ちかさんの元気日記

辛いことを乗り越えて元気に生きている私“ちかさん”の
涙と怒りと笑いの介護記録。

身近にもあった詐欺事件

2019-07-28 23:48:17 | 日記
友人キョーコが、おとといから泣きっ放しだ。

23歳の息子がどうやら詐欺に引っ掛かり
200万円の借金を背負うことになってしまったらしい。

コトの発端は
息子の部屋を掃除しているときに見つけた
690万円の借用書だった。

仕事から帰ってきた息子に問いただすと
それはもう返したから。もう終わったことだから。
と言いながらも目を泳がせ
詳細を聞くとしどろもどろだったという。

さらに翌日
事態を重く見たキョーコが息子の部屋を徹底捜索すると
4社の金融会社から
それぞれ50万円ずつ借りた証拠が見つかった。

いったい息子に何が起こったのか!?

夫の浮気が原因で息子が2歳のときに離婚し
以来、女で一つで息子を育ててきた彼女。
息子に、借金だけはするなと言い聞かせてきたのに…

自分が問いただすと感情的になってしまうからと
昨夜、兄に来てもらって息子に事情聴取する。

そこでようやく明るみになった全様。

息子はネットで知り合った男に誘われるまま
ルールのわからないポーカーゲームをさせられ
その男がつくった借金を肩代わりするよう頼まれて
690万円の借用書にサインしてしまった。

返済日は翌日。
払えないなら金融会社から借りろと
新たに登場した男に脅され
怯えながら金融会社をハシゴしたらしい。

どう考えたって、男たち2人はグル。
しかしそれを見抜けなかったおバカな息子は
まんまと嵌められてしまったようだ。

目を泣き腫らしたキョーコに、かける言葉もない。
「私の育て方が間違っていた」と泣きじゃくる彼女に
自分を責めるなとは言ったが
私がその立場であったら、オンナジことを言って自分を責めるだろう。

オレオレ詐欺をはじめとする詐欺事件が横行する昨今。
結果として子どもに無償の愛を注ぐ母親を悲しませる手口を
許してなるものか、のさばらせてなるものか!

母親を
どうしようもない息子をそれでも懸命に育ててきた母親を
へらへらと笑いながら地獄に落とすお前ら、詐欺師。

お前らに、地獄以上の苦しみを味わわせてやりたい。

<追記>
過激な発言ですが
それほどまでに怒りと悲しみに震えています。
自分は大丈夫、そんな愚かではない。
自分の娘や息子は大丈夫、
そんな愚か者に育てた覚えはないから。
そう考えているなら、ますますご注意ください。


告られた朝

2019-07-22 00:15:20 | 日記
朝ごはんですよ~!

時間の認識がない認知症のユキエ(82)を迎えにいったときのことだ。

やけに色っぽい目をしたユキエが私に言う。
「ねえ、ご主人いるの?」
私は即答。
うん、いるわよ。
「そっか、やっぱりいるんだ。
前から聞こうと思ってたんだけど、なかなか聞けなくて…」

そして次の瞬間、ユキエはとんでもないことを言った。
「私さ、本当はアナタと結婚したかったの」

続けて言った。
「アナタって、背は高いしサッパリしてるじゃない?
男の中の男って感じよね」

こ、これって、告白か!?
いやでも、私の性別はいったい?

黙ったまま部屋から出て一緒に歩き出したユキエ。

うつむきながら一言。
「でもさ、やっぱり女同士の結婚は変よね」

ユキエにとって
私は女なのか? 男なのか?

認知症であるユキエの住む世界を
私はまだ、理解できずにいる。





洋子

2019-07-16 00:55:17 | 日記
体操教室に集まった老婆たちに
参加用紙を回した。

手に障害を持つヨウコは
認知症のサナエ(前回登場)に
自分の名前を代筆してくれるよう頼んだ。

いいわよ、とサナエ。

しかし全員が名前を記入し終わった用紙を見ると
ヨウコが「太子」と書かれている。

おそらく、ヨウコが言ったのだろう。
「ヨウコのヨウは、太平洋の洋よ」と。
それを認知症のサナエが間違って理解し
太平洋の太の字を書いてしまったのだろう。

何がおかしいって
ヨウコはとんでもない巨漢だからである。

ウィッグ婆

2019-07-12 21:43:28 | 日記
サナエが俄かに時の人になっている。

サナエはこのブログ登場頻度が高い認知症オバアチャンで
キッチンの流しに便を捨てて詰まらせる、
洋服を切り刻んで捨てる、
人のご飯を食べてしまうなど
放っておくと何をしでかすかわからない要注意人物だ。

彼女のクローゼットの中がグチャグチャになっているというので
仲良しの同僚・ナナミと片付けに行った。
本来これは家族がやるべきことなのだが
サナエの家族は金だけ払ってまったく来ないので
仕方なく、のサービスである。

整理していたら
奥のほうからカツラが4つも出てきた。
今はウィッグと言うべきだろうが
サナエにはカツラの方がピタリとくる。

なんだぁ、これ!?
サナエが言う。
「ああ、それ、昔かぶってたのよ」
(やはり昔の記憶はある)

真っ黒で艶やかなカツラは
今や白髪となったサナエには似合わない。
しかし
どうする? 捨てる?
聞くとサナエは「とっといて」と答える。

仕方ないのでベッドの上に置いて退出した。
そのうち自分で捨てるだろう。

ところが翌朝
なんとサナエはそのうちの一つをかぶって食堂に現れた。
他の利用者も、食堂のスタッフも
もちろん私たち介護職員も
おそらく全員、その目をサナエに向けたまま言葉が出ない。
やがて、ざわつきはじめる食堂。
自立の利用者たちがひそひそと喋り始める。
「どーしたの、あの人」
「ますますおかしくなっちゃったの?」
「突然、目覚めちゃったのかしら?」
下を向いてくすくす笑う利用者もいる。

ナナミと私は笑いをこらえることができず
走って事務所に戻ると死ぬほど笑った。

あれから2日。
サナエはどうやら
カツラをかぶっている自分が気に入っているらしく
部屋に戻っては別のカツラをかぶりなおして
また、食堂にやってくる。

みんなの好奇の目を賞賛と受け止めているのかもしれない。

サナエの尊厳を守るべくカツラをやめさせるべきか。
いやしかし、これはなかなか面白い。
介護現場にほしい笑いと感動だ。

「みんなが私を見るの」
はにかみながら嬉しそうに笑うサナエ。
しばらくは彼女にスター気分を味わっていただきますか。






妻の痰吸引に絶叫する夫

2019-07-09 23:28:53 | 日記
ウチでは医療措置は行わない。
つまり、痰吸引や胃ろう(お腹に開けた穴から直接栄養を入れる)は
しませんよ!ということで
それは入居時にしっかりお伝えしている。

しかし入居時は元気だった方も身体が衰え
やがてそれが必要となる場合も少なくない。
そうなったら訪問看護を利用する手もあるが
これにはお金がかかるし
いざというときに間に合わなかったりするので
たいがいの場合、他に転居していくこととなるのである。

ところが、勝也(85歳)はどんなに痰が絡まるようになった今でも
ウチで頑張っている。
いや実は、頑張っているのは勝也の妻・恵美子(77歳)だ。

だったら私が勉強して痰吸引をするわよ!
なんと、そう言い出した。

無理だろうと思っていたが
恵美子は看護師の指導によって痰吸引の技術を習得。
先週から、朝であろうが夜中であろうが
勝也が求めれば一目散に駆けつけて、痰を吸引している。
(注:彼女はウチから5分ほどのところに住んでいる)

だがこの恵美子、明るく根性がある分
なんともダイナミック、言い換えれば大雑把な女性であり…

彼女が痰吸引で夫の部屋に入ると
やがて廊下の端まで勝也の悲鳴が響き渡る。

ウゲ、アガ、アガガガガ――――!!!

声帯も衰えて蚊の鳴くような声しか出せないはずの勝也が
全身の力を振り絞って絶叫するのである。

恵美子、いったいどんな痰吸引をしているのか!?

誰もその現場を見たことがないが
想像するだけで恐ろしい。

きのう、朝の援助を担当しているヘルパーが勝也に聞いた。
「奥さんの痰吸引が始まりましたね。どうですか?」

勝也は小さな、小さな、小さな声で
「運命です」
そう、答えたのだった。

ちなみに、恵美子がいつも口にする言葉を伝えておこう。

「介護なんて、いい加減じゃなきゃできないわよ」

天晴れ、恵美子! あなたは正しい。