ちかさんの元気日記

辛いことを乗り越えて元気に生きている私“ちかさん”の
涙と怒りと笑いの介護記録。

花摘む女(ひと)

2021-03-12 00:08:00 | 日記
タイトルは「花摘む女(ひと)」とキレイに表現したが
実はこれ
庭のプランターに咲く花をむしり取る
おかしな婆さんの話である。

利用者さんたちにもっと花を楽しんでもらおうと
プランターを色とりどりの花で寄せ植えにしたのは
数ヶ月前のこと。

大好評だった。
みなさん、食事が終わると庭に出て
花々を愛でるようになった。

テルエもその一人。
昼食が終わると必ず、彼女は車椅子を自走して庭に出る。
プランターに顔を埋めるように花を愛でる。

その姿に、私たちは癒されていた。

ところが最近になって
私たちはテルエが癒しとは真逆な行動をとっていたことを知る。

「たいへ〜ん! テルエさんったら、花をむしって捨ててるの!!」

慌てて現場に向かうと
確かにテルエは花を愛でるどころか
容赦なくブチッブチッとむしり取っている。
しかも、なぜか黄色い花ばかり。

「テルエさん、だめよ、お花がかわいそうじゃない⁉︎」

すると彼女は言った。

「黄色は嫉妬の色だから、捨てた方がいいのさ」

黄色は嫉妬の色?

テルエは93歳で
「私は男兄弟の中で育ったからね」が口癖の豪快な老婆。
くよくよ、メソメソせず、人の悪口なんか言わず
だから、私は大好きだった。

さらに言えば、テルエの笑顔は愛嬌があるけれど
若い頃は美人だったんだろうなあという片鱗もない。

その彼女が
「黄色は嫉妬の色だから」と言って、黄色い花をむしっては捨てている。

豪放磊落、天真爛漫に見える彼女だが、実は
“黄色は嫉妬の色”というほどの悲しい過去が、深い情念が
あったのだろうか。

そうは見えない。
いや、人にはそれぞれ歴史がある。
テルエにも花をむしるほどの過去が、あったんだろう。


ケイコ日記ーその24

2021-02-27 02:35:00 | 日記
ケイコの94年の人生で
いつ、そんな言葉を覚えたのだろうか。
果たして、そんな言葉を発したことがあったのだろうか。

「殺してやる!」

激すると、ケイコはその言葉を頻発するようになった。

8年前にウチに入居してきた頃は
穏やかで、慎み深くて、夫想いで
大きな宗教団体の幹部として
信者から多大なる信頼を寄せられていたはずのケイコ。

レビー小体型認知症という病気のせいだとは思うが
それにしても
暴力と、連発する「殺してやる!」という言葉は
彼女のどこから発せられるのか…
見当もつかない。

医師が血液検査をしようとしても
大暴れするものだからできない。
医師も看護師も、お手上げだ。

グーで殴られ、爪で引っ掻かれ
「殺してやる!」と牙を剥かれ
入浴援助も死に物狂い。
もうあの方のお世話は無理です!と
援助を拒むヘルパーも後をたたない。

実の娘ですら「怖くて会えない」と言うのだから、相当である。

ケアマネージャーは利用者のケアプランを立てるとき
その人のそれまでの人生を聞き取り
生活歴として記録する。

しかしケイコの場合
生活歴をどんなに読んでも
凶暴性や、「殺してやる!」といったキーワードは浮かんでこない。

娘も言う。
「母は真面目で、ひたすら宗教活動に邁進していた人だった」と。

ケイコよ
暴れ馬とかしたケイコよ
あなたの「殺してやる!」はいったいどこから生まれたのだろうか。

川の畔で

2021-02-24 00:55:00 | 日記
桜が思わず「咲いちまおうか!」と思ったであろう
おとといと、その前の日。

偶然にもその2日間、おっさんと私は休みだった。

散歩でもしようか?
いいね。

昼過ぎから、私たちは近くの川のほとりを歩き始める。

空は広く、ひたすら青い。

途中でいったん土手を降り、コンビニで缶チューハイを買う。

一人ならちょっと恥ずかしい散歩飲みも
おっさんと二人なら全然平気だ。

土手に腰を下ろし、まずは乾杯。

前日に一緒に観た映画の話
それぞれの職場にいる変なヤツの話
昔しょっちゅう遊びにきていた、おっさんの、かっこいい友だちの話…
とりとめのない話で、時は静かに流れていく。

再び土手を歩き出し、心の中を甘酸っぱいものが満たす。

短足でオシャレとは無縁。
呆れるくらい本を読み漁り
趣味は折り紙とゴルフ。
時代に取り残された男かと思えば
スマホは私の10倍、使いこなす。
ボケてきたかと心配する一方
昨夜は年金について詳しく、熱く語る。

世間からしたら、恐らく、とんでもなく変なおっさんだろう。

しかし、この散歩で私の傍を歩くおっさんの横顔を見ていて
ふっと寂しさがよぎる。

ああ、私は一人残されちゃうんだね。

アナタが逝っちゃってから、私はこの土手を泣きながら歩くんだね。

なんだか無性に、心細くなる。
こんな変なおっさんんでも、長生きしてほしかったと。

そしてふと我に帰る。

どうして私は
おっさんが先に死ぬことを確信しているのだろうか。

女とは、かくも図々しいものよ。笑

珍客ども

2021-02-22 00:02:00 | 日記
毎日毎日、様々なお客様が事務所を訪ねてくる。

生まれつき聴覚に障害を持っている爺様Yは
「すみませーん、ファックスが故障しているので見て下さ〜い‼️」と
どでかい声で困りごとを訴える。
(故障ではなく、操作方法がわからなくなっただけなのだが)

診察を受けたわけではないが
恐らく認知症に加えて精神疾患も持っているであろう婆様Zは
「あのさ、だからね、私はアレなんだよ。でさ…」と
意味不明の訴えを延々続ける。
時には下着姿のこともあって、こちらは大慌てするのが・・・。

一見しっかりしているが
部屋の中に汚れたオムツが散乱している爺様Hは
この季節になると「確定申告に行ってきます」と
外出の挨拶にやってくる。
(それはもう何年間も家族がやってくれているのが)

医者の妻であり、ついこの間までしっかりしていた婆様Mは
通帳と保険証がなくなったと訴えてくる。
(なくなった、なくなったと毎日大騒ぎするので
家族が金庫にしまっただけの話なのだが…)

そしてコント婆ミチコ。
もちろん彼女は健在である。
「股間がヒリヒリと痛い」が収まったかと思えば
今度は「お金がなくなったから息子に電話してほしい」。
「皆さんにお礼をしたいので好きな食べ物を教えてほしい」。
そんなやりとりが一周すると
またしても「股間がヒリヒリ」という訴えに戻る。

これらはほんの一例であり
事務所にいると
日々、気が狂いそうになるほどたくさんの珍客に
対応しなければならないのだ。

もう、うんざり。
そんな訪問があまりにも多いと、心底辞めたくなる。

さて、そんな私たちを笑わせてくれるのが
能天気な認知症、エツコである。

下肢筋力が弱っているため杖を持って歩かなければならないのに
エツコはいつも、忘れる。
杖なしで、転げそうになって食堂に歩いてくる。

「エツコさ〜ん、杖を忘れてるわよ」
職員がそう注意すると、あ、そうだったわ!と素直に引き返すのだが
再び廊下を歩いてくる彼女を見て大笑い。

彼女が持っているのは杖ではなく、なんと、自転車の空気入れなのである。

エツコは自転車の空気入れを杖にして
廊下を歩いているのだ。

まったくもぅ!!!と思いながらも笑える。

たまには笑いたいから
エツコの自転車の空気入れはそのまま玄関に置いておくことにした。



またしてもコント婆

2021-02-05 00:29:00 | 日記
コント婆。いや、今のテーマで言うならヒリヒリ婆・ミチコ。
彼女はついに婦人科を受診した。

朝食を食べにこないので、ミチコの部屋を訪ねた。
時間をかけてやっとドアを開けた彼女は
入れ歯も入れていなければご愛用のヅラも頭に載せていない。
「ご飯は結構です。なんだか体調がすごく悪いんです」
と、ミチコ。
そりゃそーだろう。
1日に居室と事務所の往復を何十回。
それをここ1週間ずっと続けているのだから
彼女の体力も限界に違いない。

がしかし、今日こそ彼女を婦人科に連れて行ってやる!
職員一同、その思いはブレることがなかった。

案の定、彼女は抵抗する。
「なんで私が婦人科に行かなくちゃならないんですか!?」
「どこも悪くないのに、私を病院に連れて行くんですか!?」

もはや、問答無用。
メンソレータムを隠部に塗り続けたことによって
アナタは毎日、子宮の入り口がヒリヒリする、
どうか病院に連れて行ってくれと訴え続けているのだ。
ならばアナタの望みを叶えて差し上げましょう。

かくして
自分の言動を全て忘れている彼女を半ば強引に婦人科に連れて行ったのだった。

診察結果は明らか。
「あ〜、あ〜、なんでメンソレータムなんか塗っちゃったの?
すっごく炎症を起こしちゃってるじゃない」
呆れた女医は1週間分の膣剤と軟膏を処方してくれた。
「メンソレータムは万能薬じゃないのよ!」
締め括りにそう言い放って・・・。

病院から帰ってきてしばらくは、おとなしかったミチコ。

…アナタは陰部にメンソレータムを塗りすぎたことによって
ヒリヒリという痛みを感じました。
だから今日、病院に行って診てもらいました。
結果、メンソレータムの塗り過ぎがよくなかったと医師に言われました。
明日から毎朝ヘルパーが治療のためのお薬を持っていきますから
どうか安心してください…。

ケアマネ・ショーコが書いたこのメッセージが功を奏したのか?

いいや、ミチコはそんなに甘い認知症ではない。

早くも翌日からミチコの事務所襲撃は再開した。

「あのぉ、お恥ずかしいんですが、子宮の入り口がヒリヒリとして…」
だからね〜。
「あのぉ、婦人科に連れて行っていただきたいんですが」
だからね〜。
「この近くでメンソレータムを売っているところはありますか?」
だからね〜。
「ひどい人ですね。私のメンソレータムを盗んだんでしょ!?返してください!!」
だっからよお!!!(怒)

エンドレスに続く、ミチコとの不毛なやりとり。
ダメだ、ダメだ、私たちの精神が崩壊する。

言葉を尽くしても、メモを取らせても
優しく言っても、強い言葉で言っても
メッセージを書いた紙をバッグに入れても、ドアに貼っても
まったく効果がない激しい短期記憶の欠落。

どうしたらええんや!?(涙)