リバーリバイバル研究所

川と生き物、そして人間生活との折り合いを研究しています。サツキマス研究会・リュウキュウアユ研究会

第25回 命の水のアユ  近畿1436万人の「水がめ」琵琶湖は命の揺籃(ゆりかご)であること。

2016-03-13 10:21:55 | ”川に生きる”中日/東京新聞掲載

 近畿1436万人の水がめ水琵琶湖は命の揺籃(ゆりかご)であること。人間以外の生き物にとっても命の水である琵琶湖。その湖は若狭湾の原発群の風下に 位置している。執筆時点では大津地裁が行った稼働中の原発の停止の仮処分命令は出ていなかったのだが、琵琶湖の育む生き物について書いておきたかった。

 「琵琶湖は近畿の水がめではありません。」前滋賀県知事の嘉田由紀子さんは、琵琶湖が単なる「水がめ」ではなく、貴重で生命にあふれる「命の水」だと話す。

 琵琶湖は世界に二十もない古代湖という稀な湖だ。その歴史は四百万年以上。琵琶湖は世界で三番目に古いといわれる湖だ。長い時を経た湖には生き物の種類も多く、独特の生き物がいる。魚類では四十四種類の在来種がすみ、ふなずしにされるニゴロブナ、日本最大の淡水魚ビワコオオナマズなど、十五種類が琵琶湖にしかいない固有の種(固有種)だ。
 固有種ではない魚もかなり変わっている。例えばアユ。琵琶湖には湖で成長するアユがいる。川に上らず、小さいままで一生を過ごす琵琶湖のアユは、川に放すと大きく育つ。その習性が発見されたのは今から百年前のことで、以来、全国の川に琵琶湖のアユが放流されるようになった。ダムなどで海からのアユがのぼれない川にとって、琵琶湖はまさに、母なる湖だ。
 
 秋の初め、琵琶湖に注ぐ川でアユの産卵が始まる。川底を埋め尽くすアユの群れが体を震わせ産卵する。生命の営みがおこなわれる川の上流、その山を越した福井県の若狭湾には十四基の原子力発電所がある。
 アユの産卵する秋から春にかけて、若狭湾から琵琶湖へ、北西の季節風が吹く。琵琶湖は原発の風下に位置しているのだ。
 現実に起きてしまった福島第一原発のような事故が起きたら、季節風はわずかな時間で大量の放射性物質を琵琶湖に運ぶだろう。滋賀県の80%、京都府69%、大阪府のほぼ100%。兵庫県でも48%の人々が琵琶湖の水を利用し、全体では千四百三十六万人に上る。

 あの日から五年が経過し、原発の再稼働が始まっている。しかし、電気を作る手段は原発だけではない。命の水、琵琶湖は「近畿の水がめ」でもある。そして、他に替わるものはないのだ。(魚類生態写真家)

 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 第24回 存在の証し ダム建... | トップ | 第26回 釣り人のみた夢 木... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

”川に生きる”中日/東京新聞掲載」カテゴリの最新記事