「どういうことだ」
筋骨隆々の巨漢、ワムウがこの殺し合いで真っ先に発した言葉は、それだった。
彼は、死んだはずの男だった。
ジョセフ・ジョースターとの決闘に敗れ、ワムウという存在は確かに死んだはずなのだ。
なのに今、彼はこうして立っている。それは、彼の理解の範疇を超えた出来事であった。
(生き返ったというのか……? だが、なぜそんなことが……。
まさか、あの魔神などとほざいていた小僧が本当に神の力を持っていたとでも?)
にわかには肯定しがたい話だ。彼が尊敬する主君、カーズでさえ死者の復活など不可能なのだから。
だが、ワムウにはそれ以外に納得できる理由が思いつかない。
(まあ、俺ごときの頭で考えてもどうしようもないか……。生き返ってしまったものは仕方ないと割り切るしかない。
それより、これからどうするかだ)
殺し合い。要は、ルール無用の戦いだ。ルールがないというのは彼にとって少々不満だが、さしたる問題ではない。
戦いである以上、最終目的は勝利以外あり得ない。それは戦士であるワムウにとって最もわかりやすく、最も魅力的な目的だ。
戦い続け、最後の勝利者となる。それが、ワムウの選択した道であった。
(果たしてこの戦いに、俺と渡り合える人間がいるのかは疑問だが……。まあいい。
戦い続ければわかる事だ)
思考にひとまずの区切りをつけ、ワムウは歩き出す。ある地点を見据えながら。
「そこに隠れている人間、出てこい」
「げっ……」
ワムウが言うと、草むらから小さな声が上がる。やがてそこから、一人の青年が姿を現した。
「あはは、どうも~」
青年は、その中性的な顔立ちに愛想笑いを浮かべる。
彼の名は、水島大魚。新進気鋭の若き陶芸家であり、琉球空手を収めた猛者でもある。
だが、そんな彼の経歴などワムウはまったく興味がない。
彼にとっての大魚は、戦う相手。それ以上でもそれ以下でもない。
「さあ、様子など見ていないでかかってこい。こちらは覚悟が出来ている」
「え? それはつまり、あなたと戦えと?」
「他に何がある? ここは最後の一人になるまで殺し合う場なのだろう?」
大魚の反応に、ワムウは怪訝な表情を浮かべる。
「いや、確かにそうだけど! おかしいでしょう、いきなり殺し合えなんて!
無理矢理こんなところに連れてこられて、なんでそんな理不尽な命令に従わなきゃいけないんですか!
あの子にそんなことを強制する権利なんてないんです! 殺し合いなんてするより、あの子を見つけ出してとっつかまえたほうがよっぽど建設的です!
ねえ、いっしょにやりましょうよ! お兄さんみたいな立派な体格の人が仲間になってくれるなら、こっちも助かるんですから!」
額に汗を流しながら、大魚は必死に熱弁を振るう。
「なるほど、理不尽な命令に従う必要はないということか……。一理あるな」
「でしょう? だったら僕といっしょに……」
ワムウの返答に脈ありと感じ、大魚は顔に喜びをにじませる。
だが、それはワムウの次の一言に打ち砕かれた。
「だが断る」
「ええ!?」
「このワムウの最も好きなことは、戦うことだ。理不尽であろうがなんであろうが、目の前にある戦いから逃げ出すようなことはしない」
きっぱりと告げると、ワムウはファイティングポーズを取る。
「いやいや、そんなこと言わずに……。話し合いで解決しましょうよ、ね?」
「あいにくと、俺の趣味ではない。諦めて、俺と戦え。あくまで俺の勘だが……貴様も戦闘に関して素人ではないのだろう?」
「うっ……」
図星を突かれ、大魚は思わず顔をしかめる。
「当たっていたようだな。さあ、来い! 来ないのならこちらから行くぞ!」
ワムウが発破をかける。だが、それでも大魚は動かない。しびれを切らし、ワムウが先に動いた。
(速い!)
巨体からは想像できないワムウの俊敏さに、大魚は目を見張る。
刹那、飛んでくる拳。回避は無理だと判断した大魚は、とっさに腕を盾にする。
だがワムウの強力の前に、その程度の防御は無意味。バキリと音がして、小枝のように大魚の腕の骨が粉砕される。
更に大魚の体は吹き飛ばされ、背後の木に激突した。
「うあああああ!! う、腕が! 僕の腕が!!」
腕を折られた痛みとショックで、大魚は狂ったように叫ぶ。その様子を、ワムウは失望に満ちた目で見つめていた。
「つまらん。体の捌きはまあまあだが、脆すぎる。とうてい俺の相手は務まらん」
吐き捨てるように呟きながら、ワムウは吹き飛んだ大魚にゆっくりと近づいていく。
「せめてもの情けだ、苦しまぬよう一瞬で殺してやる」
逃げる気力もない大魚に向かって、ワムウは腕を振り下ろそうとした。
だがその瞬間、まばゆい光が彼の目を焼いた。
「ぐむっ!」
思わず手を引っ込め、目を覆うワムウ。その間に、誰かが走り寄ってくる。
額から伸びる触覚でそれを察知し、ワムウは拳を繰り出す。
だがその拳は空を切り、その間に近づいてきた何者かは再び走り去ってしまった。
「くっ、不覚……。俺としたことが……」
ワムウが再び目を開いた時、そこには走り去った男のみならず大魚の姿もなかった。
触覚という人間にない感覚器官を持つワムウは、目が見えなくとも人間ほど不自由はしない。
先程攻撃を外したのは、純粋に予想外の事態が起きたことに対する動揺が原因だ。
それはすなわち、ワムウの心に油断があったということになる。
「ここがルール無用の戦場であったことを失念していた……。他者の乱入も十分にあり得るということか。
このような不覚、戦士としては恥以外の何物でもない。これより先は気を付けねばな……」
おのれを戒め、ワムウは歩き出す。逃げた相手を追うつもりはない。
戦わずに逃げる相手など、その実力もたかがしれるというもの。大魚に関しても、自分の相手にはならないとわかった以上未練はない。
自分が戦うに値する強者を求め、ワムウは彷徨を始めた。
【一日目・深夜 C-2 森】
【ワムウ@ジョジョの奇妙な冒険】
【状態】健康
【装備】無し
【道具】支給品一式、不明支給品1~3
【思考】
基本:最後の一人になるまで戦う。
1:強者を見つけて戦いを挑む。
※死亡後からの参戦です。
※名簿を見ていないため、ジョセフやリサリサの存在に気づいていません。
ワムウから数百メートル離れた地点。そこに、二人の青年がいた。
一人は大魚。もう一人は、髪を長く伸ばしたつり目の男だ。
「ふう、追っては来てないみたいだな……。助かったぜ。ユマじゃあるまいし、あんな強そうな奴と真っ正面からやり合えるかっての」
髪の長い男……ムニ・フラクタルは、気だるげに呟いた後安堵の溜め息を漏らす。
彼の腰には、一振りの日本刀が下げられていた。
これこそ、彼がワムウから逃走を成し遂げられた理由。気合いを込めると刀身が光る謎の銘刀、「虎徹」である。
(で、どうするかなあ、こいつ。殺されそうだったからとっさに助けたのはいいけど……。
話しかけてもまともな反応返って来ねえし)
ムニの視線の先には、うわごとのように「腕が……腕が……」と呟く大魚がいる。
腕が折れては、作品を作り上げることが出来ない。それ故大魚はここまで追い込まれているのだが、そんな事情をムニが知るはずもない。
「腕が腕がって……。要するに、腕を治してやればいいのか? あんまり気がすすまねえが……。仕方ねえな」
心底いやそうな表情を浮かべると、ムニは自分の顔を大魚の顔に近づける。
そして、その唇を奪った。
「!!」
その衝撃的な出来事に、大魚は正気を取り戻す。そしてすぐさま、ムニの体を思い切り蹴飛ばした。
「ごはっ!」
奇声を漏らしながら、ムニは土の上に倒れ込む。
「な、なんてことしてくれるのさ! いくら僕が可愛いからって! この変態! ホモ! 性犯罪者!」
思いつく限りの罵詈雑言を、ムニにぶつける大魚。ムニはそれを意に介さず、あきれ顔で大魚に語りかける。
「腕、少しはましになっただろ」
「え……? あ! 言われてみれば!」
「簡潔に言おう。俺は口づけすることで他人を健康な状態に戻す力がある。
今のは治療であって、変な下心があってやったわけじゃない。俺だって、男に口づけなんかしたくねえんだよ」
「そうだったんだ……。ごめん、思いっきり蹴っちゃって」
「謝ることはねえ。まともな反応だ。まったく、力の発動方法がこんなのじゃなければ、俺もためらわず使えるってのに……」
素直に謝る大魚だが、ムニはそれを軽く流す。
「それにしても、すごい力だね! なに、超能力ってやつ?」
「超能力? なんだよそれ……。ああ、ひょっとしてお前、ユマの世界の人間か?」
「ゆま? 何それ」
「後で詳しく説明するさ。それより、今は腕の治療が先だ。あんなちょっとやっただけじゃ、少し痛みが引いた程度だろう」
「治療って……。またキスするわけ?」
「そういうことになるな」
「うーん……。それは遠慮願いたいというか……」
無意識に、大魚は後ずさりをする。
「腕、治らなくていいのか?」
「う……。それを言われちゃうと……。でもやっぱり男とキスはいやー!」
「俺だっていやだって言ってるだろ! おとなしく受け入れろ!」
「いやだー!」
結局この後、押し問答をしばらく続ける二人であった。
【一日目・深夜 C-2 森】
【水島大魚@かおす寒鰤屋】
【状態】右腕粉砕骨折(ムニの能力で微妙に回復)
【装備】無し
【道具】支給品一式、不明支給品1~3
【思考】
基本:生き延びる。
※本編終了後からの参戦です。
【ムニ・フラクタル@世界征服物語】
【状態】腹にダメージ
【装備】虎徹@CLAMP学園怪奇現象研究会事件ファイル
【道具】支給品一式、不明支給品0~2
【思考】
基本:殺し合いには乗らない。
1:大魚を治療。
2:さっきの男のような強そうな相手からは逃げる。
※単行本一巻終了後からの参戦です。
※支給品紹介
【虎徹@CLAMP学園怪奇現象研究会事件ファイル】
水鏡美冬の愛刀。普段は彼女の背中に隠されている。
持ち主が気合いを込めることで、刀身が発光する。
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