来日中のボブ・ディランへのオマージュ。我らの信奉する土建国家、そのシンボルである長良川河口堰がバベルの塔であることを彼の歌は教えてくれている。堰のほとりに住む、加藤良雄さん。久しぶりにお会いしたが、預言者のような風貌をされていた。
意図的に、色調をかえています。コントラストを高めて、モノクロでの掲載を想定しています。
28th 見張塔からずっと
来日中の米国人歌手、ボブ・ディランが作った曲がある。旧約聖書「イザヤ書」を基にした「見張り塔からずっと」。古代バビロニア帝国崩壊の報が見張り塔に届くという内容だ。発表されたのは一九六八年。ベトナム戦争が泥沼化して、米国内でも反戦運動の嵐が起こった時代だった。バビロニアを米国になぞって、栄華を誇る大帝国もいつかは滅びる。という寓意(ぐうい)が込められているのだという。
長良川河口堰(ぜき)近くに住む知人が、二階建ての自宅の屋上に津波避難塔を自作した。桑名市長島町に住む加藤良雄さんは一九四七年生まれ。伊勢湾台風の当時、十二歳だった。家は流され、家族八人を亡くされた。その体験から長良川河口堰建設に反対を続けてきた。
「伊勢湾台風の高潮が伊勢大橋(国道1号)でせき止められて左岸の堤防が切れた。伊勢大橋の橋脚は七本。河口堰は堰柱が十三本もあって、一本の幅も伊勢大橋の橋脚の倍。津波が来たらあふれて堤防を越える」。加藤さんの心配だ。
東日本大震災で、不安に駆られたという。自宅の標高は一・三㍍。大潮の満潮時には沈む高さだ。地上から高さ十二㍍余り、周囲からひときわ目立つ塔を立てることは、人々への警鐘にもなるのではないか。加藤さんに言われて塔を見上げると、自分が立つ場所の危うさがよくわかった。
潮の満ち引きを止める河口堰は、自然を制御する現代のバベルの塔だ。ゲートは流れを妨げる。洪水の時には、周囲に水をあふれさせないようにゲートを引き上げる。しかし、二〇〇八年六月二十九日の大水の時、主モーターが故障、予備モーターも障してゲートが途中で止まるという事態を起こした。津波の時にもゲートは上がるのだが、大地震の影響はないのか。
ディランは歌う。見張り塔に届いたのは、人間が天に挑んだバベルの塔、その崩落の知らせではなかったのか。(魚類生態写真家)
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