政府は国民全員に10万円の現金を給付することに決めたようである。低所得者の救済に関しては、貧困化世帯に30万円を給付する方が効果が大きいので、私としては残念な結果になったと思っている。
 この10万円案を唱えた人の中には、税金を正確に納めていない人たちがいて、彼らが30万円案なら支援の対象にならないことを恐れた人もいただろう。10万円案を支持する主な意見には、早く実行できる(筈)であることや消費を促すという理由もあったと思われる。
 そこで本稿では、10万円給付と30万円給付のそれぞれが消費増に与える影響と、両者の比較を試みたい。
 以下の1では、30万円が給付される対象が低所得者層の全員それぞれである方法(方法A)を検討する。 次に2では、低所得者層の全ての各家庭に30万円が給付される方法(方法B)を検討する。また3では、そのうち給付条件に該当する家庭のみに給付される方法(方法C)を検討する。
 以下では、日本国民のうち高所得者層に属する人がX人、中所得者層に属する人がY人、低所得者層に属する人がZ人いるとする。
1.低所得者層の全ての各人に30万円が給付される場合(方法A)
(1)10万円給付と30万円給付
 政府が国民の全ての各人に10万円を給付する場合と、低所得者層の全ての各人に30万円を給付する場合とでは、消費増効果はどちらが大きいだろうか。それを以下で検討してみよう。
①財政支出
(全ての各人に10万円配布のケース)
 10万円×(X+Y+Z)人=10(X+Y+Z)
(低所得者層の各人に30万円配布のケース)
30万円×Z人=30Z

②消費増効果
 現金給付が消費を増やす効果に関しては、限界消費性向を用いて表わす。
 限界消費性向=消費増/所得増とは,所得が1単位増加したとき,それによって消費がどれだけ増えるかを表わす。たとえば、限界消費性向=0.6ならば、1兆円所得が増えた時消費が0.6兆円増えることを示す。もし所得が2兆円増えたら消費は1.2兆円(=0.6兆円+0.6兆円=0.6兆円×2=2兆円×0.6)増える。50兆円所得が増えたら消費は50兆円×0.6=30兆円増える。
(以下、収入=所得とする)
年収の金額により5つの所得階層に分けた時、最も年収の高い層は限界消費性向が約25%=2.5/10、年収が中間の層は約30%=3/10、最も年収の低い層は約40%=4/10だと言われている。(『平成22年(2010年)度 年次経済財政報告』内閣府、p202参照)
 これらの数値をそれぞれ、高所得者層、中所得者層、低所得者層に適用するものとする。
(全ての各人に10万円配布のケース)
全員に10万円ずつ配布すると、消費増加の効果は、高所得者層全体は10万円×(2.5/10)×X人、中所得者層全体は10万円×(3/10)×Y人、低所得者層全体は10万円×(4/10)×Z人となる。
したがって、消費増の合計金額=10万円×(2.5/10)×X人+10万円×(3/10)×Y人+10万円×(4/10)×Z人=2.5X+3Y+4Z
(低所得者層の各人に30万円配布のケース)
低所得者層全体に30万円ずつ配布すると、消費増加の効果は、30万円×(4/10)×Z人=12Z

(2)比較
以下で、10万円を給付する場合を(10万円)と表わし、低所得者層の各人に30万円が給付される方法(方法A)を(A・30万円)と表わすことにする。
①財政支出の比較
(1)の①を前提に、(10万円)と(A・30万円)のそれぞれの財政支出を比べてみよう。
(10万円)の財政支出=10(X+Y+Z)=10(X+Y)-20Z+30Z、一方、(A・30万円)の財政支出=30Z
したがって、10(X+Y)-20Z>0、すなわちZ<(1/2)(X+Y)なら、(10万円)の財政支出の方が(A・30万円)の財政支出よりも大きい。
逆に、10(X+Y)-20Z<0、すなわちZ>(1/2)(X+Y)なら、(A・30万円)の財政支出の方が大きい。
 以上を言葉で言えば、
低所得者層の人数が、高所得者数と中所得者数の合計の半分(つまり両者の平均)よりも少なければ、(10万円)の方が(A・30万円)の場合よりも財政支出が大きい。
しかし、低所得者層の人数が、高所得者数と中所得者数の合計の半分よりも多ければ、(A・30万円)の方が(10万円)の場合よりも財政支出が大きい。

②消費増効果の比較
(1)の②を前提に、(10万円)と(A・30万円)のそれぞれの消費増を比べてみよう。
(10万円)の消費増=2.5X+3Y+4Z=2.5X+3Y-8Z+12Z、一方、(A・30万円)の消費増=12Z
したがって、2.5X+3Y-8Z>0、すなわちZ<(1/8)(2.5X+3Y)なら、(10万円)の消費増の方が(A・30万円)の消費増よりも大きい。
逆に、2.5X+3Y-8Z<0、すなわちZ>(1/8)(2.5X+3Y)なら、(A・30万円)の消費増の方が(10万円)の消費増よりも大きい。
 以上を言葉で言えば、
低所得者層の人数が、高所得者数の2.5倍の人数と中所得者数の3倍の人数の合計の1/8よりも少なければ、(10万円)の消費増の方が(A・30万円)の消費増よりも大きい。
しかし、低所得者層の人数が、高所得者数の2.5倍の人数と中所得者数の3倍の人数の合計の1/8よりも多ければ、(A・30万円)の消費増の方が(10万円)の消費増よりも大きい。

③、消費増に対する財政支出の効果の比較(イ)
  (10万円)の方が(A・30万円)の場合に比べて、「財政支出がより少なく、なおかつ消費増効果がより大きい」(財政支出がより少ないのに消費増効果がより大きい)ことがありうるか?
  これが成り立つためには、
  10(X+Y+Z)<30Z、かつ(2.5X+3Y+4Z)>12Z
  すなわち、10X+10Y-20Z<0、かつ2.5X+3Y-8Z>0が成り立たなくてはならない。
これは、書き換えると、
  Z>(1/2)X+(1/2)Y、かつZ<(2.5/8)X+(3/8)Y      …★
が成り立たなくてはならないことになる。
 2つの不等式の2つの右辺の大小を比べるために、
{(1/2)X+(1/2)Y}-{(2.5/8)X+(3/8)Y}=(1.5X+Y)/8>0(分子はプラスだから)      
すなわち、
  {(1/2)X+(1/2)Y}>{(2.5/8)X+(3/8)Y}         …★★
となると、★★式の条件で★式を満たすZは存在しないことになる。
 すなわち、(10万円)の方が(30万円)の場合に比べて、「財政支出がより少なく、なおかつ消費増効果がより大きい」ことはない。

  一方、次の逆の場合はありうるか。
  (A・30万円)の方が(10万円)の場合に比べて、「財政支出が少なく、なおかつ消費増効果が大きい」ことがありうるか?
 上の連立不等式の不等号の向きが逆の場合を考えれば良い。
  Z<(1/2)X+(1/2)Y、かつZ>(2.5/8)X+(3/8)Y      …★★★
★★式の条件で★★★式を満たすZが存在する。
 すなわち、3つの所得階層の人数の間に、★★★より
   (2.5/8)X+(3/8)Y<Z<(1/2)X+(1/2)Y           …●
という関係あるならば、(A・30万円)の方が(10万円)の場合に比べて、「財政支出がより少ないのに消費増効果より大きい」と言える。 

④、消費増に対する財政支出の効果の比較(ロ)
  消費増/財政支出を検討する。この比率は、財政支出1単位当たりの(財政支出1単位による)消費増を表わしている。この比率が高ければ、消費増に対する財政支出の効果が大きいことを意味する。
(10万円)の場合…(2.5X+3Y+4Z)/{10(X+Y+Z)}

(A・30万円)の場合…(12Z)/(30Z)=0.4

両者の比較
  (2.5X+3Y+4Z)/{10(X+Y+Z)}-0.4=(-1.5X-Y) /{10(X+Y+Z)}<0(分子<0、分母>0だから)
したがって、(2.5X+3Y+4Z)/{10(X+Y+Z)}<0.4
 これは、(A・30万円)の場合の方が(10万円)の場合よりも、消費増/財政支出が大きいこと、すなわち消費増に対する財政支出の効果が大きいことを意味する。 
 
2.低所得者層の全ての各家庭に30万円が配布される方法(方法B)
 低所得者層の各家庭は平均4人家族であるとすると、低所得者層の家庭数(30万円の給付対象家庭数)=Z/4
 (財政支出の比較)
 【(10万円)の財政支出】 10(X+Y+Z)=10(X+Y)+2.5Z+7.5Z>7.5Z(=30万円×(Z/4))【(B・30万円)の財政支出】
  左辺が10(X+Y)+2.5Z(>0)だけ大きい。
  よって、(10万円)の方が(B・30万円)よりも財政支出が10(X+Y)+2.5Zだけ大きい。
 (消費増の比較)
 【(10万円)の消費増。1の(1)の②より】2.5X+3Y+4Z= 2.5X+3Y+Z+3Z >3Z(=30×(Z/4)×(4/10)。4/10は低所得者層の限界消費性向)【(B・30万円)の消費増】
  左辺が(2.5X+3Y+Z) (>0)だけ大きい。
  よって、(10万円)の方が(B・30万円)よりも消費増が(2.5X+3Y+Z)だけ大きい。
 (消費増に対する財政支出の効果の比較)
  (10万円)の(消費増/財政支出)-(B・30万円)の(消費増/財政支出)
  ={(2.5X+3Y+4Z)/10(X+Y+Z)}-{3Z/(7.5Z)}=(7.5X+9Y+12Z)/50(X+Y+Z)>0(分母も分子もプラスだから)
  よって、(10万円)の方が(B・30万円)よりも、消費増に対する財政支出の効果が大きい。

3.給付条件に該当する家庭のみに30万円が給付される方法(方法C)
 低所得者層の家庭の1/3が給付条件に該当しているとする。したがって、30万円の給付対象家庭数=(Z/4)×(1/3)=Z/12
 (財政支出の比較)
 【(10万円)の財政支出】10(X+Y+Z)=10(X+Y)+7.5Z+2.5Z>2.5Z(=30×(Z/12))【(C・30万円)の財政支出】
  左辺が10(X+Y)+7.5Z(>0)だけ大きい。
  よって、(10万円)の方が(C・30万円)よりも財政支出が10(X+Y)+7.5Zだけ大きい。
 (消費増の比較)
 【(10万円)の消費増。1の(1)の②より】2.5X+3Y+4Z=2.5X+3Y+3Z+Z >Z(=30×(Z/12)×(4/10))【(C・30万円)の消費増】
  左辺が(2.5X+3Y+3Z) (>0)だけ大きい。
  よって、(10万円)の方が(C・30万円)よりも消費増が(2.5X+3Y+3Z) だけ大きい。
 (消費増に対する財政支出の効果の比較)
  (10万円)の(消費増/財政支出)-(C・30万円)の(消費増/財政支出)
  ={(2.5X+3Y+4Z)/10(X+Y+Z)}-{Z/(2.5Z)}=(-7.5X-5Y)/50(X+Y+Z)<0(分母がプラス、分子がマイナスだから)
  したがって、(2.5X+3Y+4Z)/10(X+Y+Z)<Z/(2.5Z)
  よって、(C・30万円)の方が(10万円)よりも、消費増に対する財政支出の効果が大きい。

4.結論
(1)整理
(A)低所得者層の各人に30万円が給付される場合
 (財政支出の比較)
  低所得者層の人数が、高所得者数と中所得者数の合計の半分(つまり両者の平均)よりも少なければ、(10万円)の方が(A・30万円)の場合よりも財政支出が大きい。
  しかし、逆ならば、(A・30万円)の方が(10万円)の場合よりも財政支出が大きい。
 (消費増の比較)
  低所得者層の人数が、高所得者数の2.5倍の人数と中所得者数の3倍の人数の合計の1/8よりも少なければ、(10万円)の方が(A・30万円)よりも消費増が大きい。
 しかし、逆ならば、(A・30万円)の方が(10万円)よりも消費増が大きい。
 (消費増に対する財政支出の効果の比較)
  (A・30万円)の方が(10万円)よりも、消費増に対する財政支出の効果が大きい。 

(B)低所得者層の各家庭に30万円が給付される場合
 (財政支出の比較)
  (10万円)の方が(B・30万円)よりも財政支出が10(X+Y)+2.5Zだけ大きい。
 (消費増の比較)
  (10万円)の方が(B・30万円)よりも消費増が(2.5X+3Y+Z)だけ大きい。
 (消費増に対する財政支出の効果の比較)
  (10万円)の方が(B・30万円)よりも、消費増に対する財政支出の効果が大きい。

(C)給付条件に該当する家庭のみに30万円が配布される場合
 (財政支出の比較)
  (10万円)の方が(C・30万円)よりも財政支出が10(X+Y)+7.5Zだけ大きい。
 (消費増の比較)
  (10万円)の方が(C・30万円)よりも消費増が(2.5X+3Y+3Z) だけ大きい。
 (消費増に対する財政支出の効果の比較)
  (C・30万円)の方が(10万円)よりも、消費増に対する財政支出の効果が大きい。

(2)結論
①.各政策による消費増の金額は、(10万円)は2.5X+3Y+4Z、(A・30万円)は12Z、(B・30万円)は3Z、(C・30万円)はZである。

②.Z<(1/8)(2.5X+3Y)なら、(10万円)2.5X+3Y+4Z>(A・30万円)12Zである。この場合、(A・30万円)、(B・30万円)、(C・30万円)のうち、(10万円)の2.5X+3Y+4Zと比べて消費増の金額が最も少ないのは(C・30万円)のZであるので、消費増の効果の観点からは、(C・30万円)は採用が最も難しい選択肢となり、(10万円)が最も好ましい選択肢となる。

③.Z>(1/8)(2.5X+3Y)なら、(10万円)2.5X+3Y+4Z<(A・30万円)12Zである。この場合、(A・30万円)、(B・30万円)、(C・30万円)、(10万円)のうち、消費増の金額が最も多いのは(A・30万円)の12Zであるので、消費増の効果の観点からは、(C・30万円)は採用が最も難しい選択肢となり、(A・30万円)が最も好ましい選択肢となる。

④. ②、③における選択肢の決定には、Zと(1/8)(2.5X+3Y)の大小関係、すなわち、低所得者層の人数が、高所得者数の2.5倍の人数と中所得者数の3倍の人数の合計の1/8よりも多いか少ないかによる。

⑤.消費増に対する財政支出の効果に関しては、(A・30万円) や(C・30万円)は(10万円)と比べると効果が大きい。しかし、(B・30万円)は(10万円)と比べると効果が小さい。

(3)注意事項
①.本稿では、限界消費性向の数値を2010年度の数値から採用したが、最近は少し変化している可能性がある。さらに複合危機の現在もう少し大きく変化している可能性がある。

②.本稿では、(C・30万円)の給付条件を低所得者層の家庭の1/3としたが、この条件が異なると、上記の(C・30万円)に関する数値が異なってくる。

③.日本の(10万円)政策では、10万円の給付を希望する者のみに給付する自主申告制を採用する予定である。そうなると、特に高所得者層の中に給付を希望しない人がでてくる可能性があり、その場合上記の(10万円)に関する数値が異なってくる。

④.以上、本稿は、各政策の選択肢の消費増の効果を述べてきたが、もちろん貧困家庭(や貧困化した家庭)にとって最も好ましい政策は(A・30万円)で、次に(B・30万円)、さらに次に(C・30万円)、最後に(10万円)となる。
 新型コロナウイルスの問題が深刻になっている現在、最も考慮すべき政策は、このような貧困家庭(や貧困化した家庭)に対する経済的支援であることを再度強調しておきたい。











新型コロナウイルスの複合危機における貨幣使用の中止 ―緊急時における究極の経済対策―

2020-04-15 18:10:13 | 経済
新型コロナウイルスの複合危機における貨幣使用の中止 ―緊急時における究極の経済対策―
和洋女子大学・山下景秋

現在世界は、新型コロナウイルスという感染症と経済危機の双方による複合危機に直面している。この未曽有の危機に対する究極的な対策というのはあるのだろうか。
1.究極の経済対策
提案
新型コロナウイルスが蔓延する現在、人々は外出せず家にこもることが感染症の最大の対策となる。そうなると仕事ができない。だから収入が入らない。その結果、生活が苦しくなるということで多くの人が悩んでいる。
しかし、一部の人達を除いて大部分の人達は仕事をする必要はないし、しなくてもよい。人々が、このような緊急時には、医療サービスを受けることができ食と住さえ確保して、生き延びることができればそれでいいと考えることができるならば、ほとんどの仕事は不要だからである。政府が、医療サービスと食を人々に提供すればよいだけである。
 私がここで提案しようとすることは、危機が最悪のレベルに到達した場合、その危機の期間だけ、人々が最低限の生活に耐えるという条件で、貨幣の使用を禁じるというものである。
仕事中止の要求・命令
世界経済が大混乱に陥っている現在、世界各国の政府の対策は結局、人々が仕事を止めることを強いる政策であるといえる。
その経過を簡単にまとめると次のようになる。
政府は、仕事の中止を要求する(あるいは命ずる)。
仕事をしないということは、経営者なら労働サービスを買う(つまり労働者を雇う)ことを止め、材料や部品などのモノを仕入れることを止めるということである。生産・営業活動を止めるということだから、収入が入ってこない。したがって、労働者に賃金を支払うことや仕入れのための費用を支払うことができないし、家賃を支払うこともできない。その結果、企業や商店の経営が苦しくなってくる。なかには倒産する企業・商店も現れる。
労働者は賃金を減らされたり、雇用されなくなって失業する可能性もでてくる。
以上の結果、株が売られ、株価が大きく下がる。
こうなると、経営者も労働者も経済的に苦しくなる。モノやサービスの流れを止めるが、カネの流れは止まらないからである。こうして経済状態が悪化した企業や個人に対して、政府が救済資金を供給することが必要になってくる。しかし、国民の多くがその対象者になると、巨額の財政支出が求められるので、政府はその支給をためらう。
その結果、企業や個人は仕事を止められず、外出せざるをえないので、感染症の拡大を阻止することができない。
貨幣の使用停止の命令  
政府がまず仕事の中止を国民に要求する(あるいは命ずる)のではなく、発想を変えて、政府がまず最初に貨幣の流れを止めることを国民に要求してみたらどうなるだろうか。ただし、貨幣の流れを止めるのは、危機の期間だけである。
貨幣の流れを止めるということは、誰も貨幣を支払わないし、貨幣を受け取ることもしないということである。
その手順は以下の通りである。
、政府は国民に対して、診療・治療を無料で受けることができること、また農産物が無料で自宅に送られてくることを保証する。
これ以外に、最低限のサービスとして、政府は国民に対して、介護・育児サービス、電気・ガス・水道サービス、配送サービス、情報提供・管理サービスを無料で提供する。
これらの仕事に従事する人達の労働の対価としての報酬は、危機期間後に政府が彼らに支払う。
、①を前提に、政府は国民に対して貨幣の支払いと受け取りを禁じることを告げる。
、各個人は貨幣を獲得することはなくなるし、貨幣を支払うこともないから貨幣を獲得する必要もなくなる。
、貨幣を支払い・受け取る必要がないということは、仕事をする必要がないということなので、人々は仕事を止める。
、④により、経営者は雇用や仕入れの必要がなくなる。ただし、貨幣を支払わないから雇用を減らす必要はない(解雇の必要はない)。(危機期間終了後、経済が復活する時、雇用し続けていた労働者を再び使い、仕入れを再開することによって操業・営業を再開する)
、④により労働者は労働サービスを提供する必要がなくなるので、危機期間中、自宅にいるしかない。
、経営者や個人の家賃の支払いは、危機期間終了後、家主に支払う。(危機期間後に、政府がこの家賃を全額あるいは一部補助してもよい)
結局
最低限、医療が受けられ食と住が確保される、そしてその他の最低限のサービスも受けられるから、危機により国民が生活を維持できないという問題は解消される。

2.その他
ローンの返済
貨幣の支払いはできないから、危機期間中のローンの返済はない。返済の支払いは中断され、危機期間後に延期される。
株価
貨幣の支払い・受け取りができないので、株を売買することができない。その結果、株価が変動することはなくなり、株価が下がるという問題は解消される。

3.財政負担
財政支出
政府の財政支出は大きく減少する可能性がある。
 政府は、企業や労働者に救済資金の給付をする必要がない。企業や商店は操業・営業しないから経営が悪化するということはないし、したがって労働者は企業や商店で労働をしなくても解雇される心配はないからである。
 政府は、医療従事者と農業生産者、配送者、情報管理者などに対して、彼らが期間中に提供したモノやサービスに対する対価の金額を期間終了後に支払えばよいだけである。政府が経営の悪化する企業や、収入が低下する労働者、失業者に資金の支援をする金額よりも、この対価の金額の方が少なくてすむだろう。しかも、この期間中はその対価を支払う必要はなく、期間終了後に支払えばよいのである。
政府のこの負担は、期間終了後、経済が回復した時点の税収で賄うという選択肢もある。
復活税
危機期間後、国民が収入を得るようになってから、政府は国民から復活税という税金(期間中の医療と農産物供給などに対応する税額のみ)を徴収するという選択肢がある。勿論、この税金は必ずしも徴収する必要はなく、政府が負担するという選択肢もある。

4.結論
貨幣
そもそも貨幣というのは、多種多様なモノやサービスを獲得するのに便利な存在である。
しかし、危機の期間は、多種多様なモノやサービスを獲得することはできない。
 政府による医療サービスの提供と農産物の供給が中心の経済というのは、医療従事者と農業生産者から一方的にサービスとモノが移動することである。経営者・労働者・消費者などの各経済主体の間でモノやサービスの移動(交換)はないから、このような究極のシンプルな経済では(モノやサービスの移動の対価としての)貨幣は不要になる。
 生き延びるために貨幣が必要なのではなく、むしろ逆に、生き延びるために貨幣を捨てなくてはならない(もちろん、実際に捨てることではない)。だから政府が行うべきことは、人々に貨幣を給付することではなく、貨幣の存在をなくすことなのである。
貨幣が必要であるという思い込みもまた捨てなくてはならない。
(ただし、この期間中にも経済主体間のサービスの移動がある。その主たるものは、居住サービスの提供である。居住サービス提供の対価としての家賃の支払いは必要である[前述のように、危機終了後、支払う])
複合危機の克服
医療、食・住が確保される条件下で、貨幣の使用中止により仕事を中止するため、外出の必要がなくなるので感染症対策になる。
 また、貨幣の使用中止により、賃金や仕入れ費用の支払いが不要になりローンの返済がないので倒産が避けられる。企業は賃金を支払う必要がないため労働者を解雇しないので失業もない。倒産や失業がないので政府の救済金の給付による財政支出が不要になる。
 こうして、最悪期において国民が最低限の窮乏を覚悟するなら、貨幣の使用中止により、感染症と経済危機の双方による複合危機を克服できるのではないだろうか。



[(注)早稲田大学講師の土屋彰久氏と私がほぼ同時期に、双方全く独立に類似した内容を考えていたようである。土屋氏の文章「今こそ「社会的冬眠」を…」
https://withnews.jp/article/f0200408000qq000000000000000G00110301qq000020859A参照。
これに対応する私の文章「新型コロナウイルスと究極的な経済対策―貨幣の廃止―」は、私のこのブログ「逍遥日記 山下景秋」(2020年4月12日)に掲載している(「貨幣の廃止」ではなく、「貨幣の使用中止」が正確な表現でした)。
 「冬眠」というのは内容を適切に表現する言い方である。私が同様の内容を「貨幣の使用中止」から考え始めたこと、貨幣を中心に考えたところが、土屋氏と異なるところである。
 なお、カンボジアのポルポト政権時代に、貨幣を禁止したことがある。貨幣の保有者は労働せずとも貸し出すことにより富を蓄積するので、不当な格差が生まれるとポルポトが考えたからだろう。彼の思想は、極端であまりにも偏ったものだったので、非常に多くの者が彼の政権によって殺されることになった。私自身、プノンペンで元学校だったトゥール・スレン虐殺犯罪博物館を見学したことがあるが、寒気を感じたことがある。私が本稿で主張する貨幣の中止の目的と意味は、もちろんポルポトの貨幣廃止の目的と意味とは全く異なるものである。
 私は、今回のような大変な危機の時にはこの危機を克服するために、貨幣の使用を中断するという選択肢も検討する必要があるのではないかと主張するものである]



 以上、私のこのブログ「逍遥日記 山下景秋」において、「新型コロナウイルスと経済対策」(1)から(3)によって、初期・中期の今回の複合危機における経済対策を述べてきました。 
そしてこのブログによって、危機の最終段階での極端な経済対策を述べました。
この対策は極限での期間を定めた対策なのですが、期間が長くなれば、人々が窮乏生活に耐えられるかどうか(しかし、感染症の被害が深刻ならば耐えなくてはならない)、また財政支出もその分増える(それでも倒産・失業が増えることに任せる場合より少ない可能性がある)ことには注意しなくてはなりません。
内容に思い違いや誤りの部分があるかもしれません。もしあれば、ご指摘いただければ幸いです。
 次に、「新型コロナウイルスとマスク問題」についての文章をこのブログに近く掲載する予定です。マスクだけでなく、消毒剤、トイレットペーパー、食品などが、買い急ぎ、買い占め、転売、売り惜しみによって、棚から消え、かつそれらの価格が高騰している問題について述べます。