ちかさんの元気日記

辛いことを乗り越えて元気に生きている私“ちかさん”の
涙と怒りと笑いの介護記録。

ケイコは大物らしい。

2016-05-31 00:21:10 | 日記
激しい認知症で物盗られ妄想のあるケイコは
実は偉い人らしい。
有名な宗教団体の幹部であるということは知っていたが
そんなものではなく、もっともっと偉い人らしい。

先週のことだ。
部屋でテレビを見ていたケイコが言った。
「この人はなかなかの人物でしたね」
誰のことかと彼女の視線を追ってみると
テレビ画面に映っていたのは来日中のオバマ大統領ではないか。

さらにケイコは言葉を続けた。
「きのう、オバマに会ってきました。彼はなかなか優秀ですね」

お~い、お前はいったい何者なんだ!?

話はこれで終わらない。

朝、ニュースを見たせいだろう。
昼食のお迎えに行くと、ケイコがヘンテコな化粧をし
お金が盗まれるからと寝るときも抱いているバッグを斜め掛けして
完璧にお出かけモードである。

あらケイコさん、どちらへお出かけ?

すると彼女は間髪入れずに答えた。
「はい、伊勢志摩サミットに出席してまいります」

お~い、お前はいったいどこまで偉い!?

その発言と表情は
政治に関心を寄せる聡明な老婆のものだ。
しかしその腕に抱えられているのは
彼女が娘のようにかわいがっているフリフリドレスのテディ・ベアで…

このギャップがなんとも痛々しくて
ケイコの顔を見るのがツライ昨今である。



いい人は去り、クソババアは居残る。

2016-05-25 00:12:40 | 日記
どうしていい人は行ってしまうのか。

ヨシエさんはそれは穏やかでかわいらしい認知症のおばあちゃま。
同じ話を繰り返すわけでもなく
妄想によってヒステリックになったり攻撃的になったりするわけでもなく
とぼけた発言で癒し系の笑いを誘う以外は
むしろウチでは数少ないまともな高齢者といえる。

とにかく、ヘルパーたちから愛された。
ヨシエさんのお世話だったら…と
誰もが喜んで彼女の介助を引き受けてくれた。

そんなヨシエさんが、退去するという。

これまで娘さんが毎日のようにやってきては
かいがいしく世話をしてきたのだが
「母さんの面倒はオレが見る」と
財布を握る兄が、強引に自分の家の近くの特養に転居させるよう
話を進めてしまったのだ。

いや、私が―。
いやいや、オレが―。

兄妹で母親の介護を取り合うなんぞ
ウチではお目にかかったことがない。
考えればヨシエさん、なんと幸せな母親だろう。

結局、お金を出している兄が
親の介護という、誰もが人任せにしたい権利を獲得した。

(親の奪い合いと聞いて、はは~ん、これは財産狙いか!?と
勘ぐる人も少なくないだろうが
言っておこう、この場合は断じて違う)

息子とその嫁が喜んで自宅の近くに母親を呼び寄せるのであるから
本来ならめでたし、めでたし!である。
しかし愛すべきヨシエさんがいなくなってしまったら
ウチはどんなに寂しくなることだろう。

退去反対の署名を集めるか!?
プラカードを持って退去を阻止するか!?
そんな冗談交じりの会話を交わすうちに
いよいよ退去の日が1週間後に迫ってしまった。

泣いちゃうよ。私だってきっと、お別れする日は泣いちゃうよ。
これまで入居者の誰が亡くなっても涙を流したことのない私だけれど
今回ばかりはきっと、去り行く姿を黙っては見ていられない。

え~~~ん、ヨシエさぁん!!!

さて、こんなほっこり話に水をさすようだが
ここで登場、性悪女・キワ。

ヨシエさんはキワと同じテーブルで食事をしているのだが
今日、娘さんが退去の話をして
これまでのお付き合いに対してお礼を言ったら
あの性悪女・キワは言ったそうだ。

「あらぁ、特養に行くの?
特養って、貧乏人が行くところなんでしょ?」

あのクソババア~~~!

あとで娘さんからその話を聞き
思わず、エアーで首を絞めるしぐさをしてしまった私。
大切な入居者様であることは百も承知だが
あのババア、勘弁ならねえ。



強運なジイ様

2016-05-22 01:40:42 | 日記
M三郎よ、お前はなんと運のいいジイ様であることか。

これまでも散々、ヤツの困った行動について触れてきた。
夜間、建物内を車椅子で徘徊する。
夜間、照明の消えた食堂で歩行訓練をする。
夜間、「おせんべいなあい?」と事務所を訪ねてくる。
夜間、車椅子でこっそり自宅に戻り家族を困惑させる。
そして日中は、ひたすら寝ている。

ドクターに相談し、何度も薬の見直しをした。
日中の活動量が少ないせいで夜間に徘徊するのかと
アクティビティに参加させる
オプションサービスで散歩の時間を設ける
リハビリを強化する…
考えられることは、すべて実践してきた。

しかし、どれもこれも惨敗!
ヤツの夜更かし癖と夜間の徘徊はどうにも止められず
そのたびに車椅子での転倒を繰り返すM三郎に呆れながら
それでもこれまで一度も骨折は愚か打撲一つなかった彼の強運に
畏敬の念すら抱いていたのだった。

そしておととい。
ヤツはまたしてもやってくれた。

私が夜勤をしていた午後10時。
建物の外にある門のインターフォンが鳴った。
もしもし?
応答はないが、なんだか慌てふためく様子が伝わってくる。
これはただ事ではない!と外に出てみると
車椅子ごと道路に転がったM三郎を
たまたま通りがかった人が起こそうとしているではないか。

夜間でも車の往来の少なくない道路である。
そこで転倒したら
車にはねられてもおかしくない。

それが
たまたまその時刻、車の往来がなく
たまたまジョギングで通りがかった人がいた。

で、ヤツは運よくケガ一つしないで済んだのであった。

私に車椅子を押されながら
「よかったよね~」なんて他人事みたいに言ってる彼に
今回ばかりは説教だ。
おとぼけキャラゆえに愛されてるアナタだけれど
もう堪忍ならねえ!!!

ヤツはその昔、特攻隊に所属していたという。
出陣前の勇ましい写真を見せてもらったことがある。

そういえば、以前ヤツが言っていたっけ。
出陣間際に飛行機が故障して、だから生き残っちゃったんだよね、と。

M三郎よ
お前はつくづく、強運な男なんだねえ。





ミヨは不死鳥

2016-05-16 23:07:18 | 日記
クレイジー・ミヨが、いよいよ川を渡ろうとしている。

ミヨについてはこれまでもたくさん書いてきた。
去年、大腿部を骨折して入院したが
5月に退院してからの1年間だけでも
「ずりずり・・・」(5/9)
「ミヨ、復活か!?」(5/27)
「クレイジー・ミヨ、近況}(7/31)など
多数の作品にご登場いただいている。

(「ずりずり」のときはまだ“クレイジー・ミヨ”ではなく
“お騒がせミヨ”というネーミングだったが)

水をぶちまけたり物を投げてテレビ画面を傷つけたり
非常コールを抜いたり壁をたたいて自らの手にあざを作ったり
奇声を発したりベッドから落ちたり
・・・それはまあ手のかかるオバアチャンで
入院したときは申し訳ないが職員の誰もがほっとしたものである。

ところが退院するや、見事に復帰を遂げたミヨ。
さんざん手こずらせてくれたとはいえ
廃人同様になって帰ってきた彼女の回復を
誰もが喜ばずにいられなかった。

しかし、うわ言のように呼び続けた母親がいよいよお迎えにきたのか
先月の終わりごろからミヨは衰え始める。

大好きなプリンやアイスでさえ
口の端からダラ~と流してしまう日が続いたかと思ったら
ついに熱発。
血圧はそれほど高くないが、脈は驚くほど速い。

成年後見人である弁護士も飛んできた。
いよいよの時は緊急搬送か、それともウチで見取りか。
後見人は言う。
「最期はお世話になったここで…」。

虚ろな目、荒い呼吸を繰り返す口、枯れ枝のようになった身体
その痛ましい姿を見て、誰もが覚悟する。
「大好きだったのに」と、うっすら涙さえ浮かべるヘルパーもいる。

ああ、我が高齢者住宅の名物にして怪物、ミヨ。
もうお世話できなくなるのかと思うと、私も寂しい。

しか~し
点滴の威力とはこんなにもすごいのか。
脱水症状かもしれないと2日間点滴治療を受けたミヨは
今朝から、もう食事をしてもいいと医師から告げられるほど
元気を取り戻したのだった。

もう「時間の問題」と言われる状態でウチに入居し
それからなんだかメキメキと元気になったものの
暴れすぎて骨折、入院。
もうダメだと言われながらウチに戻ってきて
以来、ムクムクと蘇り
そして今回“見取り”の話まで出たというのに
たった2日間の点滴で見事に復活したミヨ。

クレイジー・ミヨ、奇跡の人ミヨ、不死鳥ミヨ。
ああ、90を過ぎたアナタは
いったいいつまで生きるのでしょう。


ますます能天気に・・・

2016-05-14 01:59:14 | 日記
ブログ・ネタの収集には不可欠だが
本当のところ、夜勤なんかしたくない。

オバケが出そうで怖い、とか
眠くて耐えられない、とか…ではない。

自立組を含めて65人もの高齢者を
たった一人で守らなければならないのだ。
そりゃ、心細くないわけがない。

それに、自慢するわけじゃないが58歳である。
休憩もろくに取れない18時間労働はキツく
腰痛、足の痺れもさることながら
夜が明けるころエレベーターの鏡に写った自分の顔を見るのが
怖ろしくて仕方ない。

しかし、だ。
きのう、ふと考えた。

ウチの場合、夜勤は月に5日。年間でいうと60日。
ということは、残りの305日は笑って過ごせるってことじゃないか!?
これって、いいぞ。すごく恵まれた環境だぞ!

きのうで58歳となった私は
ますます能天気に人生を歩むことになりそうだ。