ちかさんの元気日記

辛いことを乗り越えて元気に生きている私“ちかさん”の
涙と怒りと笑いの介護記録。

ケイコ日記ーその15

2018-05-31 00:44:29 | 日記
食べること、オシッコをすること、
いろんなことがわからなくなってしまったケイコではあるが
自分の失敗をごまかすことに関しては
まさに天才である。

今日も、驚くほどの天才ぶりを見せた。

某宗教団体の幹部であるらしいケイコのところには
今も信者たちが会いにやってくる。

「先生、先生」と慕い、敬うその姿に
この人たちの目にケイコの認知症状は見えていないのか?
この人たちは資産家・ケイコの金を狙っているのか?
と、訝る声も少なくない。

でもきっと、おそらくきっと
そこまで慕われるほどに
かつてのケイコは人格者だったのだろう。

今日やってきたのは
中でも一番ケイコが気に入っていた女性である。

その人が来ると、ケイコは本当に嬉しそうで
だからこそ帰ってしまったあとは寂しさのあまり不穏になり
就寝援助を行うヘルパーを困らせること、しばしばだった。

それほど大切な客人が来た今日。
しかし、悲しいかなケイコは彼女のことがわからない。

「先生、お元気でしたぁ?」
手土産片手に満面の笑顔で近寄ってくる相手に対して
思わず、ケイコの目が泳ぐ。

それでもここは毅然と立ち向かおうという本能からか
ケイコは、わかった振りをする。
「ああ、アナタ、きてくださったのね!?」

しかしながら、相手の名前をどうしても思い出すことができない。

どうする? ケイコ。

そこで発揮する、類まれなるケイコの天才ぶり。

傍らにいた私に向かって、突然、ケイコが言う。
「あ、あなた、この方はとても大切な人なの。
だからあなたも自己紹介してくださらない?」

はあ~? なんで私が?
それに私、この方のこと4年前から存じ上げてますよぉ。

だがそこはプロの介護職員。
初めて会ったかのように、自己紹介させていただく。
それを受けて、私とは十分顔見知りの相手も
「私は○○と申します」と、自己紹介してくださる。

すかさずケイコ
「そーなんです。この方、○○さんて仰るんです!」

誰だかわからなかった客人の名前を言い当てる
天才ケイコの認知症ごまかし術である。
天晴れ!


もう新人じゃないんだ。

2018-05-29 23:39:36 | 日記
待望の新人がやってきた。

募集を続けても反応ゼロだったこの数ヶ月。
そこへ彗星のごとく
介護未経験の25歳の乙女が現れたのである。

1ヶ月の研修を経て、きのうがいよいよ夜勤デビュー。
トレーナーは私だ。

日中の仕事は結構なれてきた彼女だが
夜勤ならではの援助を教えなければならない。

たとえばタカシ。
夜間のみ“男巻き”にしている彼のオムツ交換は
初めての人にはちょっと難しいだろう。

そしてパーキンソンのアツシ。
日中は奥様がすべてやってくれているので
1ヶ月の研修期間で
新人が彼の援助を経験することはない。
足がほとんど動かないが排泄はトイレを希望する彼の援助は
至難の業だろう。

1回は、私が手本を示す。
しかしこの新人、なかなか意欲的で
2回目は自分でやってみたい!と言う。

ならば、とやらせてみた。
当然のことながら、うまくできない。
できるわけがない。

そうだよねえ、介護未経験だもの
まだまだ修行を積まないとね。

しかし、そういう温かい目で彼女を見つめながら思った。

私、いつの間にか新人じゃなくなってる!
新人が苦戦してる仕事を
私、普通にこなせるようになってる!

もう4年もやってるんだから
当たり前と言えば当たり前だが
改めて、自分の“経験”を愛おしく思った。

なんだかんだ言いながら
頑張ってきたんだね、私。


アクティブな認知症、ユキエ

2018-05-27 00:10:52 | 日記
前回の夜勤はユキエ・フェスティバルだった。

21:00
警察から電話。近くのコンビニで保護しているという。
私が留守にするわけにはいかないので
帰宅した管理者を呼び戻し
ユキエを迎えに行ってもらう。

日を跨いで午前3:00
ゆうこさんという利用者からコール。
「私の部屋のチャイムを誰かがずっと鳴らしている」という。
防犯カメラのモニターを見てみたら
そこにいるのはユキエだ。

現場に急行!

何をしてるのか問うと
ここに弟夫婦が越してきたから挨拶にきたと、ユキエは嬉しそうに言う。

いやいやいや、違うから。ここはヨソの人の部屋だから。
しかしユキエは納得するはずもなく
最後には「みんな私のことをバカだと思ってるんでしょ!?」
と、キレてしまった。

で、終わりかと思ったら
今度は4:40
1階廊下を歩いているユキエと遭遇。
「お祭りに行ってくるわ!」と、はしゃいでいる。

まだ明け方だからと言っても理解してもらえないので
私も一緒に行くから待ってて!と、とりあえず。
しかし
「だめよ、お祭り終わっちゃうから。私、行ってくる!」
少女に戻ったユキエは聞く耳を持たない。

そんなこんなで、その日のユキエ・フェスは幕を閉じた。

そしてさっき…
夜勤をしている友人のナナミからラインが。

そこにはこうあった。
「ユキエ、今宵も脱走!
いまこの時間、パトカーで護送中です」


母、骨折・入院・混乱!

2018-05-22 22:56:54 | 日記
新潟にいる妹からラインが入る。

第一報は
「お母さんが夜中に転倒して救急搬送された!」

夜中にトイレに行こうとして転んだらしく
痛みに動かすこともできなかったという。

第二報は
「大腿骨、折れてた! 夕方には手術だって」

やっぱりな。
様子からして、折れているに違いないと思っていた。
高齢者あるある、だ。

そして夜、第三報が。
「病院から呼び出しが来た。
お母さん、不安で不安でベッドから降りようとするので
今夜は付き添いをお願いしますって」

夫は出張。
妹は小学生と保育園児の2人の子どもを連れて
泣く泣く病院で一夜を明かすことになったらしい。

母はついこの間、アルツハイマー型認知症と診断された。
元来の極度な心配性に認知症が加わって
病院で大混乱をきたしているのだろう。

同じような例を、たくさん見てきた。
心配性+認知症+骨折
結果、どんなに説明しても説得しても
理解できないどころかますます不安が募って
非常ボタンを連打したり
骨折しているのに立ち上がろうとしてしまうのだ。

ああ、アナタもついにその分野の人になってしまったか。

母は(といっても継母であるが)
姑を看取って以来30年近く、ストレッチを欠かしたことがなかった。

おばあちゃんの介護で学んだの。
年とってから人に迷惑かけないように
身体を鍛えておかなくちゃって。

そう言いながら、寝る前に腹筋や背筋を鍛えていた。

その姿を見て、偉いなあと感心していたのだけれど…。

さてさて
このブログの最多出場者であるケイコは
今やご飯の食べ方もオシッコの仕方もわからないほど
認知症が進んでしまい
いちいち事故報告書を書くのも家族に連絡するのもイヤになるほど
転倒&転倒の日々を過ごしている。

ところが、なぜか骨折しない。

娘さんに聞く限り
90年近くになる人生で健康に配慮したり身体を鍛えたりしたことは
なかったらしいが
それでも、なぜか、転んでも骨が折れない。

二人の老婆を見ていて、悩む。
スポーツクラブで筋力を鍛えるべきか
それとも、そのお金と時間を使って“今”を楽しむべきか。

う~ん。
人生の先輩たちから己の老後を学ばせていただこうと思っていたが
それはなかなか難しいようで。

只今、妹より第四報。
「お母さん、大声で荒城の月を歌うもんだから
大部屋から個室に移されました」

妹よ、頼む!

バアチャンたちが観た「この世界の片隅に」

2018-05-19 00:04:50 | 日記
月に2回の映画上映会。
5月は何にしようかと考えあぐねているところへ
「火垂の墓」が観たいというリクエストを頂戴した。

え、いいの? 
戦争時代の辛い記憶を呼び覚ましちゃうよ?
こちらの勝手な配慮で
これまで戦争関連の作品は避けてきた。
でも、ふうん、観たいんだ。
へぇ~、そうなんだ。

あ、でも、だったらよ
同じ戦争もののアニメでも
去年SNSによる口コミで若者たちに大ヒットした
「この世界の片隅に」は、どーだ!?

私も映画館とレンタルで2回観た。
31歳の息子が「ぜひ観て!」と勧めるほどの感動はなかったが
ま、戦争の悲しさを伝えながらもほんわかと温かくて…
うん、これならジイチャン、バアチャンたちにも観てもらえるかも!

ただし念のため
上映会の告知には「戦争描写があります」と
あらかじめ伝えておいた。
悲惨なシーンに卒倒しかねない高齢者への
せめてもの配慮だ。

そして今日が上映会。
仕事で皆さんと一緒に鑑賞することはかなわなかったので
終了後に何人かのオバアチャンを呼び止めて感想を聞いてみた。

「泣いちゃったわ」
「よかったわ、ありがとう」
と、ハンカチで目を押さえながら話す人も、少しはいた。

しかしそれ以上に多かったのが、批判。

「実際はあんなもんじゃなかったのよ」
「戦争を知っている私たちからしたら生ぬるくて笑っちゃったわよ」

……(苦笑)
あのね、これ、映画ですから。
ドキュメンタリーじゃありませんから。

映画好きな同僚が、こそっと毒を吐く。
「はっ!? そんなにリアルな戦争映画がいいんなら
今度は“プラトーン”でも観せたろか!?」

ははは、同感だ。