新型コロナウイルスと経済対策(4)―賃金、家賃―
和洋女子大学・山下景秋
今まで「新型コロナウイルスと経済対策(1)~(3)」など、感染症・経済のこの複合危機に対する経済対策についてブログを書いてきた。この(4)では、企業や商店などの事業体の経営や労働者や家主の経済に関わる、賃金や家賃に対する補助金の支払いに関して書いてみた。
1.賃金と家賃に対する政府補助
(1)自民党案と野党案
事業体の賃金や家賃の支払いに対する政府の補助・支援の方法としては、全額補助金、一部補助金、支払い延期支援などがある。
現在(4月29日)の時点では、事業体の家賃の支払いに関して、自民党案が検討され、野党が共同で案を提出している。
自民党案は、部屋の借主が金融機関から家賃を無利子で借りて家賃を支払い、この借り入れ金を金融機関に返済する時、その返済金の全額か一部を政府が補助するというものである。
それに対して野党案は、政府系の銀行が部屋の借主の代わりに家主に対して家賃を支払い(銀行が家賃の代金を立て替える)、借主は後にその代金をその銀行に支払う(借主が銀行から借りた資金を銀行に返済する、とみなすことができる)。これは、実質的に、借主にとっては家賃を延納することに等しい。ただし、家主が家賃の金額を減額すれば、その減額の8割ぐらいを政府が補助するというものである。
(2)山下案
私の案(山下案)は、政府による補助金によって事業体と労働者・家主を支援する仕組みに関する1つの案である。
目標
本稿は、主として事業体の経営や雇用ができるだけ維持されること、また事業体の経営維持や家賃補助により家主もできるだけ救済されることを目標とする。
原理ならびに方法
1. 事業体の規模が小さいほど、労働者の賃金が低いほど、家主の家賃が少ないほど補助の程度を高くする。
2. 事業体の収入低下幅が大きいほど補助の程度を高くする。
3. 事業体が雇用を維持すればするほど補助の程度を高くする。
2.賃金の補助
(1)賃金の補助率
労働者の賃金は1人1人異なるが、ここでいう「賃金」とは全労働者の(月当たり)平均賃金のことである。
賃金の補助率=(賃金に関する)補助金/(危機前の)賃金、危機前の賃金(wage)をwと表わし、補助(subsidy)率をsと表わすことにする。ただし、0≦s≦1
①賃金水準と補助率
賃金水準が低いほど労働者の生活が苦しい。低賃金労働者の生活維持のために危機前の賃金水準が低いほど賃金に対する補助率を高くするものとする。
ここでは1つの具体例として、危機前の月当たり賃金がたとえば30万円以下は補助率=1、賃金が30万円を超える範囲では、賃金が多くなればなるほど補助率が低下するものとする。
賃金が30万円よりも多い範囲における補助率
この範囲における補助率は、危機前の賃金がたとえば50万円では補助率=0.6とする。この範囲における補助率は、(w30万円、s1)と(w50万円、s0.6)を結ぶ直線上の点の高さで示されるものとする。
この直線の式は、s=-(1/50 )w+1.6
この式を使うと、w=50万円のときはs=0.6であることが確かめられる。もしw=80万円ならs=0となる。すなわち賃金が80万円以上では、賃金に関する補助は与えられないことになる。
(s=0となるw の金額を決めた方がsの直線の式を決めやすい)
②雇用維持と補助率
Nを危機前の雇用数、nを危機時の雇用数とする。危機時においても、危機が到来する前の雇用が維持されることが好ましい。すなわち、雇用維持率(n/N)が高いことが好ましい。最も好ましいのはn/N=1(危機時であっても、危機到来前の雇用が完全に維持される)である。逆に、n/N=0(危機時に全員解雇)は最も好ましくない。なお、0≦n/N≦1
この雇用維持率(n/N)も賃金に関する補助額を決めるものとして考慮することにする。
③賃金の補助率
賃金の補助率は、①と②の双方を合わせて考えると、
賃金が30万円以下の範囲
賃金が30万円以下の範囲では、賃金に関する補助率=1×(n/N)となる。
(企業Aのケース)
企業Aが危機前の労働者数10人(N)のうち危機時において8人(n)の雇用を維持しようとしている場合。ただし危機前の賃金20万円(w)とする。
→危機前の賃金20万円は30万円までの範囲内にあり、n/N=8/10であるから、補助率s=1×(8/10)=0.8
賃金が30万円よりも多い範囲
賃金が30万円よりも多い範囲では、賃金に関する補助率=s×(n/N)={-(1/50 )w+1.6}×(n/N)となる。
(企業Bのケース)
企業Bが危機前の労働者数50人(N)のうち危機時において30人(n)の雇用を維持しようとしている場合。ただし危機前の賃金40万円(w)とする。
→危機前の賃金40万円は30万円を超える範囲にあり、n/N=30/50であるから、補助率s={-(1/50 )×40+1.6}×(30/50)=0.8×0.6=0.48
(2)賃金支払い可能額
危機時における事業体の月当たり収入は、賃金と家賃の双方に政策的に2:1の割合で振り分けるものとする。賃金、家賃以外の仕入れなどの費用はゼロとする。
(企業Aのケース)
危機時における企業Aの月当たり収入30万円とし、そのうち賃金支払いに20万円、家賃支払いに10万円を充てるものとする。(賃金支払い可能額=20万円)
(企業Bのケース)
危機時における企業Bの月当たり収入150万円とし、そのうち賃金支払いに100万円、家賃支払いに50万円を充てるものとする。(賃金支払い可能額=100万円)
(3)賃金補助額と賃金受取額
雇用労働者1人当たりに関して、賃金補助額=(危機前の賃金-[1人当たりの]賃金支払い可能額)×雇用維持率、とする。
雇用労働者1人当たりに関して、労働者の賃金受取額=賃金補助額+[1人当たりの]賃金支払い可能額、とする。
(企業Aのケース)
8人の雇用維持に対して支払い可能な金額が20万円なので、1人当たりの賃金支払い可能額=20万円/8人=2.5万円。
危機前の賃金=20万円、雇用維持率=8/10なので、
(1人当たり)賃金補助額=(20万円-2.5万円)×(8/10)=14万円、
したがって、(1人当たり)賃金受取額=14万円+2.5万円=16.5万円
(企業Bのケース)
1人当たりの賃金支払い可能額=100万円/30人=3.3万円。
危機前の賃金=40万円、雇用維持率=30/50(=0.6)なので、
(1人当たり)賃金補助額=(40万円-3.3万円)×(30/50)=22万円、
したがって、(1人当たり)賃金受取額=22万円+3.3万円=25.3万円
3.家賃の補助
(1)家賃の補助率
危機前の家賃水準が低いほど、家主への家賃に対する補助率を高くするものとする。
(月当たりの)家賃の補助率=(家賃に関する)補助金/(危機前の)家賃、危機前の家賃(rent)をrと表わし、補助(subsidy)率をsと表わすことにする。
月当たり家賃がたとえば30万円以下は補助率1、家賃が30万円を超える範囲では、家賃が多くなればなるほど補助率が低下するものとする。
家賃が30万円よりも多い範囲における補助率
この範囲における補助率は、危機前の賃金がたとえば50万円では補助率=0.8とする。
この場合は、(r30万円、s1)と(r50万円、s0.8)を結ぶ直線上の点の高さで示されるものとする。
この直線の式は、s=-(1/100)r+1.3
この式を使うと、r=50万円のときはs=0.8であることが確かめられる。もしr=100万円ならs=0.3となる。
なお、補助率s=0となる家賃r=130万円となる。130万円以上の家賃では家賃の補助金は与えられないということになる。
(s=0となるr の金額を決めた方がsの直線の式を決めやすい)
(2)家賃支払い可能額
企業Aでは危機時の収入30万円のうち家賃支払い可能額=10万円であり、企業Bでは危機時の収入150万円のうち家賃支払い可能額=50万円である。
(3)家賃補助額と家賃受取額
(企業Aのケース)
危機前の家賃=20万円とする。家賃20万円では家賃補助率=1、
家賃補助額=(危機前の家賃-家賃支払い可能額)×家賃補助率=(20万円-10万円)×1=10万円、
したがって、家主の家賃受取額=家賃補助額+家賃支払い可能額=10万円+10万円=20万円
(企業Bのケース)
危機前の家賃=100万円とする。家賃100万円では家賃補助率s=-(1/100)r+1.3=-(1/100)×100万円+1.3=0.3
家賃補助額=(危機前の家賃-家賃支払い可能額)×家賃補助率=(100万円-50万円)×0.3=15万円、
したがって、家主の家賃受取額=家賃補助額+家賃支払い可能額=15万円+50万円=65万円
4.結論
本稿に意義があるとすれば、その主な意義は、危機時の現収入を賃金支払い可能額と家賃支払い可能額に分けることによって、雇用確保と賃金補償を家賃補償と一体化して考え、これによって政府による労働者や家主に対する支援だけでなく事業体の経営支援を一体化して考えることができる点にある。
危機前の賃金水準や家賃水準が低ければ補助率が高くなるということは、事業体の経営規模が小さければ大きい補助をし、また労働者や家主の補助が大きくなることを意味する。
(原理ならびに方法1の条件を満たす)
支払い可能額が小さくなれば、その分補助額が増えるということは、事業体の経営が悪化すればそれだけ補助が大きくなることを意味する。(原理ならびに方法2の条件を満たす)
賃金(家賃)支払い可能額や「危機前の賃金(家賃)-賃金(家賃)支払い可能額」に補助率を適用する考え方もありうるが、危機前の賃金(家賃)の水準で補助率を決める本稿の方法は、事業体の経営規模を考慮し、なおかつ経営悪化の程度も考慮できるという意味がある。
n/Nが大きい方が補助率が大きくなるということは、事業体の雇用維持の努力を評価し、その努力を促すことを意味する。(原理ならびに方法3の条件を満たす)
なお、この山下案では、政府が家賃補助をするのは、事業体が雇用維持の努力をすることを前提条件とする。
また、他の用途に使われないようにするために、政府の補助金は経営者に渡すのではなく、賃金補助金は労働者に、家賃補助金は家主に渡すのがよいと考える。
本稿では、分かり易くするために、それぞれの箇所で具体的な数値例を用いたが、これらの数値が変わるともちろん計算結果の数値も変わる。
和洋女子大学・山下景秋
今まで「新型コロナウイルスと経済対策(1)~(3)」など、感染症・経済のこの複合危機に対する経済対策についてブログを書いてきた。この(4)では、企業や商店などの事業体の経営や労働者や家主の経済に関わる、賃金や家賃に対する補助金の支払いに関して書いてみた。
1.賃金と家賃に対する政府補助
(1)自民党案と野党案
事業体の賃金や家賃の支払いに対する政府の補助・支援の方法としては、全額補助金、一部補助金、支払い延期支援などがある。
現在(4月29日)の時点では、事業体の家賃の支払いに関して、自民党案が検討され、野党が共同で案を提出している。
自民党案は、部屋の借主が金融機関から家賃を無利子で借りて家賃を支払い、この借り入れ金を金融機関に返済する時、その返済金の全額か一部を政府が補助するというものである。
それに対して野党案は、政府系の銀行が部屋の借主の代わりに家主に対して家賃を支払い(銀行が家賃の代金を立て替える)、借主は後にその代金をその銀行に支払う(借主が銀行から借りた資金を銀行に返済する、とみなすことができる)。これは、実質的に、借主にとっては家賃を延納することに等しい。ただし、家主が家賃の金額を減額すれば、その減額の8割ぐらいを政府が補助するというものである。
(2)山下案
私の案(山下案)は、政府による補助金によって事業体と労働者・家主を支援する仕組みに関する1つの案である。
目標
本稿は、主として事業体の経営や雇用ができるだけ維持されること、また事業体の経営維持や家賃補助により家主もできるだけ救済されることを目標とする。
原理ならびに方法
1. 事業体の規模が小さいほど、労働者の賃金が低いほど、家主の家賃が少ないほど補助の程度を高くする。
2. 事業体の収入低下幅が大きいほど補助の程度を高くする。
3. 事業体が雇用を維持すればするほど補助の程度を高くする。
2.賃金の補助
(1)賃金の補助率
労働者の賃金は1人1人異なるが、ここでいう「賃金」とは全労働者の(月当たり)平均賃金のことである。
賃金の補助率=(賃金に関する)補助金/(危機前の)賃金、危機前の賃金(wage)をwと表わし、補助(subsidy)率をsと表わすことにする。ただし、0≦s≦1
①賃金水準と補助率
賃金水準が低いほど労働者の生活が苦しい。低賃金労働者の生活維持のために危機前の賃金水準が低いほど賃金に対する補助率を高くするものとする。
ここでは1つの具体例として、危機前の月当たり賃金がたとえば30万円以下は補助率=1、賃金が30万円を超える範囲では、賃金が多くなればなるほど補助率が低下するものとする。
賃金が30万円よりも多い範囲における補助率
この範囲における補助率は、危機前の賃金がたとえば50万円では補助率=0.6とする。この範囲における補助率は、(w30万円、s1)と(w50万円、s0.6)を結ぶ直線上の点の高さで示されるものとする。
この直線の式は、s=-(1/50 )w+1.6
この式を使うと、w=50万円のときはs=0.6であることが確かめられる。もしw=80万円ならs=0となる。すなわち賃金が80万円以上では、賃金に関する補助は与えられないことになる。
(s=0となるw の金額を決めた方がsの直線の式を決めやすい)
②雇用維持と補助率
Nを危機前の雇用数、nを危機時の雇用数とする。危機時においても、危機が到来する前の雇用が維持されることが好ましい。すなわち、雇用維持率(n/N)が高いことが好ましい。最も好ましいのはn/N=1(危機時であっても、危機到来前の雇用が完全に維持される)である。逆に、n/N=0(危機時に全員解雇)は最も好ましくない。なお、0≦n/N≦1
この雇用維持率(n/N)も賃金に関する補助額を決めるものとして考慮することにする。
③賃金の補助率
賃金の補助率は、①と②の双方を合わせて考えると、
賃金が30万円以下の範囲
賃金が30万円以下の範囲では、賃金に関する補助率=1×(n/N)となる。
(企業Aのケース)
企業Aが危機前の労働者数10人(N)のうち危機時において8人(n)の雇用を維持しようとしている場合。ただし危機前の賃金20万円(w)とする。
→危機前の賃金20万円は30万円までの範囲内にあり、n/N=8/10であるから、補助率s=1×(8/10)=0.8
賃金が30万円よりも多い範囲
賃金が30万円よりも多い範囲では、賃金に関する補助率=s×(n/N)={-(1/50 )w+1.6}×(n/N)となる。
(企業Bのケース)
企業Bが危機前の労働者数50人(N)のうち危機時において30人(n)の雇用を維持しようとしている場合。ただし危機前の賃金40万円(w)とする。
→危機前の賃金40万円は30万円を超える範囲にあり、n/N=30/50であるから、補助率s={-(1/50 )×40+1.6}×(30/50)=0.8×0.6=0.48
(2)賃金支払い可能額
危機時における事業体の月当たり収入は、賃金と家賃の双方に政策的に2:1の割合で振り分けるものとする。賃金、家賃以外の仕入れなどの費用はゼロとする。
(企業Aのケース)
危機時における企業Aの月当たり収入30万円とし、そのうち賃金支払いに20万円、家賃支払いに10万円を充てるものとする。(賃金支払い可能額=20万円)
(企業Bのケース)
危機時における企業Bの月当たり収入150万円とし、そのうち賃金支払いに100万円、家賃支払いに50万円を充てるものとする。(賃金支払い可能額=100万円)
(3)賃金補助額と賃金受取額
雇用労働者1人当たりに関して、賃金補助額=(危機前の賃金-[1人当たりの]賃金支払い可能額)×雇用維持率、とする。
雇用労働者1人当たりに関して、労働者の賃金受取額=賃金補助額+[1人当たりの]賃金支払い可能額、とする。
(企業Aのケース)
8人の雇用維持に対して支払い可能な金額が20万円なので、1人当たりの賃金支払い可能額=20万円/8人=2.5万円。
危機前の賃金=20万円、雇用維持率=8/10なので、
(1人当たり)賃金補助額=(20万円-2.5万円)×(8/10)=14万円、
したがって、(1人当たり)賃金受取額=14万円+2.5万円=16.5万円
(企業Bのケース)
1人当たりの賃金支払い可能額=100万円/30人=3.3万円。
危機前の賃金=40万円、雇用維持率=30/50(=0.6)なので、
(1人当たり)賃金補助額=(40万円-3.3万円)×(30/50)=22万円、
したがって、(1人当たり)賃金受取額=22万円+3.3万円=25.3万円
3.家賃の補助
(1)家賃の補助率
危機前の家賃水準が低いほど、家主への家賃に対する補助率を高くするものとする。
(月当たりの)家賃の補助率=(家賃に関する)補助金/(危機前の)家賃、危機前の家賃(rent)をrと表わし、補助(subsidy)率をsと表わすことにする。
月当たり家賃がたとえば30万円以下は補助率1、家賃が30万円を超える範囲では、家賃が多くなればなるほど補助率が低下するものとする。
家賃が30万円よりも多い範囲における補助率
この範囲における補助率は、危機前の賃金がたとえば50万円では補助率=0.8とする。
この場合は、(r30万円、s1)と(r50万円、s0.8)を結ぶ直線上の点の高さで示されるものとする。
この直線の式は、s=-(1/100)r+1.3
この式を使うと、r=50万円のときはs=0.8であることが確かめられる。もしr=100万円ならs=0.3となる。
なお、補助率s=0となる家賃r=130万円となる。130万円以上の家賃では家賃の補助金は与えられないということになる。
(s=0となるr の金額を決めた方がsの直線の式を決めやすい)
(2)家賃支払い可能額
企業Aでは危機時の収入30万円のうち家賃支払い可能額=10万円であり、企業Bでは危機時の収入150万円のうち家賃支払い可能額=50万円である。
(3)家賃補助額と家賃受取額
(企業Aのケース)
危機前の家賃=20万円とする。家賃20万円では家賃補助率=1、
家賃補助額=(危機前の家賃-家賃支払い可能額)×家賃補助率=(20万円-10万円)×1=10万円、
したがって、家主の家賃受取額=家賃補助額+家賃支払い可能額=10万円+10万円=20万円
(企業Bのケース)
危機前の家賃=100万円とする。家賃100万円では家賃補助率s=-(1/100)r+1.3=-(1/100)×100万円+1.3=0.3
家賃補助額=(危機前の家賃-家賃支払い可能額)×家賃補助率=(100万円-50万円)×0.3=15万円、
したがって、家主の家賃受取額=家賃補助額+家賃支払い可能額=15万円+50万円=65万円
4.結論
本稿に意義があるとすれば、その主な意義は、危機時の現収入を賃金支払い可能額と家賃支払い可能額に分けることによって、雇用確保と賃金補償を家賃補償と一体化して考え、これによって政府による労働者や家主に対する支援だけでなく事業体の経営支援を一体化して考えることができる点にある。
危機前の賃金水準や家賃水準が低ければ補助率が高くなるということは、事業体の経営規模が小さければ大きい補助をし、また労働者や家主の補助が大きくなることを意味する。
(原理ならびに方法1の条件を満たす)
支払い可能額が小さくなれば、その分補助額が増えるということは、事業体の経営が悪化すればそれだけ補助が大きくなることを意味する。(原理ならびに方法2の条件を満たす)
賃金(家賃)支払い可能額や「危機前の賃金(家賃)-賃金(家賃)支払い可能額」に補助率を適用する考え方もありうるが、危機前の賃金(家賃)の水準で補助率を決める本稿の方法は、事業体の経営規模を考慮し、なおかつ経営悪化の程度も考慮できるという意味がある。
n/Nが大きい方が補助率が大きくなるということは、事業体の雇用維持の努力を評価し、その努力を促すことを意味する。(原理ならびに方法3の条件を満たす)
なお、この山下案では、政府が家賃補助をするのは、事業体が雇用維持の努力をすることを前提条件とする。
また、他の用途に使われないようにするために、政府の補助金は経営者に渡すのではなく、賃金補助金は労働者に、家賃補助金は家主に渡すのがよいと考える。
本稿では、分かり易くするために、それぞれの箇所で具体的な数値例を用いたが、これらの数値が変わるともちろん計算結果の数値も変わる。