390万年という歴史を生きてきたメコンオオナマス。ダム建設で絶滅の時が迫っている。偶然あったときから、ボクのメコン行きはその回数を増していた。もう一度、会いたい。しかし…
生存の証
リーはラオスで使われている簗(やな)の一種だ。細く長い木の幹で造られているのだが、10年ほど前に作り方が劇的に変わったという、竹を撚りロープにして木を縛ったのを、鉄の釘で固定するようになった。強度が増して、水位が高くなっても、リーは流されない。メコンオオナマズがメコンの分流 フーサホンで捕獲されるようになったのは、それ以後のことだ。
メコンはラオス南部で最大30mの落差の無数の滝になっている。大型の魚などはその滝で阻まれ、移動ができないと思われてきた。ところが、2009年10月、私はフーサホンでメコンオオナマズがとれた時、偶然に居合わせた。フーサホンは、巨大魚も遡上できる魚の通り道であることが証明されたのだ。そのフーサホンでダム建設が始まろうとしていた。
フーサホンをメコンオオナマズが上る。それを示す貴重な標本は、地元政府が保管したはずなのだが、正式な記録は無く、捕獲した時の写真と、私が切り取ったヒレの先以外はどこかに消えてしまった。
フーサホンにダムが出来ると、メコン上流にある繁殖場所にたどり着けないメコンオオナマズは、絶滅してしまうだろう。誕生から390万年というその歴史は、途絶えようとしていた。
存在の証を残したい。生きた姿を見たい。その思いでフーサホンに通うことになった。
11年。到着すると10日前にとれたが、村人たちがすでに食べてしまっていた。12年。雨期の始めに洪水となり、リーが流れてその年の漁はできなかった。13年。二週間待って雨は降らず、ラオスを出国した日、雨期が始まった。14年。雨期の中、一ヶ月待ち続けたが、大魚はリーに掛かることは無かった。
島をあとにする朝、村長が5㍑ほどの容器を私に手渡してくれた。大きなナマズのなれ鮨だった。
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