リバーリバイバル研究所

川と生き物、そして人間生活との折り合いを研究しています。サツキマス研究会・リュウキュウアユ研究会

第47回 大アユの消えたわけ 潮のポンプ(下) どうして長良川のアユは小さくなったか!

2017-01-22 11:25:27 | ”川に生きる”中日/東京新聞掲載

河口堰ができてから、なぜ、長良川のアユが小型化して、産卵期が遅くなったのか、4回にわたって書いてきました。生まれてしばらくを海・汽水域で過ごすアユにとって、遡上するよりも降下する方が大変であるということですね。

潮のポンプ 下  どうして長良川のアユは小さくなったのか!

潮の満ち引きが作り出す「潮のポンプ」は、引き潮時に下流域の川の流れを速めて、ふ化したアユの仔魚が、下流に向かう移動を助けていた。

長良川に河口堰ができ、潮のポンプは無くなり、仔魚が汽水域にまで下る日数は倍以上となった。日数が増えると、餌のある汽水域まで到達できず、仔魚は死んでしまう。水温が高いと仔魚の活動は盛んで、腹に蓄えた栄養を早く使い切る。低い水温の時よりも、高水温時には生き残ることが難しかった。

河口堰建設以前、長良川ではアユの産卵は10月半ばに盛りを迎えた。最初に産卵するのは大型のアユ、水温が低くなる11月以降に、小ぶりのアユが産卵を始めた。水温の高い、早い時期に生まれた大型のアユの仔魚は死に、遅く生まれた小さなアユの仔魚は生き残る。それは、海域でのアユの生活期間を短くし、翌春、川に戻るアユの遡上時期の遅れ、アユの小型化、を起こすことを意味した。

その対策として、河口堰の右岸に併設されたのが人工河川だ。下流側はアユのふ化用水路で、上流で採卵し、受精させた卵はシュロの繊維に付けられている。二週間程度でふ化した仔魚は魚道を通って河口堰を下り、すぐに餌を摂ることができるようになった。

この人工河川が完成した時、私は長良川漁協から依頼され、どのくらいの仔魚が生きて海に下れるのかという調査をした。結果として10月中旬、水温の高い時期には、表面に水カビがつくなどして死んでしまう受精卵が多いことがわかった。

現在、長良川漁業対策協議会と長良川漁協は、水温の下がる11月から受精卵を人工河川に運び、多くの仔魚を海に送り出している。しかし、「潮のポンプ」があった頃のように、水温の高い時期に生まれ、早春川に戻り、最上流域まで遡上して大きく育つアユの群れを、長良川は取り戻してはいない。

 

(魚類生態写真家)

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 第46回 潮のポンプ  河口... | トップ | 第48回 川の観光価値 観光... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

”川に生きる”中日/東京新聞掲載」カテゴリの最新記事