Patient Safety :  医療安全

2012-02-19 09:58:41 | 医療用語(看護、医学)
  先月から何度か、ケアの質のことを話してきた。質と一体で議論されるのが安全なケアだ。だから、to provide safe and quality care(安全で質の高いケアを提供する)という表現になる。

 「医療(の)安全」の英語の訳は、Patient Safetyだ。ブログでIOMの看護レポートの話を取り上げていた最中に、日本看護協会出版会の編集者の村上さんから次の号(夏号)のINRの翻訳原稿が送られてきたが、それが、Patient Safetyに関する論文だった。同じテーマ関連の仕事が続くのは、そのテーマについて多角的に知れるし、考えを整理するのにとても役立つ。ただ、Patient Safetyはついては、偶然にも重なったというのではないと思う。日本だけではなくグローバルレベルでホットな問題なのだ。この論文の翻訳では、私はPatient Safetyを文脈により、「医療(の)安全」、「患者の安全」と訳し分けている。

 医療用語には漢語が多い。漢語を2つ、3つ重ねた熟語もよく使う。今問題にしている「医療安全」もその一つだ。かなり固い表現だが、もっと極端なものをみたことがある。「医療安全質確保対策」。漢字が重なり合いすぎて、途中で息継ぎがほしい。ここまでになると、行きすぎだ。できるだけこのまま使うとしても、日本語としては、ちょっと手を入れて分かり易く、「医療の安全」、「安全で質の高い医療のための対策」といった表現にしたほうがよい。私が訳すときはおそらくそうするだろう。

 漢語は外来語の訳である。もともと、明治維新の後、欧米から入ってきた概念を日本に訳すときに(日本語にはそのような意味の言葉がなかったので)漢語を当てはめた。医療の世界にそうした表現が多いのは当然だろう。ただ、漢語について注意しなければならないのは、漢語になった時点でその言葉をそのまま受け入れてしまって具体的に何を意味しているのか、疑問に思うことなく進んでしまうことがあることだ。翻訳研究の柳父章先生のいう「カセット効果」である。(「カセット効果」については、以前書いたブログ(2011年6/4付、「和製英語コ・メディカル」)で説明しているので参照してほしい。)

 漢語とはそういう魔力がある言葉であることはちょっと頭に入れておいたほうがよい。実際に、具体的にどのようなことを意味してどういう文脈で使われるのかを確認する必要がある。医療関係の仕事をするときは医療用語を縦横無尽の使えることが要件になるが、上記のことを注意する必要があるということだ。


 何年も前に会議の資料で「医療安全」という言葉が出てきたとき、通訳のための打ち合わせの席で、発表者に「『医療安全』とは何を指すのか?患者に対して安全なケアを提供するということか?」と尋ねたことがあった。発表者のその時の答えが、「『患者の安全』ということです」だった。「だったら「患者の安全」と表現すればよいのに」と思ったが、通常は「医療安全」が使われている。頻度は低くなるが、「医療における患者の安全確保」といった表現で「患者の安全」という言葉が入ることはある。(ちなみに、医療の世界の表現では「~における」という表現もよく使われる)。

 「医療(の)安全」は、「安全な医療のシステムを整備する(整える)」ための議論で使われている言葉で、これにあたる英語がPatient Safetyだ。英語の文献では、Patient Safetyという言葉が使われるとき、「患者を危険にさらす状況がある」ということが前提になる。だから「考えられる医療ミスを未然に防いで、患者に対して有害なことが生じない、安全なケアを提供し続けられるシステムを整備する」という文脈で使われるのである。

 医療安全をうっかり、medical safetyやhealthcare safetyと訳してしまわないように。
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