板屋小路から本町通りに出るとすぐ、
立て簾のかかっているお店のご主人から
にこやかな笑顔で、声をかけられた。
「街並みの地図を持っとられるかな？」
「いいえ」と答えると、店の奥からパンフレットを持ってきて
丁寧に竹原の街並み保存地区の説明をしてくださった。
この店は佐倉商店というお土産物やさん。
まるで観光ガイドのような親切なご主人だった。
その地図を頼りにブラブラと街並みを散策していると
今度は自転車を押しながら年配の女性が声をかけてきた。
そしてごく当たり前のように私たちを連れて案内をし始めた。
ここは地蔵堂。中を覗くと大きくて立派なお地蔵さんが居た。
ここはニッカウイスキーで有名な竹鶴酒造の発祥地。
今は小笹屋酒の資料館となっている。
お酒で儲けるたびに、こうして建物が増えていったのだと
そのオバチャンがおもしろおかしく説明をしてくれた。
その昔、この町が栄えていた頃は旅館だったという建物。
遊女や芸妓も多くいて、それはそれは賑やかだったそうだ。
この界隈では珍しい洋館で、今はカフェとなっている建物。
映画のロケで、俳優の中井貴一が来たことがあるという。
「ちょっとこっちへ来てごらん」と通りの奥へ誘われて
オバチャンの指差す方を見上げると、善明閣という建物が‥。
「ここからの眺めがいちばんいい」そうだ。
そして、「ここのお好み焼きは美味しいよ」 と言い残して
ボランティア観光ガイドのオバチャンは去って行った。
佐倉商店のご主人といい、この自転車オバチャンといい
この町の人たちは、頼まれもしないのにガイド役をかって出て
何と観光客に対するサービス精神の旺盛なことか‥！
古き街 請われもせでに 案内する
人の心ぞ いと忘れがたし
